「顧客に学んでロードマップを修正」: D2C ブランド、続々と新カテゴリーに進出

ジェネラル・カタリスト(General Catalyst)のアソシエイトとして、レイチェル・ブランク氏は2017年、遠隔医療会社ロー(Ro)のシードラウンドに向けた最初のプレゼンが行われたミーティングで、投資家サイドにいた。当時の社名はローではなくローマン(Roman)で、同社は唯一の商品である勃起不全薬をオンライン販売し、こうした商品を求める男性たちにとってのハードルを下げるという目標を掲げていた。

ローの創業者は、彼らが解決を目指す課題について語った。男性たちはEDの症状について、なかなか医師の診断を仰ごうとしない。その一因は、EDに対する世間の目だ。話を聞いていたブランク氏は、同様の女性の健康問題についても、同社が貢献できると考えた。それから1年と少し経った2018年9月、ブランク氏はローに加わった。同氏の役職は、戦略担当責任者、そしてローと共通のビジネスモデルで更年期障害に取り組む新会社、ローリー(Rory)の共同創業者だ。

当初ED治療薬の販売会社としてスタートしたローは、現在はローマン(EDだけでなく薄毛、早漏、ヘルペスの治療薬も扱う)、ローリー、および禁煙を助ける製品を販売するゼロ(Zero)を傘下においている。ゼロのローンチの際には、シリーズAで8800万ドル(約98億円)の資金を調達。さらにテッククランチ(TechCrunch)の報道によれば、今年4月中旬のシリーズBでも8500万ドル(約95億円)を調達し、同社の評価額は5億ドル(約560億円)に跳ね上がった。新たな資金獲得の目的のひとつは、ローリーの開発と成長への投資だ。

「投資家が期待するのは、異なるカテゴリーに進出し、より大きな市場を獲得することだ」と、ブランク氏はいう。「ローは勃起不全薬からスタートしたが、ずっとED会社のままでいるつもりはなかった。ヘルスケアシステムに変革をもたらしたい、それが我々の究極の目標だ。その達成のために、いちから顧客に学んで、ロードマップを修正していくつもりだ」。

単一商品ビジネスでスタートしたD2C(Direct to Consumer:ネット専業)ブランドのあいだで、このような発射台モデルを採用する企業が増えている。こうしたブランドは、カテゴリーを制覇することを、発展のプロセスになかに組み込んでいる。D2Cモデルは、顧客からの直接のフィードバックとファーストパーティデータの所有を大前提としており、これらを小売業者にアウトソースしない。そこから、ブランドがどこまで成長できるかという長期的ビジョンが形成される。そして、ブランド力が強いほど、野心も大きい。ナイキ(Nike)やリーバイス(Levi’s)といったトップブランドは、コアプロダクトモデルから転換し、より多くの顧客を取り込んで売上を伸ばした。そしていま、D2Cブランドもこの動きに加わりはじめた。違うのは、D2Cブランドの拡大ペースが、ベンチャーキャピタルの後ろ盾もあって、はるかに速いことだ。

カテゴリーの拡大

マットレスブランドのキャスパー(Casper)は、いまでは常夜灯、枕、犬用ベッドも製造販売し、「睡眠」企業を目指す。靴下を販売するボンバス(Bombas)は、「快適」企業を目標に、コットンTシャツの製造も開始した。ローラ(Lola)は、原材料の少ないタンポンの販売からスタートしたが、昨年セクシャル・ウェルネスの分野に進出し、現在は女性の衛生とウェルネスのブランドを自称する。ローと同様、ハリーズ(Harry’s)もほどなく女性市場に進出し、女性用カミソリと消費財のブランドであるフラミンゴ(Flamingo)を立ち上げた。持続可能な素材を使った寝具ブランドであるバフィー(Buffy)は、製品アプローチをシーツや枕だけでなく、ソファ、ラグ、ダイニングテーブルにも拡大している。犬用おもちゃのサブスクリプション配送サービスとして発足したバーク(Bark)は、犬に関連する定番のブランドを目指している。これらのなかには、ブランド戦略にすぎないものもあるが、D2C企業が急速に新カテゴリーに進出する傾向があるのは確かだ。

スーツケース販売からスタートしたアウェイ(Away)は、その他の旅行用グッズにも手を広げ、ウェルネス・消費財カテゴリーへの進出を指揮する幹部社員の登用を検討している段階だ。共同創業者のジェン・ルビオ氏によれば、アウェイの究極の目標は、旅行に関連するすべてを扱うことだ。

「我々は、ペイドマーケティングで同じ顧客を何度も何度も獲得することに興味はない。関心があるのは、顧客のエンゲージメントをどう維持するかだ」と、ルビオ氏は以前、米DIGIDAYのインタビューで語っている。「目下の目標は、我々が編集したコンテンツを読んだり、『エブリウェア』ショルダーバッグなどの商品を買ってもらうことだ。将来的には、アウェイのホテルへの滞在も可能になる」。

カテゴリーの拡大が進行中だ。顧客と売上の成長、そして評価額の増加を目指し、DTCブランドはいま、最初の価値提案からどこまで手を広げられるかに挑戦している。ひとつの製品ではなく、現代の消費者のライフスタイルというカテゴリー全体を手中に収めようと目論んでいるのだ。一見したところ、ライフスタイルブランドに向かう動きは目新しいものではない。実際、収益を伸ばすため、これまでも多くのブランドが使った手だ。TJマックス(TJ Maxx)などの量販店には、トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)ブランドのタオルがいくらでも売っている。

データを駆使した目標設定

D2Cブランドの特徴は、データ重視という彼らのDNAにある。製品の肥大化や過剰な拡大を避けるため、現代の企業は拡大プロセスに顧客を参加させる。プロダクトを増やせば売上が伸びるのは当然だが、顧客の財布に手を伸ばすのを、許してもらえる範囲にとどめるよう気を配っているのだ。

「我々が投資するブランドの目標は、カテゴリーの覇者であり、製造業者ではない」と、ベンチャーキャピタルのレアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)でプリンシパルを務める、アンドレア・ヒプー氏はいう。同社はオールバーズ(Allbirds)、キャスパー、ローラなどのD2Cブランドに投資してきた。「従来の小売企業と違って、D2Cブランドは顧客と直接つながっている。そのため、彼らの決断は高度に計算されたものだ」。

ヒプー氏によれば、成功にもっとも近いのは、明確に定義され、出来のいい「ヒーロープロダクト」からスタートしたブランドだが、重要なのはマーケティング戦略で、最初の製品をほかのプロダクト、ほかのカテゴリー、ほかの顧客への足がかりとして利用できるかが鍵になる。単一プロダクトからスタートする戦略を採る理由として、資本や生産パートナーが限られていることがある。しかし、フォーカスの絞れたブランドは、一般大衆の目をひきやすく、ノイズのなかから際立つのも事実だ。

たとえばハリーズは、男性のひげ剃り体験を向上させたいと考え、現代の顧客にマッチしたブランドを構築した。同じことを女性向けにも展開するのは、これまで見込み顧客ではなかった人口の半分にリーチする方法としては手軽だ。ハリーズとフラミンゴは、シェービングという共通の原点から、バスルーム全体に視野を広げ、ボディ用品もローンチしている。

「我々のD2Cプラットフォームは、顧客との1対1のフィードバックループを築きあげた。そのおかげでインサイト・アナリティクス担当チームは、ポートフォリオ全体で可視化されたリアルタイムのフィードバックとトレンドをもとに、次に進むべきカテゴリーを特定できる」と、ハリーズの最高商業責任者ブリタニア・ボーイ氏はいう。「これらの知見と、フォーカスグループや実験調査といった詳細かつ積極的な顧客分析が、顧客の求めるプロダクトを作りだすのに役立つ」。

ブランドと顧客のコミュニケーションだけが、D2Cブランドの迅速な新製品開発を推し進めているわけではない。チーム間のコミュニケーションもひと役買っている。バークでブランドリーチ担当バイスプレジデントを務めるアリソン・スタッド氏は、バークの社内プロダクトチームが好循環を生み出したという。同社では、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、サプライチェーンといった異分野で働く数十人が、マーケティングやマーチャンダイジング(バークはAmazonやターゲット[Target]などのマーケットプレイスでも商品を販売している)の担当者と協働し、新たなプロダクトの計画を策定している。

「我々はバークのブランドの範囲を定義し、そのなかに収まるあらゆる要素を可視化した。ブランドの小宇宙のなかに居場所がある商品でなければ意味がなく、それと収益面での見込みをセットで考える」と、スタッド氏はいう。「それは顧客が求めるものか? 顧客とブランドに適合するか? リソースを割くのに値するか? スケール可能か? 我々が手を出さないジャンルもある」。

バークの場合でいえば、猫グッズを売ることは絶対にない。

重要なのは進路選択

ブランドは、顧客の信頼を低下させ、ブランドの未来を危機にさらさないよう、パラメーターを設定する必要がある。ローラの場合でいえば、女性のブランドであることにフォーカスしているので、男性用や赤ちゃん用の製品開発に関心はないと、共同創業者のジョーダナ・キアー氏はいう。ローは、顧客が何を求めているかだけでなく、遠隔医療会社が責任をもって販売できるかどうかも考慮して、製品に関する決定を下す必要がある。ローリーの場合も、いくつかの更年期治療は医師が対面で行う必要があると、ブランク氏はいう。同社の目的は病院予約の合間を埋めることであり、信頼を勝ち取るためには踏み込み過ぎないことが肝心だ。

「顧客第一にブランドを築くことが、売上にもつながる。投資家は最初の成長段階のあとは、長期的視野をもち、持続可能な成長に注目すべきだ。次のフェーズにどう移行するか? 新製品をただ放り込むだけで成長をハックすることはできない。ブランド構築には長期的ビジョンが必要だ」と、ブランク氏はいう。

しかし、ベンチャーキャピタルはブランドに圧力をかけ、こうした衝突の火種が、最初に投資家の前で語ったビジョンに忠実に成長できるブランドと、そうでないブランドの明暗を分ける。寝具ブランドのバフィーは、外部からの資金調達を行わず、ふたつ目の商品をリリースするまでに1年以上をかけた。同社のCEOレオ・ワン氏は、ベンチャーキャピタルの資金を新製品につぎ込んだり、収益性のない製品でブランド構築をして、あとから財政健全化を考えるブランドとは異なり、バフィーのすべての製品には収益性が求められると述べる。そのため、拡大のペースは遅めだが、ゆっくりでも着実な成長がバフィーを総合ホームブランドとして定着させることに寄与するだろうと、彼は考えている。

D2Cブランドというカテゴリーが成熟するにつれ、企業にはブランドの持続性を証明しつつ、短期的な期待にも答えることが求められるようになった。

「どのD2Cブランドも、大市場に打って出て成功を手にするプレッシャーを感じている。成長のペースは加速するばかりだ。20年もかけている暇はない。10年でやらなければ」と、フォアランナー・ベンチャーズ(Forerunner Ventures)でゼネラルパートナーを務めるユーリー・キム氏はいう。「期待は大きく、リスクも大きい。重要なのは、プレッシャーに屈さず、方向性と顧客を見失わないことだ。そうでなければ、すぐに顧客のニーズを掴めなくなり、やがては彼らに製品を売る権利を失うだろう」と、同氏は述べた。

Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)