[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ビューアビリティの高い広告を獲得する取り組みは総じて、ユーザー体験を犠牲にしていると、一部のパブリッシャーは考えている。そもそも、ビューアビリティが指標として導入されたのは、表示されていない広告に予算が浪費されてないと、広告バイヤーをなだめるためだった。ユーザー体験の向上が目的では決してなかったのだ。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]高いビューアビリティ(可視性)とよいユーザー体験の両立は、パブリッシャーからすると依然として複雑な綱渡りだ。
高い広告ビューアビリティを獲得する取り組みは総じて、ユーザー体験が犠牲になっており、ユーザー体験を損なっていると、一部のパブリッシャーは考えている。そもそも、広告ビューアビリティが指標として導入されたのは、ページに表示されなかったことで、見られていない広告に予算が浪費されてはいないと広告バイヤーをなだめるためだった。ユーザー体験の向上に関するものでは決してなかった。
「すべてのパブリッシャーは何らかの形でビューアビリティを悪用している」と、匿名希望のデジタルメディアパブリッシャー幹部は語る。「システムの悪用ともいえるだろうし、パブリッシャーはエージェンシーが求めるものを提供しようとしているのだともいえるだろう。いずれにせよ、ビューアビリティの取り組みでユーザー体験が損なわれたことは確かだ」。
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ビューアビリティの現実
問題のひとつは、ビューアビリティの目標が、一流のパブリッシャーには達成があまりにも難しいものになっていることだ。フラウド対策を研究するオーガスティン・フー氏によると、アバブ・ザ・フォールド(スクロールしないで見られる位置)に2つ、その下に1つ、あわせて3つの広告があるウェブページの場合、最初のビューアビリティは平均で66%になる。「悪いものではなく、これが現実だ」とフー氏。ところが、エージェンシー側はこれよりはるかに高いビューアビリティ目標を期待しており、そのことによる悪影響がある。
ビューアビリティが100%というのは、善良なパブリッシャーなら追加インプレッションを大量に提供して不足分を埋め合わせないと実現できない。「善良なパブリッシャーは不正をしないため、ビューアビリティの要件を満たすのに苦労する」とフー氏は続けた。
広告ビューアビリティが100%というキャンペーンの保証を達成するにはインプレッションを過剰供給しなければならないという事実があり、パブリッシャーはこれをほとんどの場面で受け入れている。しかし、そのことと、キャンペーンの保証を達成する圧力による損失が原因となり、出し抜く戦術が着実に盛んになっていると多くのパブリッシャーは考えている。
たとえば、コンテンツの前に広告をロードさせる遅延読み込みなどの戦術が広がっている。不安定な携帯電波によってビューアビリティのカウントが台無しになる問題の埋め合わせにはなるかもしれない。また、訪問者が下にスクロールするのについてくる広告がある。どちらの戦術も、ビューアビリティ目標の達成のために作られたものだが、うまく使うことは可能で、それならユーザー体験は損なわれない。しかし、アバブ・ザ・フォールドでカウントされるように詰め込まれた広告が積み重なり、閉じることができず、見えない状態で再生されるとなれば、こうした戦術は問題がある。
100%という数字の背景
広告を詰め込んでビューアビリティをごまかすやり方は、ロングテールにあたるサイトになるほど多い。そうしたサイトは決まって、インプレッションはすべてビューアビリティが100%だと主張する。ロングテールのパブリッシャーは自らに課している基準が異なり、結果、ビューアビリティが100%だと主張できるようにこうした不正戦術に走るところが多く、これが広告主の期待をゆがませている可能性があるというのが、大手パブリッシャーの共通する不満だ。「100%のビューアビリティは厳密には不可能だ」と、大手パブリッシャーのプログラマティック責任者は語る。結局、パブリッシャーとしては、ユーザー体験を損なうことなくアバブ・ザ・フォールドで多くの広告を提供するしかない。
フー氏によると、すべての広告が互いに重なってはいるがアバブ・ザ・フォールドにあるようにするテクニックやコードを駆使すれば、ビューアビリティが100%という要件は簡単に達成できる。「100%のビューアビリティを要求することで、実際には、詐欺インベントリー(在庫)の購入が減るどころか増えるという意図せぬ結果だ」と同氏はいう。
こうしたサイトのなかには、パブリッシャーが収益を得るためにサイトに置いているコンテンツ・リコメンド・ウィジェットで出くわすものがある。「こうしたサイトは、サイトの再訪問にもユーザー体験にも関心がなく、お金を払って参照元から最初のクリックを得たら、1回の訪問のなかで広告露出を最大化してアービトラージするだけなのだ」と、ニューズUK(News UK)のコマーシャルディレクターのベン・ワルムスレイ氏は話す。「最適化でビューアビリティとユーザー体験の健全な緊張を考慮する必要がある一流ニュースブランドとはまるで違う」
グループ・エムの取り組み
パブリッシャーはより高いビューアビリティ目標を達成せよ、というプレッシャーが高まったのは3年前のこと。すべてのキャンペーンでビューアビリティを100%にする意向をグループ・エム(GroupM)が示したのだ。 メディア評価評議会(MRC)では、ピクセルの50%がディスプレイ広告だと1秒間、動画広告だと連続2秒間、インビューでなければならないと定められている。これに対し、グループ・エムの基準では、ディスプレイ広告はピクセルの100%が1秒間インビューとなっている。またプレロールとミッドロールは、ピクセルの50%が15秒インビューで、ユーザーが開始して音声ありで再生されたものとなっている。
エージェンシーは、一流のパブリッシャーにはできないとわかっていることから100%のビューアビリティは要求していない。グループ・エムもいまは、同社デジタルリスクディレクターのベサン・クロケット氏によると、双方に有効な共通の基盤を見つけ出すべくパブリッシャーと密接に協力している。「すべてのインプレッションの100%がこの基準に達することができないことは認識しており、消費者の体験に影響しない最適化のため、パブリッシャーと密接に提携している」と、クロケット氏はいう。「グループ・エムのグローバル基準を満たしてはじめて広告にお金を出すというクライアントは多い」。
エージェンシーの期待とパブリッシャーが提供できるものとのバランスはこのように改善しているものの、ビューアビリティへの注力は現にユーザー体験の向上につながっておらず、むしろ基準が低いサイトがシステムを欺こうとする原因になっていると、多くのパブリッシャーは考えている。「ビューアビリティに注力すれば、エージェンシーはクライアントをずっと欺いて自社を通じて購入させ、この方がいいのだと思わせることができる」と、デジタル広告のコンサルタントは語った。「100%のビューアビリティがいつでも100%手に入るのは、不正をしている悪党のところだけだ」。
一流が一流であるために
この問題の再検討をパブリッシャー側は強く望んでいる。大手パブリッシャーの幹部は、「一流のパブリッシャーには重要なことだ。広告主の期待をリセットしないということは、底辺争いを生み出している質が低い環境に広告主が投資するのをさらに助長することになる恐れがある」と語った。「そして、ユーザー体験に幅広く悪影響がある一流パブリッシャーが、消費者から切り離される危険がある同じような戦術に頼るなら、パブリッシャーはターゲティングするものが何もない容器になるリスクを冒すことになる」。
Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)