政治ニュースサイトのポリティコ欧州版(Politico Europe)は、2019年、初の黒字を達成した。現在、同サイトはサブスクリプションサービス、ポリティコ・プロ・インテリジェンス(Politico Pro Poli […]
政治ニュースサイトのポリティコ欧州版(Politico Europe)は、2019年、初の黒字を達成した。現在、同サイトはサブスクリプションサービス、ポリティコ・プロ・インテリジェンス(Politico Pro Politico Pro Intelligence)に力を入れており、今年は9%から11%の収益増を目指している。
本社をブリュッセルに置き、6年目を迎えるポリティコ欧州版の2019年の収益は、1820万ユーロ(約22億円)で、わずかながら70万ユーロ(約8600万円)の初黒字を記録した。同サイトにおける収益の6割以上はサブスクリプションが占めており、残りは広告やイベントによるものだ。広告収益は昨年度より1%低いものの、ほぼ新型コロナウイルス以前の水準にまで回復している。また、同サイトはバーチャルイベントの収益化もはじめたばかりだという。
ポリティコ欧州版は、米国のポリティコ(Politico)と、ドイツの大手パブリッシャーであるアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)のジョイントベンチャーだ。ポリティコ欧州版のCEO、シェヘラザード・セムサル・デ・ボワセソン氏は、両社の経験を生かしつつ、即応性とデジタルファーストな対応を実現できるのが最大のメリットだと語る。「我々はこれまで、2、3年は堅実で徹底した投資が必要だと考えてきたが、その効果が出てきたといえる。これはコストに関する基本的な原則のおかげだ。短期的な結果を求めて、ぐらつく必要はない」。
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ポリティコ欧州版は、広告収益への依存度が低く、法人単位のサブスクリプションプランを持っている。これは、同社がコロナ禍を耐え凌ぐための大きな強みになった。同社は今年37人(3月以降で30人)のスタッフを新たに雇用しており、年末に向けてさらに数名増員する予定だ。なお、今年は13人のスタッフが退職しているが、いずれも経費削減によるものではないという。
法人プランが好調
成長を牽引しているのがサブスクリプションだ。今年は20%増となったポリティコ・プロ・インテリジェンスは、複数のグレードを提供しており、いずれも10万円以上の価格設定となっている。現在、政策立案者やロビイスト、契約業者など、1000を超える組織が同プラットフォームに登録しており、そのうち40%以上が毎日利用しているという。
同プラットフォームの成功は、同社の技術、製品、マーケティング部門20人から構成されるチームによる、絶え間ないアップデートと改善のたまものといえるだろう。現在、同社は13の有料メルマガを展開しており、最近ではモーニングトレードUK(Morning Trade UK)という、英国向けのサブスクリプション形式のメルマガを配信している。これは同社にとって初の、欧州全体ではなく国別のメルマガとなる。
プラットフォームを改善し、企業に大量のアカウントをまとめて販売する努力が実を結び、年間サブスクリプションの更新率は91%に達している。現在は年間契約価格が平均で1万2000ユーロ(約150万円)となっており、数年前は7000ユーロ(約86万円)だった。
エンダース・アナリシス(Enders Analysis)のシニアメディアアナリスト、アリス・ピックサル氏は「ポリティコ欧州版は、氷山モデルに基づくオンライン広告施策で、マスリーチを実現している。しかし我々はのターゲットはニッチな業界やB2B領域、そして業界専門家だ」と分析する。「2018年、ポリティコ・プロ・インテリジェンスは同社の収益の半分を占めたが、全体のユーザー数でいえばわずか0.1%に過ぎない。堅実な成長を重ね、高額オーディエンスを有する同社は、広告主にとっても魅力的だろう」。
コンテンツの中身
基本的にヘビーな主題を扱い、EUや各国の立法および政治動向を分析するなかで、ポリティコ欧州版はオーディエンスとの深い繋がりの実現と、理解しやすい情報提供を目標として掲げている。
ポリティコ・プロ・インテリジェンスのコンテンツには、ポリティコ欧州版のコンテンツだけでなく、法案やそれに付随する議論、議会議事録、ロビー活動情報、プレスリリース、ツイートなど、一般公開されている情報も含まれるという。また、ユーザーは技術やエネルギー、気候、ヘルスケアといった政策分野ごとに検索が可能だ。さらに、プラットフォームとして幅と深みを持たせるため、400万件の法律関連の動向、1100万件のツイート、そしてこれらを関連させて解説する1750万件のコンテンツも提供している。そして、ユーザーはこれらをさまざまな方法で検索、閲覧することができるのだ。
ポリティコ・プロ・インテリジェンスの強みは、このように各コンテンツ同士が深く結びついている点にある。それぞれのコンテンツが、別の関連データ間の関係を構築する力がある。たとえば、ポリティコ欧州版では、「EUの議員」「最近可決された法案」「◯◯貿易協定の詳細」といった、細かい粒度でコンテンツが分類されているため、膨大なデータベースから関連するコンテンツをレコメンドすることができるという。
ユーザー体験の重要性
同社の技術チームが追求しているのは、ユーザーに対して、いかに適切なソリューションやデータを提供するかだ。ポリティコ欧州版でプロダクト技術担当 バイスプレジデントを務めるステファン・ブラッドリー氏は「我々は、音楽でいうところの、Spotifyで音楽をユーザーに対し曲単位で提供し、各々でプレイリストに入れてもらうか、それともアルバムにするか、こうしたことを日々考えている。これが正確なたとえかはわからないが」と語る。「ユーザーに対し、情報をセットで提供するべきか、それとも自分たちで収集させるべきか。その判断を行うには、常に微妙なバランス感覚が必要だ。ユーザーは、我々のデータを使って何をしようとしているのか、ただモニタリングしているだけなのか、それとも深堀りをしているのか、こうした部分に配慮しなければならない」。
また、最近同社はプロジェクトタブをプラットフォームに導入した。これによりユーザーは、英国貿易などの動向や、地域のモニタリングアラートを設定して、注目すべき人物、キーワード、情報や資料などを掘り下げていくことができる。さらに30分ごとに、自社ツールがコンテンツデータベースをスキャンし、対象に合わせた新規コンテンツをプロジェクトタブに追加していくという。ちなみに、タスクタブからは、メモの追加やブックマーク、ミーティングの設定やアラートの設定、チームメンバーとの連携機能も利用できる。
ポリティコ欧州版は、従来のように企業内のワークフローやデータベースが、無味乾燥で使いにくいものであってはならないと考えている。「こと専門的な分野においては、情報収集に利用するサービスのユーザー体験は、期待値が低くなる傾向がある。また、意見を聞くなか、ほぼ全員がTwitterやインスタグラムを利用していることがわかった」とブラッドリー氏は語る。「10年前のソリューションではなく、AppleやSpotifyのような、使い勝手の良いサービスを参考にしている」。
広告事業の方針
サブスクリプション以外に目を向けると、ポリティコ欧州版の広告収益は、昨年比で1%減となっており、数カ月前までは10%減だったことを考えても、ほぼコロナ以前の水準にまで回復しているといえる。また、同社はプログラマティック事業を強化することを視野に入れている。ポリティコ欧州版では、カスタムコンテンツキャンペーン、ポッドキャスト、ニュースレターへのスポンサードが、広告事業の収益源だ。IT企業は、とりわけ現在の危機下で政策立案者にリーチしたいと考えており、こうした広告プロダクトは、彼らにとってメリットが大きい。
ボワセソン氏は「我々は常に、消費者向け広告を出している競合を羨ましく思っていた」と語り、次のように述べた。「だが、これまでそうしたコンシューマー向けのキャンペーンが少なかったからこそ、コロナ危機の影響を受けずに済んだのは事実だ」。
[原文:After reaching profitability in 2019, Politico EU aims for 10% revenue growth this year]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU