今年、多くのパブリッシャーは赤字にならないよう、もしくはせめて前年と同じ収益を達成しようと必死になっている。そんななか、ペット関連のコンテンツを中心に扱うグループ・ナイン・メディアのブランド、ドードーの収益は前年比150%増の急上昇を見せている。ドードーの飛躍を支えた要因はなんだったのか。
多くのビジネスが青ざめるような状況が続く2020年だが、動物の動画を扱うビジネスにとってはチャンスとなっている。
今年、多くのパブリッシャーは赤字にならないよう、もしくはせめて前年と同じ収益を達成しようと必死になっている。そんななか、ペット関連のコンテンツを中心に扱うグループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)のブランド、ドードー(The Dodo)の収益は急上昇を見せている。
10月に入ったばかりにも関わらず、ドードーの今年後半の収益はすでに前年比で150%の増加を見せている。これは食品や飲料、小売、消費財といったカテゴリーからの広告支出によって強く牽引されている。グループ・ナイン・メディアのCRO(Chief Revenue Officer)であるジェフ・シラー氏によると、2020年に入って彼らを起用した広告主の数は50社となる。これは2019年全体の数と比べて33%の増加だ。具体的な収益の額については明らかにしなかった。
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ニコロデオンやディズニーに匹敵
ドードーを支える「新しい広告主」たちが登場したのは、もともと同社のビジネスの大部分を占めていた広告主たちの支出が低下しはじめた時期だった。春にはロックダウンにより自宅で飼えるペットを求めた人々による「子犬ブーム」が起き、4月と5月にドードーに投じられた広告費は10%上昇した。しかし、広告費データベースのスタンダード・メディア・インデックス(Standard Media Index)によると、今年のペットフードやペットケア分野の広告出稿は、前年比19%の減少となっている。
これは、ドードーを単なる動物好き向けブランドではなく、ファミリー向けブランドに位置付けようとしてきたシラー氏らの長期プランがうまくいっている証拠だと、同氏は捉えている。実際に、クロロックス(Clorox)のような消費財広告主たち、またニコロデオン(Nickelodeon)などのエンターテインメントブランドたちからの新しい広告チャンスが舞い込んでいるのだ。
「我々の動物関連以外の分野への拡大は、非常に素晴らしいものになっている。ニコロデオンやディズニー(Disney)のような存在と競合するレベルだ」とシラー氏は自負する。
実のところ、コロナウイルスによってアメリカが大混乱に陥るずっと前から、ドードーにとっての2020年は好調が予想されていた。というのも、動物コンテンツは米国での選挙の年に特によい成果を見せる傾向にあるのだ。ソーシャルモニタリングツールのクラウドタングル(CrowdTangle)からのデータによると2016年の大統領選挙、2018年の中間選挙どちらにおいても、Facebookにおけるドードーのコンテンツはニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やフォックスニュース(Fox News)といった米国内最大のニュースパブリッシャーのほとんどを超えるエンゲージメントを見せている。
「(動物コンテンツが)あらゆる辛辣さやネガティブさに対する、一服の清涼剤となっている」とシラー氏は言う。
Facebookで再生回数を稼ぐ
さらにコロナウイルスの到来は、彼らのビジネスを後押しした。ほかのパブリッシャーと同様、ドードーの動画再生数は4月のロックダウン中に急激に増加し、時間が経ってもこの増加傾向は続いた。2020年8月には各ソーシャルプラットフォーム合計で50億の再生回数を集めた。これは昨年同時期の25億回と比べて大きな増加だ。動画分析ツールを提供するチューブラーラボ(Tubular Labs)のデータによると、ドードーは米国において動画再生回数で4位にランキングされるクリエイターとなっている。
チューブラーラボのCCO(Chief Commercial Officer)であるニール・パティル氏は「(ドードーは)魅力あるコンテンツの作り方を知っていると証明した」と述べた。
この再生回数の多くはFacebookで得られている。FacebookではドードーのFacebookページだけで、8月は2019年の7億6600万回から2020年の17億6000万回と2倍以上の伸びを見せている。エル・ドードー(El Dodo)のようなFacebook Watch上の番組ページも含めると8月だけで23億回(データはチューブラーラボから)だ。クラウドタングルのデータではこれらすべての動画は、ミッドロール広告が導入できるように長さが最低でも3分となっている。
動画自体の量が増えたことも一定の貢献をしているが、それがすべてではない。ドードーのFacebookページに8月に投稿された動画の数は156本で、前年比54%増と再生回数に比べると控えめな数値だ。
制作のハードルもクリア
ユーザー投稿コンテンツや動物保護団体などから定期的に提供されるコンテンツのおかげで、ほかの動画主体のメディア企業がここ6カ月に苦しんだ制作上の困難も、ドードーは回避できている。
「コンテンツを制作する上で必要なものを考えると、(ドードーはほかの動画メディアより)それが比較的軽くなっている。パンデミックによって引き起こされた制作に関する制約に関係なく、多くの動画を投稿できるようになっている」とグループ・ナイン・メディアのシラー氏は言う。
広告主たちがどこに、どのように広告支出を投下するか慎重になろうとしている時期に、特定のカテゴリーにおいてオーディエンスの増加が起きている。こうした状況下では「文脈」が新たに重要になると、メディア・エージェンシーであるエクスヴェラス(Exverus)の戦略責任者のタリア・アーノルド氏は述べる。「物議を醸すコンテンツの代替としての心が和むコンテンツは広告主にとって好ましいものだが、ブランドとコンテンツの関連性に勝るものはないと考える広告主たちもいる」。
このギャップを埋め、新しい広告主の獲得を確固としたものにするために、ドードーは来年から「人間中心に」傾く予定だとシラー氏は言う。最近配信された30分スペシャル番組「カエルのトビーと過ごす夏(Summer at Home with Toby the Toad)」のようなコンテンツがその一例だ。
「これまでのような限られた分野ではなくファミリー中心の広告主を拡大させることに、まだ開発されていない大きなチャンスが眠っていると考える。最初の第一歩の段階だ」とシラー氏は語った。
[原文:‘A viewer-safe antidote’: The Dodo’s audience and ad business surges in 2020]
MAX WILLENS(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)
Illustration by IVY LIU