AT&T は、メディア事業から撤退しようとしているのか?:ワーナーメディアも売却とのウワサ

メディア事業の縮小を検討するAT&Tが、ワーナーメディアの売却も視野に入れているとのウワサが出ている。

赤字に苦しむ通信大手のAT&Tは、1年前にディレクTV(DirecTV)の売却について簡単な調査を行ったが、現在はこの有料TV事業を手放すことを検討していると報じられている。また、9月1日には、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)が、AT&Tはアドテク事業のザンダー(Xandr)の売却も検討していると報じた。AT&Tの広報担当者はコメントを避けた。そのため、AT&Tは次にワーナーメディア(WarnerMedia)を売却しようとするのかという、憶測に基づく明白な疑問が浮上している。

AT&Tが、(ワーナーメディアに改名される前の)タイム・ワーナー(Time Warner)の買収に850億ドル(約9兆円)を費やしたことを考えると、ワーナーメディアの売却は、メディア、広告事業からの大々的な撤退になる。そこで、ディレクTVとザンダー売却の可能性を探ることが、AT&Tがすでに撤退中であることを示す可能性があるふたつの理由について考えてみよう。第1に、2018年5月、AT&TのCEOだったランドール・スティーブンソン氏は、タイム・ワーナー買収は、広告(特に動画のターゲット広告)が目的だと語った。第2に、AT&Tは、ザンダーの基盤として、TV向けとデジタル動画のターゲット広告を扱う独自のプログラマティックマーケットプレイスを開設するために、アップネクサス(AppNexus)を買収し、ワーナーメディアとディレクTVが主要なインベントリー(在庫)ソースとなった。

つまり、AT&Tは、ディレクTV、ワーナーメディア、ザンダーを3本柱にして広告事業を構築していた。現在は、その3本柱のうち2本を取り除こうと検討している。

ワーナーメディアとザンダー

検討されていたディレクTV売却は、ザンダーの買い手を探るきっかけにもなったかもしれない。AT&Tの幹部は、広告のターゲティングや測定に利用される自社の無線通信顧客のデータについて話していたが、ザンダーのアドテクは、AT&Tの有料TVサービス(特にディレクTV)の顧客データに大いに依存していた。「ザンダーにとって、そうしたTVサービスのデータがあることが重要だ。(ディレクTVを)売却したら、ザンダーの足掛かりだったメディアや広告販売用のデータをどう維持するのか?」と、あるエージェンシー幹部は問う。

はっきりさせておくと、ワーナーメディアは自立できたし、おおむね自立してきた。だからこそ、ディレクTVとザンダーを売却しても、AT&Tはワーナーメディアを手放さずに済んだ。だが、ワーナーメディアが自立でき、おおむね自立してきたからこそ、AT&Tはワーナーメディアを売却する可能性があるとも言える。

ワーナーメディアのザンダーとの協力は、ザンダーのCEOのブライアン・レッサー氏が今年に入って会社を去り、AT&Tがザンダーをワーナーメディアに組み込むまで、円滑には進んでいなかった。ワーナーメディアとザンダーは今年に入って、広告バイヤーとの共同ミーティングを積極的に手配するなど、より緊密に協力してきた。だが、エージェンシー幹部によれば、ザンダーが構築してきたサードパーティのインベントリーを扱うより広範なマーケットプレイスではなく、TVネットワークやデジタルサービスなど、ワーナーメディア独自のインベントリーが、依然として広告主の最大の関心の的になっているという。

「マーケットプレイスでほとんど進歩がなくて本当に驚いている」と、2人目のエージェンシー幹部はザンダーについて語った。

来年登場のHBOマックスの行方

来年に登場予定のHBOマックス(HBO Max)の広告付き(AVOD)バージョンは、ザンダーの追い風になる構えのようだ。何と言っても、7月23日の決算発表で、AT&TのCEO、ジョン・スタンキー氏は、ザンダーをワーナーメディアに組み込んだので、「来年にローンチを計画しているHBOマックスのAVODバージョンのような、サブスクリプションと広告の両方に支えられた、ソフトウェアベースのエンターテインメントプラットフォームの構築における前進を加速できた」と語った。

だが、エージェンシー幹部によると、ワーナーメディアは今年のアップフロントの交渉で、HBOマックスの広告付きバージョンを積極的に宣伝していなかったという。「(ワーナーメディアとの)アップフロントでの協議で話題に挙げられたが、詳細があまりわからないので、かなり大まかな内容だった」と、3人目のエージェンシー幹部はいう。

ワーナーメディアが、アップフロントにおいてHBOマックスについて乗り気でないのには、いくつもの理由が考えられる。パンデミックに起因する遅れ、ザンダーの組織改革、HBOマックスの広告付きバージョンのオーディエンス規模をめぐる不透明性、コネクテッドTVの配信をめぐって続くAmazonやロク(Roku)との膠着状態などだ。

エージェンシー幹部は、HBOマックスを宣伝しないのは、オーディエンスの規模が不透明なことと関係があると確信しているという。だが、HBOマックスの広告付きバージョンがオーディエンス獲得に苦戦した場合には、ザンダーがセーフティネットになると思われる。アドテクにより、広告の表示先を変更して、ワーナーメディア独自のサービスや他社のサービスなど、ほかのどこかで獲得できるインプレッションにつなげたり、AT&Tのデータを利用して、広告主が狙ったオーディエンスにリーチするようにしたりできるからだ。

それでもメディアに関わりたいのか

ザンダーなしだと、ワーナーメディアは、ディズニー(Disney)のメディア部門やコムキャスト(Comcast)のNBCユニバーサル(NBCUniversal)のような、ほかの複合企業が所有するメディア企業に似てくる。そうしたメディア企業はますます、リニアサービスやデジタルサービスを結びつけて、メディア事業の柱をストリーミングに変更しつつある。とはいえ、AT&Tがタイム・ワーナーを買収したのは、それが理由ではなかった。広告市場を支配して、Google、Facebook、Amazon、ザンダーのライバルのフリーホイール(FreeWheel)を所有するコムキャストと張り合おうとしていたのだ。

AT&Tが有料TVの配信部門とアドテク事業を売却すれば、なぜ電話会社がメディア事業に参入したがるのか、というタイム・ワーナー買収時に議論の的になった疑問が再浮上する。AT&Tが以前に示した答えは、広告だった。ザンダーとディレクTVを売却すれば、その答えが消え、次の新たな疑問が生じる。電話会社のAT&Tは、それでもメディア事業に関わっていたいのだろうかと。

[原文:As AT&T considers downsizing its media business, whither WarnerMedia?

TIM PETERSON(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:長田真)