OTT事業者にとって「重要度」増す、Amazonプライム:「ビジネスにはもってこいの場所」

オーバー・ザ・トップ(OTT)のストリーミングチャンネルを有するテレビ局が、サブスクライバーを獲得するうえで、Amazonが大きな原動力となっている。だが、Amazonがテレビネットワークとオーディエンスのあいだで重要な役割を担うなか、ネットワーク側はこのテック系大企業に実権を譲ってしまっていることに対して、大きな不安を抱いてはいないという。

2015年末に立ち上げられたAmazonプライムビデオチャンネル(Amazon Prime Video Channels)のプログラムのおかげで、OTTのストリーミングチャンネルを有するテレビネットワークや動画のパブリッシャーは、Amazonのプライム会員に向けて番組を配信できるようになった。現在このプログラムは、アメリカ国内で160、全世界で260のチャンネルを持っているが、そのなかにはHBOやショータイム(Showtime)、スターズ(Starz)やCBSといった著名なテレビ番組の制作元も含まれる。Amazonのプライム会員は、別料金を支払うことで上記企業のストリーミングチャンネルを追加できる。

プライム会員のうち、どのくらいの人数がプライムビデオチャンネルを利用しているかについては明らかになっていないが、ネットワーク側ではサブスクライバーが増加するという恩恵を受けている。ディフュージョングループ(The Diffusion Group)の最近の調査によると、プライムビデオチャンネルは、直販の動画サブスクリプション全体の55%を占めているという。プライムビデオチャンネルで番組を配信している2社のアメリカの主要なテレビネットワークの情報筋は、Amazonがサブスクライバー数増加の最大の要因であったことを認めてはいるものの、このTDGの調査結果に対して、そこまでの数ではないと反論した(別のテレビネットワークの情報筋が米DIGIDAYに語ったところによると、Amazonがサブスクライバー全体に占める割合は、25%から45%の中間くらいだという)。

実際のパーセンテージはともかく、AmazonがOTT動画配信において重要な存在になっていることは明らかだ。

Amazonは「手っ取り早い」

ネットワーク側にとって、100万人を超えるプライム会員を抱えるAmazonの最大のセールスポイントは、手っ取り早く膨大な数の新規顧客にアクセスできるところにある。プライム会員であれば、数回のクリックで好きなだけチャンネルを追加できるし、料金もすべてAmazonが管理してくれる。

HBOやCBSのように大きなリソースを持たない小規模な動画制作会社にとって、これは魅力的だ。「サブスクリプション型の動画サービスを立ち上げるのは難しい。我々は、650強の種類のデバイスを通じて、プレミアムな動画コンテンツを探している何千万人もの会員に対して、パートナーのサービスが目に触れるように手助けをしている」と、アメリカのプライムビデオチャンネルのプログラムを率いるリッチ・アウ氏は語る。「我々はまた、数多くのストリーミング動画体験を提供できるし、料金請求やカスタマーサービスの管理も行なっている」。

長年NBCU(NBCUniversal)などでプロデューサーを努めてきたテレビ業界の幹部、エバン・シャピーロ氏によると、いまはなきNBCUのコメディ番組のストリーミングサービスであるシーソ(Seeso)の運営初期の頃には、プライムビデオチャンネルがサブスクライバー全体の60%から70%を占めていたという。シャピーロ氏が2017年5月にNBCUを去ってからも、シーソのサブスクライバーのおよそ40%をAmazonが担っていた。

「Amazonは、大きな技術投資をすることなく(オンデマンド動画のサブスクリプション)ビジネスをはじめるにはもってこいの場所だ」と、シャピーロ氏。Amazonのアウ氏はまた、パートナーのなかには、自社開発のストリーミングアプリを提供する以前から、プライムビデオチャンネルでの公開に踏み切ったものもいたと語る。

プライムビデオチャンネルは、すでに自社でサブスクリプション型のストリーミングサービスを提供している企業にとっても有利な面が多い。250万人以上のサブスクライバーを抱えるCBSオールアクセス(CBS All Access)は、プライムビデオチャンネル内では比較的新しいチャンネルだが、CBSインタラクティブ(CBS Interactive)の社長兼COOのマーク・デボワース氏によると、サブスクライバー数の増加や動画消費を促進するうえで、CBSはこのプログラムに満足しているという。

「我々が放送をはじめたのは2018年1月の最初の週からだが、第1四半期の売上やサブスクライバーの増加への貢献には、凄まじいものがあった」と、デボワース氏は語る。「長い付き合いになるだろう」。

マーケティングのサポート、低い解約率

Amazonメディアグループ(Amazon Media Group)の代表者を通じて、Amazonはチャンネルパートナーに対してマーケティング支援を行なっており、これもパートナーにとっての魅力のひとつとなっている。

プロモーションのほとんどはAmazonのエコシステム内で行われるが、これにはファイヤーTV(FireTV)端末や映画データベースサイトのIMDb.comへのバナー広告やプレースメント広告の掲載が含まれることもある。複数の情報筋によると、Amazonは少なくとも主要なネットワークに対しては相応の広告スペースの確保と予算投入を行い、そのチャンネルや番組のマーケティングの支援を約束しているという(シャピーロ氏によると、Amazonのプラットフォームでシーソのサービスが公開された際には、Amazon側で200万ドル[約2.2億円]相当の広告投資が約束されたという)。

ショータイム・ネットワークス(Showtime Networks)で配信部門のEVPを務めるケン・ケイ氏は、「我々にとってAmazonは重要なOTTパートナーだ」と語る。「プライム会員向けのマーケティングをきちんとしてくれて、ショータイムのお気に入りの番組の放送時間を通知してくれるので、既存ユーザーにとっても、新規顧客の獲得にとっても最大限の機会を与えてくれている」。

「(プライム)会員にリーチして、我々の番組を宣伝できるというのはAmazonだからこそできることだ」と、CBSのデボワース氏も語る。「ここにAmazonの真の価値がある」。

また、情報筋によれば、Amazonには「移り気の多い顧客」が少なく、ネットワーク側の自身のストリーミングアプリでの解約率と比べて、およそ25%優れているという。

オーディエンスデータの提供は限定的

いまや、あらゆる規模のメディア企業はひとつの特定のプラットフォームに依存しすぎることが危険だということを知っている。テレビネットワークでさえそれを重要視している。Netfilx(ネットフリックス)に番組をライセンスして、そのライセンス料がもらえれば満足という者が多いが、これはNetfilxがグローバルな配給元として、従来のテレビの脅威となる競合相手としての成長を促した。Amazonが膨大な数の会員を集めていることもあり、チャンネルのパートナーは、顧客との関係管理の権限をAmazonに与えすぎることに対して、密かに不安を募らせている。

「(Amazonでの)会員は、我々自身が運営管理しているプラットフォームに属しているわけではない」と、プライムビデオチャンネルのパートナーであるアメリカの主要なテレビネットワークの幹部は語る。「もちろんAmazonからは大きな利益を得ている。だが、我々自身のサービスの運営で得られる額ほどではない」。

また、Amazonは会員がどのチャンネルをサブスクライブして、どの番組を見ているか、という情報を与えてはくれない。メディアパートナーは、eメールや年代・地域別のサブスクライバー層の分析結果、そして彼らがチャンネルで何かを視聴する前後のAmazonでとった詳細な行動に至るまで、さまざまな情報を得たがっているという。

これを不公平だと主張するものもいるが、こうしたサブスクライバーはそもそもAmazonのプライム会員であり、従来のテレビの配信元がこれまで提供していたような、テレビのオーディエンスに関する情報とは異なる、というのがその主張の根拠の一部となっている。

「コムキャスト(Comcast)は、購入プロセスの詳細すべてを知られることを望んでいない。企業秘密なのだ」と、このアメリカのテレビネットワークの幹部は語る。「これこそが、こうしたサービスがデータやオーディエンス管理の権限を保持しようと奮闘している理由だ。彼らにとってはそれがすべてだ」。

多彩な配信オプション

プライムビデオチャンネルだけでなく、ライブ映像のストリーミングサービスや、Apple TVやロク(Roku)などのプラットフォームでの直販型のストリーミングアプリがさらなる成長を続けているなか、ネットワーク側としては、Amazonやどこか別の、ひとつのプラットフォームに頼りすぎることをあまり気にしていない。

「結局のところ、我々は視聴用の端末の製造元を所有しているわけでもないし、ハードウェアも持っていない。だが、形はどうあれ、そうした端末の画面上では存在感を示す必要がある」と、デボワース氏は語る。「そして最終的には、パソコンのブラウザ、iOSアプリ、スマートテレビのプロバイダなど、ほかのプラットフォームやハードウェアを網羅しなければならなくなるだろう。私の見解では、Amazonもそのなかのひとつだ」。

デボワース氏によると、さまざまな視聴方法やプラットフォームがあるなかで、CBSオールアクセスのサブスクライバーの大多数は、ダイレクトにアプリを選んでいるという。また、自社アプリでの売上がCBSの収益の大きな割合を占めているなかでも、Amazonやその他の配信元に関するデボワース氏の見解は揺らぐことはない。彼らが提供するマーケティング、カスタマーサービスや決済の管理には、その費用に見合った価値がある。

「我々は、あるひとつのプラットフォーム向けのコンテンツに、我々自身のものを含め、ほかの別のプラットフォームと比べて極端に多く、または少なく注力するということはない。我々のためにしてくれることに対するコストに関わることだが、実際我々が得られる利益は、どのプラットフォームでもだいたい同じようなものだ」と、デボワース氏は語る。「もちろん、我々と直接話をしてくれるのがベストだ。我々のプラットフォームは完璧だ。ほかのすべてのプラットフォームは、完璧というにはどこか一歩足りていないが、それは我々が必要としているもの、役に立つものにほかならない。そしてAmazonも、こうしたほかのプラットフォームと同じだ」。

Sahil Patel(原文 / 訳:Conyac