Appleは、IDFA関連のアプリプライバシーポリシーの変更実施前に短い猶予期間を提供したかもしれない。だが、最新の「iOS 14」アップデートにはほかにも、パブリッシャーの広告ビジネスをさらに混乱させる可能性をはらむ、2つの新しい驚きのアンチトラッキング機能が含まれていた。
Appleは、IDFA(Identifier For Advertising)関連のアプリプライバシーポリシーの変更実施前に短い猶予期間を提供したかもしれない。だが、最新の「iOS 14」アップデートにはほかにも、パブリッシャーの広告ビジネスをさらに混乱させる可能性をはらむ、2つの新しい驚きのアンチトラッキング機能が含まれていた。
2020年9月16日に公開された新アップデートで、Appleのインテリジェント・トラッキング・プリベンション(Intelligent Tracking Prevention:以下、ITP)機能──Safariブラウザでクロスサイトトラッキングをブロックするための機能──が、すべてのブラウザでデフォルト設定で「有効」に切り替わった。Appleはさらに、比較的新しいITP回避策を反映する変更も出す予定だ。
この件についてAppleにコメントを求めたが、反応はなかった。
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今回の更新は、Chromeにも影響が
ブレイブ(Brave)やFirefoxのようなApple製でないブラウザの多くがすでにアンチトラッキング機能を搭載しているが、今回の新アップデートは世界でもっとも普及しているブラウザ、GoogleのChromeにも影響を与えそうだ。Appleはまだ、この機能が有効化された場合でもサードパーティCookieの使用を認めてしまうことにつながるいくつかの問題の修正作業をしているが、iOSやiPad OS上で動作するすべてのブラウザで、2020年末までにITPが有効になる。
ネットマーケットシェア(Netmarketshare)によると、Mac OSユーザーの55.2%がChromeを利用しているが、そのシェアはiOSブラウザ市場の4.9%に過ぎないという。iPhoneユーザーの大多数に当たる93.1%は、AppleのSafariを選択しているのに対し、ウェブの閲覧にAppleのブラウザを使っているMacユーザーは37.9%に留まる(デスクトップ・オペレーティングシステム市場におけるMacのシェアは9.4%しかない)。Mac OS上でITPの影響を受けるのは、現在のところSafariだけだ。時期バージョンのMac OSで、iOS/iPadOSアプリとの互換モードを特徴とする「ビッグサー(Big Sur)」は2020年後半にリリースされる予定だが、そのなかでは、互換モードで動いているアプリがITPの影響を受けるだろうと、データ企業サーチ・ディスカバリー(Search Discovery)のプラットフォームエンジニアであるコーリー・アンダーウッド氏は指摘する。
Appleの最近のプライバシーアップデートがすべてそうであるように、ITPの厳格化は、Appleのデバイスを使ってパブリッシャーのウェブサイトを訪れる利用者について得られる情報が減ることになり、パブリッシャーの売上げにマイナスの影響をもたらすことになりそうだ。
「お金はどこかよそへ移動している」
カフェメディア(Cafe Media)の最高戦略責任者(CSO)を務めるポール・バニスター氏はこう話す。「パブリッシャーへの影響は、そのサイト上での各OSのシェアに左右される。これは間違いなく、影響を予測し測定できるようにするために各パブリッシャーがそれぞれのオーディエンスについて理解すべきデータポイントだ」。
アドテク企業のインデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)によると、2017年にITPが導入されて以来、SafariユーザーのCPMは約60%減少しているという。
インデックス・エクスチェンジの最高経営責任者(CEO)であるアンドリュー・カザーレ氏は、それから3年が過ぎたが、Safariでの広告のレートはまだ改善していないと言い、Appleデバイス上でのChromeのパフォーマンスが同様になるなら、そのユーザーのサブセットでもCPMは同じレベルにまで落ち込むだろうと付け加える。
カザーレ氏は、「マーケターは(まだ)お金を使い続けているし、予算も増やしているが、その予算をただオープンウェブで使っているわけではない。彼らはそのお金を持って(ウォールドガーデンに)移行している。こうした変化が起こったとときが怖い。問題は、使われなくなってしまったお金ではなく、どこかよそへ移動していることだ」と話す。
クリテオやアドビにも大きな影響が
現時点で日付は特定されていないものの、今年の後半にAppleは、パブリッシャーやアドテク企業がITP回避策として使っているある技術を阻止するとも見られている。CNAMEクローキング(CNAME cloaking)と呼ばれるこの技術は、クリテオ(Criteo)やアドビ(Adobe)のようなベンダーが、Appleが彼らをサードパーティトラッカーとして扱うことを回避する方法だ。代わりに、そうしたベンダーは、ITPによって制限されるCookieを1週間存続させられるようになる。
仮説の例をあげると、解析を行っているアドテク企業──AnalyticsRUs──が広告クライアント──AwesomeShoes──を自社のサブドメインに追加する。この例では、Analytics.AwesomeShoes.comがAnalyticsRUsにマッピングされ、クロスサイトトラッキングをすることが可能になる(広告とは関係なくCNAMEを使いたい理由もある。たとえば、AwesomeShoesがブログサイト──blog.awesomeshoes.com──をawesomeshoes.wordpress.comにマッピングしたいときなどだ)。
Appleのほかのプライバシーに関わる変更と同様に、パブリッシャー、そして、小売業者のようにウェブトラフィックに依存する企業にとって、マイナスの影響が出る可能性はある。そのなかには「アトリビューションや測定、キャンペーンのパフォーマンス、リテンショントラフィックの統計に関して正確さの喪失」が含まれる、とアンダーウッド氏はいう。「最適化プラットフォームはトラフィックを頻繁に再セグメント化する可能性があり、結果として、同じ顧客を複数の実績とみなしてしまう」。
マーケティング効果測定プラットフォーム「アドエビス(AD EBiS)」を提供するイルグルム(YRGLM)の研究・開発担当エンジニアであるアントワーヌ・ブルロン氏は、現在CNAMEを用いているベンダーは、検知がより困難なタイプのドメイン名システムに切り替える、あるいはサーバーサイドのプログラムを使ってCookieをより持続させるようになると予測する。
だがそれでは、また別のイタチごっこが始まるだけのことになるだろう。
「(ログイン情報の保存以外の)すべてのCookieの寿命がITPによって制限されるまでの1~2年のあいだは、これが機能するかもしれない」と、ブルロン氏は語る。
Appleはこの動きを止めない
カフェメディアのバニスター氏は、過去の歴史に照らして考えるならば、Appleは、プライバシーに関する問題を課題に据え続け、広告トラッキングメカニズムを規制する動きを止めないだろうという。
バニスター氏はパブリッシャーにこうアドバイスする。「数字をよく見て、モバイル版のChromeとSafariの違いが何かを理解することだ。そして、『パブリッシャーとして素晴らしいコンテンツを作っているが、これによって被害を被っている』という具合に、これが自分にとって悪い状況をもたらすものであるという事実を声に出して言うことだ」。
[原文:Apple’s latest anti-tracking changes present fresh headache for publishers]
Lara O’reilly(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU
※記事公開後、一部誤記を修正しております。