Facebookの度重なるアルゴリズム変更で、いまのところ頼りない利益しか享受できていないパブリッシャーは、ついに目を覚ました。Googleの検索へ回帰する考えをもちはじめている。タイム社(Time Inc.)やニューヨーク・タイムズは、SEOに特化した編集体制を整え、検索で流入を取り戻そうとしている。
知りたい情報――たとえば「スーパーボウルがはじまるのは何時?」など――に対する検索がもつパワーは、いまだ衰えない。検索エンジン最適化(SEO)のさまざまなテクニックは、まだお払い箱にすべきではなさそうだ。
あらためて検索に注目するパブリッシャーが増えている。その理由は、Facebookの際限ないアルゴリズム変更に振り回されることへの懸念や、GoogleのAMP(Accelerated Mobile Pages)イニシアチブで優位に立ちたいという野望、トラフィックを増やすためにはあらゆる手段を尽くすしかないという認識など、さまざまだ。
タイム社(Time Inc.)は9月、SEOのベテランであるジョン・ホーキンス氏を雇い入れ、全社レベルで検索に注力する新ポスト、グロース担当バイスプレジデントに任命した。健康とフィットネス専門のパブリッシャーであるロデール(Rodale)も、この2年間で検索への配慮を強めている。
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「我々に必要なのは、多様で安定したトラフィック流入を確保し、あらゆる分野でリファラを増やすこと。そうすれば、Facebookによるアルゴリムの変更がトラフィックに影響しても、我々が深手を負うことはない。検索から流入する健全な量のトラフィックを確保しているからだ」と、ロデールCOOのベス・ビューラー氏は語る。
74%も上下するFacebook流入
パブリッシャーはこの数年間、Facebookのトラフィック増幅機能を活用できるよう、コンテンツの最適化に注力してきた。ソーシャル分析企業パースリー(Parsely)によると、Facebookは現在、パブリッシャーへの参照トラフィックの40%近くを占め、Googleとほぼ並ぶ。ただし、Facebookが大きなトラフィック源になったとしても、信頼できるプラットフォームにはほど遠い。
パブリッシャーの分析を行う企業チャートビート(Chartbeat)によると、この1年間、Facebookからのパブリッシャーへのリファラのトラフィックは、最高の月と最低の月で74%の差があったという。ほかにも、Facebookに掲載したコンテンツから生まれる売上が頼りないことや、同プラットフォームによるフィードバックへの対応具合、製品やサービスの変更を通知する方法に不満を抱くパブリッシャーも多い。
「Facebookにはこの1年ほどでいろいろな変化が起きたが、我々はしっかり対応し、訴求力のあるコンテンツを制作するノウハウを蓄積してきた」と語るのは、スリリスト・メディア・グループ(Thrillist Media Group)で編集ディレクターを務める、ベン・ロビンソン氏。「とはいえ、ある場所で減少がはじまっていることに気づいたら、自然とほかに目を向けるものだ」。同社は初のSEO専門チームを立ち上げ、ディレクターのベン・マルジェベック氏をはじめ、新メンバーを雇い入れている。
SEO対策がふたたびトレンドに
SEO専門コンサルティング会社ディファイン・メディア(Define Media)のデジタルメディア担当バイスプレジデント、シャザド・アッバス氏は、検索に対するパブリッシャーの考え方に「大きな変化」が起きていると話す。きっかけは、Facebookがニュースフィード内で、パブリッシャーの投稿よりも友達の投稿を優先するようになったことだ。
その結果、パブリッシャーがニュースフィードへの投稿でトラフィックを獲得することが次第に困難になっていった。アッバス氏は、顧客である大手パブリッシャーが、検索関連のスタッフの雇用を増やし、さらに高いレベルでは編集チームのSEOスキルを確実に向上させることに注力する例も目にしてきた。
「パブリッシャーは、かつては信頼し、予測可能だったトラフィックのソースに対して、大混乱をきたしている」と、アッバス氏は語る。
獲得競争が激化するSEO人材
Facebookは自らが気まぐれなパートナーであることを示したが、モバイル記事の読み込みを高速化するGoogleのAMPイニシアチブも、パブリッシャーに参加競争を煽っている。AMPはページを所定の方法でコーディングし、読込時間を増やしかねない要素を取り除くことを求めるものだ。
こちらでもパブリッシャーは大わらわで、AMPのモバイル検索結果のトップに掲出される目立つカルーセルに、どうすれば自社の記事が確実に表示されるか理解しようとしている。もちろん、AMPとは無関係に、Googleはアルゴリムを常時変更しており、それにも対応しなくてはならない。
ニュースとライフスタイル系のパブリッシャーは一様に、検索で得るもののほうが多いと述べている。「検索は、我々が競争優位性を大いに発揮できる分野だ」と、タイム社のグループデジタルディレクターを務めるエドワード・フェルゼンタール氏は話す。
「検索を操る経験と専門知識で、ジョン・ホーキンス(※先述のタイム社に移籍した)ほどの人材は、当社に皆無だった。ニュースであれ、不朽のコンテンツであれ、我々は検索の方がうまくいくと見ている」。
全社的にSEOに取り組むNYT
米紙「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」は2015年夏、1970年以降のほぼすべての記事をHTML形式で掲載し、従来のPDF形式よりもGoogleに見つかりやすくした。すると、同紙の検索トラフィックはたちまち増加したとオーディエンス開発担当副編集長のジャスティン・バンク氏は振り返る。
「ニューヨーク・タイムズ」の編集作業にはSEO業務も組み込まれた。編集者は、Googleのトレンドを追跡し、ニュースになる大きな出来事の前にキーワード戦略を立て、臨時ニュースがあれば見出しを更新する。
また同紙は、Facebookからのトラフィックが、この2年間に2桁増えたことでも注目を集めた。バンク氏は、「検索からのトラフィックに大いに満足している」と話し、検索とソーシャルを「主要なトラフィック源である、非常に忠実で熱心なダイレクトオーディエンスの補完物」と呼んでいる。
とはいえ検索流入も安心できない
AMPを抜きにしても、Googleの検索をマスターすることは、以前より難しくなっている。Googleはかつて、検索結果に表示されるために必要な要素について、もっと率直であったが、現在は多くの変数が存在する。ユーザーのプライバシーを保護するために特定のキーワードも非表示にしているので、記事に人々を誘導するキーワードをパブリッシャーが特定することが一層困難になっていると、パースリーのCEOを務めるサチン・カンダール氏は指摘する。
「もはや、ブラックハット的な裏技を使って、検索結果の1位になることはできなくなった」。
こうした状況を受けて、スリリストは、あまり明快でない検索クエリの特定を試みることになった。特に注力しているのが、主要な収入源であるフードとドリンクの情報だ。ニュース記事の場合、同社はニュースの周期を確実に活用する方法を模索している。
「誰もが、多くの検索に引っかかろうとしている」と、スリリストのロビンソン氏は語る。「多種多様な質問を抱えた人が大勢いる。だから、ほかにはない内容を含むコンテンツに注力している。使えるテクニックはごく限られている」。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)
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