4月24日、アマゾンは「Subscribe with Amazon(サブスクライブ・ウィズ・アマゾン)」を発表。これを利用すると、パブリッシャーはじめデジタルクリエイターは、Amazon上でデジタルサブスクリプションを直接ユーザーに販売できる。読者の立場では、アマゾン経由でWebサブスクリプション可能になる。
Amazonはひそかに広告販売へ進出してきた。そして、次に手を伸ばすのが、サブスクリプション事業だ。
同社は4月24日、新プログラム「Subscribe with Amazon(サブスクライブ・ウィズ・アマゾン)」を発表。これを利用すると、パブリッシャーをはじめとするデジタルクリエイターは、Amazonのプラットフォーム上でデジタルのサブスクリプションを直接ユーザーに販売できる。読者の立場からすると、パブリッシャーのWebサイトでサブスクライブ(有料会員登録)する代わりに、Amazonサイトや同アプリから、直接メディアのサブスクリプションサービスを購入できるようになる。
同プログラムのトライアル版は2017年8月のローンチを予定している。提携先としては、大手メディアの「ニューヨーカー(The New Yorker)」「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal:WSJ)」「シカゴ・トリビューン(The Chicago Tribune)」や、デジタルメディアの「スリングTV(Sling TV)」「クリエイティブバグ(Creativebug)」「ヘッドスペース(Headspace)」などのメディアの名が挙がっている。デジタルプロダクトをサブスクリプション方式で販売していて、米国に拠点をおくメディアを対象に、申請の受付がはじまっている。
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需要高まるサブスクリプション
売上のうちAmazonが手にする手数料は、1年目が30%、2年目以降は15%となる。この条件はAppleのApp Storeと同じで、1年目からずっと15%のGoogle Playとも大差ない。大半のパブリッシャーは多少なりともプラットフォームに恐れや嫌悪感を抱いているものの、新聞売場や書店が減り続けるなか、高まるサブスクリプションのニーズに応える、新たな売り手が登場したことになる。
「パブリッシャーはかなり前から、サブスクリプションの販売経路を探してきた」と、FTIコンサルティング(FTI Consulting)で通信およびメディア分野を専門とするシニアマネージングディレクターのブルース・ベンソン氏は指摘する。「巨大企業が相手だと、間口の広さと引き換えに法外な手数料を課されるのではという懸念がある。だが、Amazonは市場の競合他社の額に合わせてきた」。
雑誌媒体に関していえば、Amazonは以前からサブスクリプション販売に取り組んでいる。雑誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク(Bloomberg Businessweek)」は、長年にわたりAmazonで有料購読を販売している。Subscribe with Amazonのトライアルパートナーに名を連ねるニューヨーカーは、かつてAmazonのタイムセールを利用して購読者数を伸ばした。
また、「ニューヨークマガジン(New York Magazine)」の広報によると、同誌の有料購読者に占める、サードパーティープラットフォームからの購読の割合は「比較的小さいが増えている」という。デジタルマガジン購読サイト「テクスチャー(Texture)」はその一例だ。
Subscribe with Amazonの開始により、eコマース大手のAmazonは、パブリッシャーが読者にデジタルサブスクリプションを直接販売できる第3の巨大プラットフォームとなる。ほかの2つ、GoogleとAppleは何年も前から、それぞれのモバイルマーケットプレイスでアプリ販売を実施してきた。Apple Payに対応するパブリッシャーも増えており、タイム社(Time Inc.)やニューヨーク・タイムズなどは、有料購読の決済におけるシェアを徐々に伸ばしつつある。
このタイミングとなった理由
Amazonは、GoogleやAppleほど人々の日々のモバイル体験の中心にあるわけではないが、やはりデジタルライフの大きな部分を担っている。eコマース分野の新興企業ブルームリーチ(BloomReach)によると、米国のインターネットユーザーの55%は、オンラインで買い物をするとき、最初にAmazonへアクセスするという。また、Amazonのタブレットデバイス「Fire」は、米国タブレット市場の約6%までシェアを伸ばしていると、「ビジネスインサイダー・インテリジェンス(Business Insider Intelligence)」は伝えている。
Amazonにアクセスして、WSJやグルメ誌「ボナペティ(Bon Appetit)」のデジタル購読を申し込む人の具体的な数字は、明らかにされていない。今回の記事のためAmazonに連絡したが、コメントは得られなかった。とはいえ、Subscribe with Amazonで販売されるサブスクリプションは、プログラム開始と同時にAmazonのおすすめ商品としても提示される予定だ。なお、この記事で取材したトライアルパートナーもコメントを避けたため、どれだけ売上増加が見込めるかははっきりしない。
Subscribe with Amazonは、多くのパブリッシャーがサブスクリプションモデルに軸足を移しつつあるタイミングでリリースされる。多くのパブリッシャーがサブスクリプションの急増から恩恵を受け、有料コンテンツに対する読者のニーズが高まり続けていることで、まだペイウォールを設けていないパブリッシャーもサブスクリプションの検討をはじめている。
それぞれの競合の動き
メディアのサブスクリプションに対する優先順位が高まってきたことから、FacebookとApple Newsは現在、パブリッシャーが読者からの購読契約をより容易に獲得できるよう改良を進めている。
パブリッシャーにとって、15%の手数料は理想的とはいえないだろうが、オーディエンスの増加が埋め合わせになる。最後に、「オンラインのプラットフォーム経由で購読契約する人々は、従来の読者層とは異なる傾向がある」と、メディアコンサルタント企業クオンタムメディア(Quantum Media)の社長、クリスティーン・アーリントン氏は指摘した。
Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)
Image by 米DIGIDAY