アドテック東京の2日目が2015年12月2日、東京国際フォーラムで開催された。テクノロジーが及ぼす激しい変化がマーケティング業界がさらされていることが確認された。トラディッショナルメディアがどのような役割を担い、進めていくか、広告主はどのような施策を打つべきか、さまざまな展望が交錯している。
2日はキーノート第4部、英調査企業トレンドウォッチングのマネージングダイレクターのヘンリー・メイソン氏の講演から。メイソン氏は「パーソナルな体験が重視される現在、デモグラフィック(人口動態)は死んだ」と訴えた。
スマートフォンが爆発的に普及し、人々の消費行動はより、非リアルでパーソナルな空間に移行しており、性別、居住地、年齢、所得などにより切り分けたデモグラフィック・セグメントで消費者をとらえれないと語った。デモグラフィックは氷山の海上に浮かんでいる部分のように情報の一部に過ぎず、重要な部分は海水の中に沈んでいるという比喩をつかった。
2015年12月1〜2日、東京国際フォーラムにてアドテック東京2015が開催された。初日のレポートに引き続き、2日目のレポートもお届けする。
2日に開催されたセッションでは、特にテクノロジーが及ぼす激しい変化にマーケティング業界がさらされていることが実感された。多様化したメディアがどのような役割を担うべきか、広告主はどのような施策を打つべきか、さまざまな展望が交錯している。
メインとなるキーノートを中心に、注目のセッションも加え紹介していく。
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デモグラフィックは死んだ
この日の幕開けは、キーノート第4部。英調査企業トレンドウォッチングのマネージングダイレクターのヘンリー・メイソン氏の講演から実施された。
メイソン氏は「パーソナルな体験が重視される現在、デモグラフィック(属性)は死んだ」と主張。スマートフォンが爆発的に普及し、人々の消費行動はより非リアルでパーソナルな空間に移行しており、性別、居住地、年齢、所得などで切り分けたデモグラフィック・セグメントでは、消費者を捉えられないと語る。デモグラフィックは氷山の一角に過ぎず、重要な部分は海水のなかに沈んでいると比喩した。
さまざまなオンラインゲーム内で同性婚が再現され、ヨガブランド「ルルレモン(Lululemon)」が突如として女性アパレル市場を切り拓く世界では、35歳以下のミレニアル世代や10代を中心とするZ世代に従来型のアプローチは機能しないと説明。行動データに基づいた、新しいマーケティングの例として、Netflixのパーソナライズ戦略やユニリーバの男性向けブランド「AXE」による10万パターンのショートフィルムのキャンペーンを挙げた。
誰もがECを楽しめる時代
キーノート第5部では、ベンチャーキャピタル、グロウラブ(GrowLab)創業者のレオナルド・ブロディ氏が、従来のエコシステムが崩壊していると強調。その変化のひとつとして、まずテクノロジーの側面を挙げた。たとえば、EC(電子商取引)サイトの運営費が、1999年には4600万ドル(約56億円)だったものが、2015年現在には3500ドル(約43万円)へと急落(99年の0.007%)。「理論上は誰もがECを楽しめる時代になった」という。
生活者の行動も変化の一側面であり、誰もがリアルと非リアルで複数の人格をもち、Facebookなどでプロフィールをグローバルに公開している。さらに資本市場の発達は、テスラモーターズが出資を集めて、短期間で電気自動車の商業化に成功したように、想定外の急成長が可能になった。
オンライン人口は現行の25億人からスマートフォンの普及で急激に増加するため、世界はデジタル化を深化させるという。「結婚がオンライン上で行われるのは普通になるかもしれない」。またホログラフィ(3次元像技術)が実現し、マイケル・ジャクソンのライブを再現すれば、人々がチケットにお金を支払う時代になりうると話した。
インドネシアへ投資すべき
キーノート第6部では、フェノックス・ベンチャー・キャピタルCEOのアニス・ウッザマン氏はロボティクスの発展に注目。機械学習ではGoogleの「TensorFlow」オープンソース化に着目した。3Dプリンタにより人工衛星のコストが半分になると見越し、シリコンから新素材「グラフェン」への転換により、CPUなどの廉価化、高機能化が進展するとみている。
首都大学東京で博士号を取得したウッザマン氏は米国、日本、東南アジアにおいて65社以上のスタートアップへの投資を進めてきた。日本はイノベーション、ビジネスフレンドリーなどの指標で、遅れをとっており、シュリンクする国内市場の外に目を向けるべきと指摘した。
特にGDP(国内総生産)が顕著に成長している東南アジアへ投資すべきという。同地域のGDPの4割を占める人口約2億4000万人のインドネシアは、日本製品への愛着が深く、成長性が高いとすすめた。
見逃せない『進撃の巨人』効果
セッション『それは本当に儲かるか? デジタル広告真の価値』では、メディアビジネスについて議論された。その背景には、ネットのトラフィックが供給過多の状況のなかで、GoogleやFacebook、キュレーションメディアがメインプレイヤーになる一方、パブリッシャーの影響力が不調な状況がある。
日本経済新聞社顧客サービス本部シニアプロデューサーの戸井精一郎氏は、CPH(コスト・パー・アワー)の導入などデジタル広告領域を主導する英パブリッシャー、「フィナンシャル・タイムズ」の買収が大きな成果とした。デジタル広告は儲かりづらく、自社の日経IDを中心にした戦略を進めていく方針という。
講談社ライツ・メディアビジネス局局次長の長崎亘宏氏は「雑誌、書籍のレガシーメディアは厳しい」と語ったが、他方『進撃の巨人』効果でライツビジネスが好調。デジタル展開としては、Tポイントカードなどによる行動履歴・購買データに基づいたデジタル広告プラットフォームを提供するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と連携し、ターゲティング広告やタイアップ広告のクロスメディア拡散などを検討するという。
LINEにCPMは面白くない
LINEの上級執行役員法人ビジネス担当、田端信太郎氏は、LINEはパブリッシャーというよりプラットフォームであり、ブランドに使い倒していただきたいと語った。「CPM(インプレッション単価)などのネット広告をLINEに適用しても面白くない」。スタンプやスポンサーアカウントのような商品を開発したという。
最終セッションの『テレビ大国日本で、長期的なデジタルとマスの効果測定を考える』では、日本テレビ、インターネット事業局インターネット事業部主任の加藤友規氏は、アニメ作品『天空の城ラピュタ』内に登場する滅びの呪文「バルス」を、放映に合わせて同時にTwitterに書き込む「バルス祭り」に触れ、結果として高視聴率にもなるという、テレビを補完するような運用方法があるとした。
電通シニア・リサーチ・マネージャーの西田悟史氏は、断片化したメディアにまたがって、消費者行動を各施策の到達状況から購買までの関係を統合的に分析する「シングルソース」でとらえる重要性を指摘。テレビで認知した後にデジタルを経て購買、デジタルからテレビを経て購買など、カスタマージャーニーを比較したデータなどを提示した。
「変化のグローバル化」の猛威
日本コカ・コーラiMarketing統括部長の豊浦洋祐氏は「い・ろ・は・す もも」の新製品発売1.5カ月前からTwitterなどのソーシャルメディアでティザーコミュニケーションをした事例を紹介。事前に情報を小出しにし、競合を意識した話題数のKPI(重要業績評価指標)を達成した結果、「い・ろ・は・す もも」販売開始からスタートダッシュにつながったという。
日産自動車の総合メディア・宣伝部制作課長、工藤然氏はロックシンガー矢沢永吉さんを起用したTVCM『やっちゃえNISSAN』を紹介。同作品のシングルソースの調査からブランド認知のあり方を、極めて細分化されたセグメント分けなどで効果測定している事例を示した。
アドテック東京2015の2日目は、テクノロジーの急速な進歩が強調された。激しい変化が、広範な領域にもたらされる現代では、2016年もまた新しいテクノロジーのトレンドを掴む必要にさらされるだろう。さらにUber、Airbnb、あるいは類似したサービスがあっという間に世界に波及したように、「変化のグローバル化」は今後も猛威をふるう。マーケティングが変化の波を捉える必要性は、さらに強くなりそうだ。
Written by 吉田拓史
Image from Thinkstock / Getty Images