ファーストパーティデータ 開示要求、イラ立つ媒体社たち:「安売りする気はない」

データを活用してパブリッシャーのオーディエンスをリターゲティングするアドエージェンシー。これは何も新しい動きというわけではないが、複数のパブリッシャーによると、そうしたオーディエンスのデータの提供を頻繁に求めてくる煩わしいアドエージェンシーが増えてきているという。

Facebook上でリターゲティングを行うために、単にオーディエンスのSNSのIDを求めてくるエージェンシーがいる一方で、キャンペーンでターゲットにしたオーディエンス全員のIPアドレスを聞いてくるエージェンシーは、パブリッシャーの不安を呼んでいる。これはつまり、エージェンシーはデータ管理プラットフォーム(DMP)を使って、どこでもリターゲティングできるようになるということだ。パブリッシャーが語ったところによると、こうしたデータの恒久的な使用許可を求めてくるケースも増えてきているという。

パブリッシャーによると、ピュブリシス(Publicis)傘下のスパーク(Spark)やグループコネクト(GroupeConnect)などのエージェンシーがもっとも血気盛んで、キャンペーンの分析やリターゲティングのために、クライアントのピクセルデータを受け入れるようパブリッシャーに要求してきており、ほかのエージェンシーからの同様の要求も次第に増えてきているという。

ピクセルの受け入れ

ピュブリシス傘下のあるエージェンシーがパブリッシャーに送った2018年1月のドキュメントには、要因分析やオーディエンスのセグメンテーションを行うために、メディアパートナーは広告主に対し、ピクセルデータを受け入れることを義務づけていた。またその文書には、「我々はさらに、インプレッションやクリックのデータもターゲティング/リターゲティングの用途として提供してもらえるような、パブリッシャーとの関係を築きたいと考えている。この場合、我々のデマンドサイドプラットフォーム(DSP)内のサイトA(あなたのサイト)上の我々の広告を見た者が、リターゲティングの対象となる可能性がある」とも書かれている。

ピュブリシスメディアのスポークスマンによると、このような言い分は、持株会社の契約としては一般的ではない。また会社の公式のコメントとしても、「我々はデータプライバシーの保護、またそれに付随するすべてのプライバシー法や規制とは真摯に向き合っている」と語っている。「業界での長年の経験からいえることは、キャンペーンの情報は、広告主が広告の有益性を理解したり、関連性を最適化したりするために必要なものだ。我々には、パブリッシャーのファーストパーティのオーディエンスデータを別のプラットフォームでのターゲティングに使うという意図はない」。

広告主が分析目的で顧客行動を追跡し、広告効果を把握するためにピクセルトラッキングを使うことは合法だと、あるパブリッシャーはエージェンシーからの報復を恐れているのか、匿名を条件に語ってくれた。だが、「サイトに広告を提供したのだから、オーディエンスを獲得して然るべきだ、という発想には賛同できない」と、そのパブリッシャーは語る。もうひとつの心配のタネは、エージェンシーがほかのクライアントとの仕事でもそのオーディエンスデータを使うだろう、ということだ。このパブリッシャーが、エージェンシーのオーディエンスデータの利用に関して同意しているのは要因分析の用途に限っているが、これはパブリッシャーがトラッキングを続けるうえで障壁となっており、パブリッシャーは、エージェンシーが多くのケースでリターゲティングのためにタグを使っていることを知っている。

エージェンシーの立場

パブリッシャーもエージェンシーも、これを「包囲網のもとで苦しむエージェンシー」という、もっと幅広い問題の一部として見ている。仕事に割り込もうとしてくるほかの会社や、報酬を引き下げるクライアントに四苦八苦しているエージェンシーは、持っているデータの特別感やターゲティング能力を示すことで、彼らの価値をクライアントに証明しようとしている。リシフトメディア(Reshift Media)でCEOを務めるスティーブ・ブアー氏によると、エージェンシーが利用しているプログラマティックなダッシュボードは使い物になっておらず、パブリッシャーに頼らざるを得なくなっているという。「ダッシュボードはサードパーティのデータを使っているため、最近はプログラマティックのダッシュボードを使うことで可視性が下がっている」と、彼は語る。そして、次にわき上がってくる疑問は、「顧客データは、そもそも誰のものなのか」ということだ。

「パブリッシャーのファーストパーティデータへのアクセスを求められることが多くなっている」と、インバース(Inverse)のCROを務めるデビッド・スピーゲル氏は語る。「マーケティングの関係性において、誰もがデータの所有権を主張したがっている。これは非常にトゲのある要求であり、パブリッシャーには、それによって予期せぬ結果を招く可能性があることを認識しておいてもらいたい」。

パブリッシャーは、こうした要求を断りたがっているという。前述の匿名希望のパブリッシャーのトップによると、クライアントとの関係性において、出版が強く絡むような場合は、トップ自らがエージェンシーとのやりとりを行い、エージェンシーをうまくかわして、直接クライアントを呼び出して苦情を伝えることで問題を解決するという。だがこれは、値引きの交渉の機会を与え、広告収入に危機をもたらす場合もある。長い目で見たとき、パブリッシャーの不安のタネは、エージェンシーとの仕事を勝ち取るためにデータを与えてしまうことが、彼ら自身のビジネスに悪影響を与えかねないということだ。現在、すでに多くの広告主が、パブリッシャーが制作したブランデッドコンテンツのすべて(の権利)を所有しようとしている。

パブリッシャーの主張

ランカー(Ranker)でグローバルセールス部門のSVPを務めるクラウス氏さえも、クライアントやエージェンシーからオーディエンスデータを要求される頻度が増えているという。たとえば、ある広告主が25歳から34歳までの女性にリーチしたかったとする。そして彼らは、ランカーが持つ映画の愛好家たちのデータを自分たちのデータセットに加えたい。この場合、データ提供の要求についてクラウス氏はこう語った。「こうした要求が第4四半期に2回あったとしよう。次の四半期には来る回数は15回だ」。

「エージェンシーは、自分たちに権利があるDMPを構築したがっている」と、クラウス氏。「我々は、人々の特定の好みに関する独自のデータをたくさん持っている。だが、ランカーが持っている映画愛好家(のデータ)は、別の場所よりも高価だし、何度も買いに来る必要はない。持論として、ランカーには十分な価値がある。だが、安売りする気はない」。

Facebookのユーザーデータが悪用されたことや、3月25日から施行が始まった一般データ保護規則(GDPR: General Data Protection Regulation)により、消費者のプライバシー保護に注目が集まっている現在、パブリッシャーの声は力を増している。「GDPRは、『データ利用に関するすべての面に合意していないので、人のピクセルデータを提供できない』という主張の後ろ盾となるだろう」と、あるパブリッシャーは語る。グローバルなキャンペーンにおいては、これはさらに効果的だ。なぜなら、GDPRはヨーロッパ圏の消費者からのデータ収集にあたって企業との合意を必要とするためだ。だが、アメリカのエージェンシーはGDPRに対する意識が低いと、このパブリッシャーは言う。「アメリカのエージェンシーは、この問題の規模や、違反時の罰則のことに気づいていない」と、この人物は語った。

「悪用などしない」

エージェンシーのなかには、この施行そのものを横目で見ながら、そもそもの有効性に疑問を抱いているものもいる。ブアー氏は、リシフトがパブリッシャーに対してファーストパーティデータを要求することは多くなく、ブランドのデータの価値の高さを主張するという。メディアソシエイツ(Mediasociates)のイノベーション部門のエグゼクティブディレクターを務めるエリック・スミス氏は、自身のエージェンシーはパブリッシャーのデータ利用はキャンペーンの最適化のためであり、リターゲティング目的ではないという。そして、エージェンシーはパブリッシャーとの関係性に重きを置いていて、何が何でもパブリッシャーのサイトを通じてターゲティングを行うことは、キャンペーンの価値を失うことになると信じている。

「パブリッシャーのデータを盗んだり、コピーしたり、悪用する必要などない」と、スミス氏は語る。

Lucia Moses (原文 / 訳:Conyac