世界の有名サッカークラブはいま、コンテンツビジネスに続々参入。ACミラン(AC Milan)も、その波に乗るべく動きだした。「ザ・スタジオ:ミラン・メディア・ハウス(The Studios: Milan Media House)」は、SNSに投稿する、クラブ関連のあらゆるコンテンツの企画、制作、配給を担う。
世界の有名サッカークラブはいま、コンテンツビジネスに続々と参入している。イタリアの名門ACミラン(AC Milan)も、その波に乗るべく動きだした。
すでに、イギリスのチェルシー(Chelsea)、スペインのレアル・マドリード(Real Madrid)やFCバルセロナ(Barcelona)、ドイツのバイエルン・ミュンヘン(Bayern Munich)などが社内に制作部門を持っている。「ザ・スタジオ:ミラン・メディア・ハウス(The Studios: Milan Media House)」もそれら先行組と同じく、ソーシャルチャンネルに投稿するトレーニング風景やスポンサーのためのCM動画など、クラブ関連のあらゆるオーディオビジュアルコンテンツの企画、制作、配給を担う。
この新部門を率いるのは、ACミランのマーケティング&デジタルディレクター、ランベルト・シエガ氏だ。同氏はクラブ本社の制作およびクリエイティブ部門の幹部40名から構成されるチームを指揮することになる。メンバーの一部――クラブによれば全体の約2割――はパートタイマーであり、これによりシエガ氏には、プロジェクトの種類に応じて支出の大小を調整するという、柔軟なマネジメントが可能となる。シエガ氏の司令室となるコントロールルームは7台のワークステーションを擁し、試合動画のナレーション/コメント録りやポッドキャストの録音に使うレコーディング室も備えている。同施設はさらに、通商パートナーをはじめ他企業への貸し出しも行なう。
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この新たな試みにおける狙い
換言すれば、ACミランはあらゆるデジタルコンテンツのキャッシュジェネレーターへの転換にフォーカスしている、ということだ。この新たな試みには、できるだけ多くのサードパーティチャンネルにコンテンツを配信し、ACミランのコンテンツが消費される確率を上げ、結果として、そのオーディエンスがミランの営むいずれかのプラットフォームを訪れ、より多くのコンテンツを消費してくれる確率も上げたい、との意図が明確に現れている。
その一例が同クラブのTwitchチャンネルだ。2020年12月に立ち上げて以来、4万1000人以上のフォロワーを集めている。これまでに配信した動画は約40本。大半がインタビューで、現役選手、伝説的名選手、VIPといったスペシャルゲストの貴重な談話を紹介している。また間もなく、トップチームの監督による試合前の記者会見の生配信に視聴者が参加できる機会も作るという。
TikTokでも、ミランは同様の計画に添って活動している。2020年1月の利用開始以来、2000万以上の「いいね!」を集めており、これはどの伊サッカークラブのSNSアカウントよりも多いと、シエガ氏は語る。そしてこの好反応は、少なからず、当初の計画の推進力になっていると、同氏は言い添える。TikTokでは、選手が面白い/難しい技を華麗に披露する動画や、チーム内の固い絆を捉えた、いわば舞台裏を覗き見させるものなど、クラブに親しみを持ってもらうための動画にフォーカスしている。2020年12月、オンライン決済サービスを提供する英企業スクリル(Skrill)をスポンサーに迎え、公式TikTokチャレンジを立ち上げたのもその意図に沿うものであり、視聴数は最近10億回を超えた。
スポンサーシップの価値向上も
コンテンツの定期的制作と広範囲にわたる発信は、ソーシャルメディアのフォロワー数を増大し、ファーストパーティデータ獲得の機会を拡大する。そして、ひいてはそれがスポンサーシップの価値向上に繋がると、シエガ氏は言う。
「これはファンをクラブのエコシステムに取り込み、彼らから直接データを得るとともに、活用できるタッチポイント[接点]を同定するためのひとつの手段であり、これでサードパーティだけに依存しないで済むようになる」とシエガ氏は続ける。そして、この戦略の一環として、ミランは現在、eコマースサイトやTV番組から、チケット販売サイト、アプリに至るまで、クラブが所有する全チャンネルを網羅する会員制プログラムを構築中だという。
「多くのクラブの場合、収益の大半は放映権料、試合の興行収入、スポンサー料が占めているが、現在、そうした従来型の収入源はいずれも課題に直面しており、ミランはその点を十分に認識している」と、エージェンシー、ストライヴ・スポンサーシップ(Strive Sponsorship)のマネージング・ディレクター、マルフ・ミンス氏は言う。 「だからこそ、彼らは収益源の多様化を図るとともに、クラブの価値を維持するべく、手持ちの資産価値を深めようとしている」。
2年にわたる努力の集積
ミラン・メディア・ハウスは、コンテンツ制作に関わる全側面の一元化/社内化を目指した、同クラブの2年にわたる努力の集積だ。以前はたとえば、自身のTVチャンネル用にコンテンツを制作/放送するために、その都度、エージェンシーの構成作家に外注していた。だがいまや、そうした作家陣は皆ミランの社員であり、それゆえシエガ氏にはTwitchチャンネルの配信など、ほかの分野でも社内で対応することができる。
経費節減は明らかだ。ただ、ミランのチーフレベニューオフィサー、キャスパー・スタイルスヴィグ氏は、このコスト削減はあくまでも、コンテンツを通じて、海外に暮らすより多くのサッカーファンへのリーチを目指す努力の副産物でしかないと、断言する。
「我々はメディア企業だ、という視点が欠かせない。そして事の成否は、ブラジルや中東、日本をはじめ、スタジアムに来られない遠い諸外国のファンに、こちらからどこまで近づけるかによる」とスタイルスヴィク氏。「海外ファンをどのようにして取り込んでいくのか。それは、どのクラブにとっても大きな課題であり、まだどこにも解決できていない」。
[原文:‘We need to see ourselves as a media business’: AC Milan’s endgame for content]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)