アーキテクチャル・ダイジェスト(AD)は、海外市場向けの雑誌を初刊行した。親会社コンデナスト(Condé Nast)が、各国編集チーム間に協力体制を敷く統合的グローバルコンテンツ戦略への移行を続けるなか、同社にとって今年最大のプロダクトとなる同誌には、ADの米国版および9カ国版の編集者が協力して制作に当たる。
2021年、特集記事と動画を世界に向けて初配信したパブリッシャー、アーキテクチャル・ダイジェスト(Architectural Digest:以下AD)は、海外市場に向けた雑誌――年間トップデザイナーおよび建築家を紹介する年刊誌『AD100』――も社史上初めて、12月14日に刊行した。親会社コンデナスト(Condé Nast)が、各国編集チーム間に協力体制を敷く統合的グローバルコンテンツ戦略への移行を続けるなか、同社にとって今年最大のプロダクトとなる同誌には、ADの米国版および9カ国版の編集者が協力して制作に当たる。
この編集協力体制はすでに、『AD100』の新たな特集ザ・ワオ・リスト(The WOW List)も生んでいる。これは世界中の建築家およびデザイナーが作り上げた「ワークス・オブ・ワンダー(Works of Wonder:驚愕の作品)」トップ20を紹介するもので、11月30日、10のオンライン市場(イタリア、中国、フランス、ドイツ、インド、ロシア、スペイン、メキシコ、南米など)すべてで発信されており、ADの紙版にも掲載される。
2021年を通じて、ADは海外市場への進出を続けており、それによりサイトトラフィック数の増加とコンテンツ制作コストの償却に成功している。これまで、ADの海外版は基本的に米国版コンテンツを再利用してきたが、それをあらため、各国編集者に協力を促し、同じコンテンツをほぼ同時期に掲載するようにした。同社は2020年12月、『コンデナスト・トラヴェラー(Condé Nast Traveler)』や『GQ』、『Vogue』を含むさまざまなコンデナストブランドからグローバル編集ディレクター勢を選出し、米および海外編集チームの監督に当たらせるとともに、各国および海外オーディエンスに向けたコンテンツの管理も任せている。
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「ひとつのグループとして作業にあたり、重要な特集記事を世界に向けてオンライン同時配信したことで、大きな成功を収めた。次はその知見を紙媒体に応用する」とADグローバルエディトリアルディレクター、エイミー・アストリー氏は話す。「今年、ごく自然な流れとして、グローバルブランドとして初めて、10の各市場で本格的なエディトリアルコンテンツに取り組めた」。
ADのデザイン業界プロ向け有料メンバーシッププログラム、AD PRO(ADプロ)の会員に占める非米居住民の割合は5人に1人以下(正確には17%)だと、アストリー氏は話す。AD PROの会員総数について、コンデナストは開示を拒んだ。
米不動産仲介ネットワークサービスであるバークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)のホームサーヴィシズ(HomeServices)と仏ハイジュエラー、ヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)がデジタル版『AD100』のスポンサーになるとともに、1月発売の紙版にもほかの広告主と並んで広告を出稿する。それらブランドの広告費について、コンデナストは開示を拒んだ。
国際網を通じて出版
ADは2021年、特集記事を各国の言語に翻訳し、米国および海外ウェブサイトで配信する国際的「ドロップ」を試行し、サイトトラフィック数増に成功した。編集者らは協力して「各国読者の目を奪う特集を同定し、それらを世界同時に発信するべく、グループとして緊密に連携した」と、ADグローバルデジタルディレクターのデヴィッド・カウフマン氏は話す。「市場の違いを越えて世界のオーディエンスにどんなコンテンツが響くのか、それを学べるのは興奮以外の何ものでもないし、だからこそ自らのアプローチの洗練に引き続き勤しめる」。
デジタルの成長は、なかでもメキシコ、インド、イタリアで顕著であり、コンデナストの広報によれば、10月の月間ユニーク訪問数はそれぞれ前年比152%、83%、23%の伸びを見せた。
2021年1月、ADはまずAD.comの特集「ザ・ワン(The One)」で世界配信を試し、フランス、ドイツ、インド、スペイン、イタリアのADサイトに同時掲載させた。するとこれが、それらの市場の大半において1日でもっとも読まれた記事となり、米サイトでのエンゲージメント時間は130万分に上ったと、同社広報は話す。米デジタル市場分析会社コムスコア(Comscore)の調査によれば、同サイトの月間ユニーク訪問者数は1000万人に達し、1月から10月の月間平均数800万を上回った。
ADは人気動画シリーズ「オープン・ドア(Open Door)」についても、インドでの配信成功を受けて、さらに多くの市場に広げていくと、アストリー氏は話す。ADインドの『スタイル(Style)』9/10月号に、同社は初めて「オープン・ドア」動画を導入し、インド映画界、通称ボリウッドの人気女優ソーナム・カプール氏の自宅を覗き見させたところ、動画再生数がYouTubeで420万回、Facebookで700万回に上った。
海外展開によるコスト削減
結果的に、この海外展開はコスト削減にも寄与している。コンデナストは2020年、大量解雇と減給を余儀なくされたことを受け、2019年からCEOを務めるロジャー・リンチ氏は現在、収益増に向けた舵取りに勤しんでおり、同社は伝統的な紙媒体から、多様化した、デジタルを中心とする事業への着実な移行を続けている。
「コンデナストを国際的な特集記事を擁する国際的ブランドとして再編成することで、経費を抑えられる、つまりコスト削減につながるし、広告主も同じ理由で満足している」と、コンサルティング会社クオンタム・メディア(Quantum Media)の代表エイヴァ・シーヴ氏は指摘する。「コスト面から見ても、収益面から見ても、理に適っていると思う」。
コンデナストブランドの大半は「米市場に向けて豪華な広告の付いた豪華なコンテンツ」を制作しており、「それは以前から海外市場でも同じだった」とシーヴ氏は言い添える。「これはつまり、リスクが異常に高いわけではないことを意味する。広告主はすでに付いているからだ」。
アストリー氏は7月、ライターひとりを「ザ・ワン」の特集記事に取り組ませ、それをADの各国版編集部に送れば、コンテンツ制作費の削減につながると語った。「各ブランド用に合計10の異なる特集を組むよりも、ひとつを共有するほうがはるかに安く上がるのは明らか」と、氏は米DIGIDAYのポッドキャストで発言している。
現在、AD PROの有料会員の海外市場に占める割合が圧倒的に低いことを考えると、「彼らはおそらく、米国発以外の特集記事を発信することで、他市場からの会員獲得を狙っている。それもこの海外展開の理由だろう」とシーヴ氏は分析する。ただし、「同戦略には課題もある。そうした国際的視点に関心のあるオーディエンスを十分に」見つけられるかが鍵だと、氏は言い添える。
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU