講談社は10月3日、Amazonの電子書籍読み放題サービス「キンドルアンリミテッド(Kindle Unlimited)」における、講談社作品の一方的な配信停止に対して、プレスリリースで抗議声明を行った。両社への取材、および各メディアの報道を通し、電子書籍ビジネスの未来を探る。
講談社は10月3日、Amazonの電子書籍読み放題サービス「キンドルアンリミテッド(Kindle Unlimited)」における、講談社作品の一方的な配信停止に対して、プレスリリースで抗議声明を発表した。同サービスに1200冊以上登録されていた講談社の作品は、9月30日以降、突然に除外されたという。
Amazonの「キンドルアンリミテッド」は、月額980円で小説やマンガ、雑誌など約12万冊と洋書120万冊の電子書籍が読み放題となるサービス。8月3日にローンチした同サービスには、講談社を含む多くの大手パブリッシャーが参加していた。
定額制の電子書籍読み放題サービスは、競合他社を含め大きな注目を集めている。とはいえ、作品の囲い込みに勢いがつきすぎたのか。書籍の版元にとっても配信プラットフォームにとっても、そのビジネスモデルを確立するには避けて通れない課題に直面しているようだ。
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ことの経緯と両社の言い分
講談社広報によると、サービスへの参加から1週間後(8月10日前後)に、提供作品のなかでも人気があった女性グラビア誌など17作品が配信停止になっていたという。それ以降、同社は作品の著者に説明ができないとし、Amazonに約1カ月半抗議を続けていた。ところが、9月30日、同出版社の提供作品すべてが配信停止となる。
このように配信停止されるケースは、ほかのパブリッシャーにも見られるようだ。フリーライターの鷹野凌氏のサイトでは、光文社や小学館など、その他多数の出版社作品も「キンドルアンリミテッド」上で配信停止されていることを指摘している。
講談社広報室室長の乾智之氏は、DIGIDAY[日本版]の電話取材に対し、「配信の一方的な停止に対しては強く抗議する。それとともに、原状復帰を求めて話し合いを続けていきたい」とコメント。今回、抗議声明をプレスリリースしたことについては、他出版社の状況と比較したわけではなく、同社独自の判断で公式に抗議するに至ったと語る。
加えてDIGIDAY[日本版]は、Amazonにも電話取材を行った。同社広報からは「個々の取引関係に関わることについてはコメントは控える」と回答を得た。
他メディアによる報道
配信停止の理由について朝日新聞デジタルは、8月31日の記事で以下のように報道した。
サービス開始に合わせて多くの書籍をそろえようとしたアマゾンが、出版社に配分する利用料を年内に限って上乗せして支払う契約を締結。しかし想定以上の利用が続いて負担に耐えきれなくなり、利用が多い人気本をラインアップから外し始めたとみられる。
また、ジャーナリストの津田大介氏、西田宗千佳氏らが出演した10月5日放送のニコニコ公式生放送「Amazonの電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」は今後どうなるのか?」では、現役出版社社員という平田氏(仮名)がAmazonの実情を暴露。それを報じたねとらぼの記事では、次のように表現されている。
現役出版社社員の平田氏(仮名)は、あくまで伝聞だとしつつも、「最初の1週間でAmazonが用意していた1年分(8月スタートなので実質5カ月分)の予算が消えた」とコメント。単純に考えれば、5カ月(23週間)分の予算が1週間で消えたわけですから、想定の20倍以上のスピードで予算が吹っ飛んだ、という計算になります。
定額制電子書籍ビジネスの長所短所
Amazonをはじめ、楽天の「楽天マガジン」、NTTドコモの「dマガジン」など、定額制の電子書籍読み放題サービスは複数存在する。だが、そのサービス体系において、果たしてプラットフォームとパブリッシャー両社のマネタイズとそのバランスを維持することは可能なのか。
本が売れない時代に出版社は、作品の新しい形のアウトプット方法を模索している。Web上での作品配信は製作コストを大幅に削減でき、紙媒体よりも圧倒的な読者へのリーチを獲得できるチャンスがある。とはいえ、定額制読み放題である限り、上乗せ課金やダウンロード数によって実利を出すためには、ヒットする作品を多く配信しなければならない。プラットフォームも安い月額加入料で読み放題といっても、作品数が充実していなければ、自ら配信本数を縮小する事態となり、ビジネスとしてサービスの体系を維持することは容易でないことが、今回の件で露呈した。
Amazonには多くのアカウント会員がすでにいることもあり、会員にサービス利用してもらうことには成功している。ところが、そのサービスの維持に耐えかねたようにみえる今回の事態は、読者が読みたい作品を購入できないという影響も及ぼしている。電子書籍の欠点のひとつは、サービス側がタイトルの配信を停止してしまうと作品を読めなくなる点だ。作品数が限られるプラットフォームにユーザーは魅力を見出さないだろう。
電子書籍ビジネスの行く末
しかし、長期的に見れば、定額制読み放題サービスは、プラットフォームがデジタル世界においてより巨大なパワーを得るための土台作りといえる。事実、予算設定に誤算があったにせよ、今回の一件で電子書籍には大きな需要がまだあることが判明した。
会員制なためリッチなデモグラフィックデータをすでにもっているプラットフォームが、定額制読み放題サービスでさらなるユーザーデータを手に入れば、新しいビジネスモデルが花開く可能性もある。デバイスで電子書籍のページを捲っているときに、高度にターゲティングされた広告を目にする日がくるかもしれない。
Written by 中島未知代
Image from Thinkstock / Getty Images