コロナ禍による景気後退と併せ、組織的変革を求める声が全国に広がるなかで、多くのメディア企業は、それぞれのビジネスプロセスと企業文化におけるダイバーシティとインクルージョン(多様性と包摂)の扱いについて、見直しを迫られている。このさきに待ち受ける変化について、5人のメディア企業幹部に見立てを語ってもらった。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行に端を発する景気後退は、パブリッシャーたちの収益源に多大な混乱をもたらした。
この景気後退と併せ、組織的変革を求める声が全国に広がるなかで、多くのメディア企業は、それぞれのビジネスプロセスと企業文化におけるダイバーシティとインクルージョン(多様性と包摂)の扱いについて、見直しを迫られている。
今回、米DIGIDAYは、この激動期のさきに待ち受ける変化について、5人のメディア企業幹部にそれぞれの見立てを語ってもらった。
Advertisement
1. 信頼できるパブリッシャーは、広告主の新たな店舗に
グループナイン(Group Nine)で最高情報責任者(チーフインサイトオフィサー)を務めるアシシ・パテル氏は、消費者の視点から、「ソーシャルメディアの利用時間が増えるほど、消費者のもとには、あれを買えこれを買えという広告が洪水のように押し寄せる」と語る。「私自身、聞いたこともないマスクブランドから、数えられないほどの広告を受け取っている。どこからともなく沸いて出た、見も知らないブランドばかりだ。品質も、どこでどう製造された商品かも分からない」。
この状況は、長い年月をかけてオーディエンスの信用を蓄積してきたパブリッシャーにとってはビッグチャンスだとパテル氏は語る。ブランド認知のキャンペーンや、練り込まれた商品プロモーションにとどまらず、広告主と連携する大きな機会が開けているという。
パテル氏は、これを「アフィリエイトプラス」と呼ぶ。アフィリエイト自体はパブリッシャーにとって新しい収益モデルでは決してないとしながらも、同氏によると、グループナインはとりわけ、従来的なアフィリエイトモデルを拡大して、ソーシャルメディアの規模の力を取り込むことに多大な関心を寄せている。同時に、アフィリエイト事業からデータを収集し、広告主と直接連携しながら、獲得した知見を最大限に活かし、取引量を増やしたい考えという。
2. 長期戦
新型コロナの禍中、メレディス(Meredith)が広告主と結ぶ契約は、マルチメディアを網羅する複数年契約が増えた。同社で最高デジタル責任者を務めるキャサリン・レヴィン氏によると、この傾向はしばらく続く模様だという。パンデミックのさなか、メレディスは10件の業務提携を成立させたが、その一部は既存の契約の更新で、残りは新規のビジネスだった。
このような業務提携には、しばしば、メレディスがパブリッシャーのファーストパーティデータを活用し、購入意向のありそうなオーディエンスを特定して、商品の開発を行う契約も含まれる。
「このような契約は一夜にして成るものではない。お互いのビジネスを理解するのに何カ月もかけながら合意を形成する。短期的な契約も望まない」。そうレヴィン氏は語る。「長期戦を視野に、署名する」。
3. バーチャルエンゲージメントはなくならない
外出は禁止、リアルなエンターテインメントはほとんどなしという生活が続くなか、オンラインでのエンターテインメントの選択肢は、読み物、動画、バーチャルイベントなど、無限に広がった。そう語るのは、ベライゾンメディア(Verizon Media)の消費者部門を統括するジョアンナ・ランバート氏だ。その結果、パブリッシャー同士の競争が激しくなり、「注目を集めるのが難しくなった」とランバート氏は言う。どのメディア企業も、自分たちのオーディエンスに向けて、斬新で、パーソナライズされた、リアルタイムのコンテンツを開発する必要に迫られた。
リアルな活動が少しずつ再開される一方で、コロナ禍中に形成されたバーチャルな習慣が消えることはなく、新しく画期的なコンテンツを提供できるメディア企業は、消費者の注目を集めつづけるだろうとランバート氏は見ている。
たとえば、ベライゾンメディアでは、拡張現実(AR)の開発に最優先で取り組んでいる。ARが、読者向けの製品であれ、広告主向けの製品であれ、「ショッパブル動画、ジャーナリズム、バーチャルイベント、コンサート、教室その他、さまざまなコンテンツを増幅するのに最適の技術」と考えるからだ。また、同社が開催した30件のバーチャルイベントで、過去2カ月間に10億回近くの動画再生回数を達成したことから、「バーチャルイベントは、今後、我々のプログラミング戦略の一端を担うことになるだろう」とも語った。
4. ファーストパーティデータは多いほど良い
コロナ禍に関係なく、メディア業界はいまもサードパーティCookieが消滅する日に向かって猛進している。「この危機によって、未来への道筋が変わったわけではない。より早く目的地へ到達する必要性を高めただけだ」。ハーストマガジンズ(Hearst Magazines)で最高業務責任者(チーフビジネスオフィサー)を務めるクリステン・オハラ氏はそう指摘する。それというのも、広告が枯渇し、広告在庫が急増するにともなって、マーケターたちはマーケティング投資に対して最大のリターンを追求し、結果、保証型の取引のみが成立するようになっていたからだ。
「データを分析する能力は、いまや死活的に重要だ」とメレディスのレヴィン氏は言う。「肝心なのは、データそのものよりも、データから知見を引き出し、その知見に基づいて、新しいコンテンツを作成したり、マーケティングメッセージを最適化するなど、リアルタイムで行動する能力だ」。
「コンテンツやオーディエンス、商取引などから知見を生み出すことのできる企業は、このさき、もっとも大きな成功を手にするだろう」とハーストマガジンズのオハラ氏は述べている。
5. 文化的シフトを加速させるマネタイゼーション
「従業員や消費者は、企業が口で言ったことを行動で示すことを期待している」。そう語るのは、ヴォックスメディア(Vox Media)で最高収益責任者(CRO)を務めるライアン・ポーリー氏だ。パブリッシャーであれば、従業員の構成やコンテンツの作成において、もっと多様性を意識する必要があるだろう。また、ブランドであれば、マーケティング予算の投資先を会社の価値観に合わせてシフトさせなければならない。
ポーリー氏によると、ヴォックスメディアは、マイノリティの従業員を対象とした有給のフェローシップ制度を創設し、さらに、人種的公平と正義に関する各種プロジェクトのマーケティングと広告サービスに150万ドル(約1.5億円)を拠出した。だが、縦割りの活動では、劇的な変化は望めないと同氏は言う。
ポーリー氏の話では、一部のブランドは、Facebook広告のボイコットに加わるなど、マーケティング支出を通じて、会社の価値観や支持を表明しはじめた。だが業界全体として見れば、「これは多くのブランドにとって、長年、マーケティング戦略の議論でほとんど顧みられなかったテーマではある」とポーリー氏は語った。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)