この10年弱の間に、Quartz(クォーツ)は生まれ、買われ、売られ、立て直され、先頃は死に瀕したと思われた。だが、再びオーナーとなった共同創業者ザック・スワード氏は、古びた感もあるデジタルパブリッシングブランドの刷新について、明るい未来しか見ていない。その武器は、サブスクリプションと広告販売との調和だ。
この10年弱の間に、Quartz(クォーツ)は生まれ、買われ、売られ、立て直され、先頃は死に瀕したと思われた。だが、このたび再びオーナーの座についた共同創業者ザック・スワード氏は、古びた感もあるデジタルパブリッシングブランドの刷新について、明るい未来しか見ていない。その武器となる構想は、サブスクリプションと広告販売との調和だ。
これまでの歴史を駆け足でふり返ると、Quartzは2012年、スワード氏とケヴィン・デラニー氏がアトランティック・メディア(Atlantic Media)による庇護の下、世界経済を扱うビジネスニュースパブリッシャーとして共同設立した。続いて2018年、同社は日本の情報関連企業、ユーザベース(Uzabase)に8600万ドル(約86億円)で買収された。その際、スワード氏はクォーツ・メディア(Quartz Media)のCEOとなり、デラニー氏は編集長の座を退いた。
新オーナーはサブスクリプションを収益性への扉と見なしたが――2016年以来、同社は赤字を続けていた――2019年は非常に厳しい1年となり、ユーザベースの同年度財務報告書によると、Quartzの総収入は2018年の3480万ドルから2690万ドル(約36億円から約28億円)に激減した。続いて、そこに追い打ちをかけるように、新型コロナ禍と世界的な景気後退が重なり、同社は半数近くの社員を手放し、広告収入も半分以上失った。
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そして11月前半、売却の理由も契約の諸条件もいまだ不明だが――ニューヨーク・ポスト紙は買収額をわずか1ドルと報じたが、スワード氏はこれを否定している――スワード氏が同社のオーナーとして正式に復帰し、編集長のキャサリン・ベル氏が現在、マイノリティオーナーを務めている。
「再びスタートアップに戻れたことに、何よりも興奮している」とスワード氏は語る。
2021年の見通しは明るい
現在、メディア企業の統廃合が相次いでおり、改革時に頼るべき財源を大手メディアほど潤沢に持たないQuartzにとっては、不利な状況にも見えると、独立系メディアコンサルタント、ブラッド・アドゲイト氏は語る。ただし、同社の場合は「プラス面がマイナス面を凌駕しており」、意思決定を遅らせる煩わしい指揮系統がないため、スワード氏は「自身の判断だけで社の統制力を取り戻せる」と、アドゲイト氏は指摘する。
今年5月、Quartzは社員80名を解雇し、幹部の賃金も25~50%カットした。ただし、それ以降は解雇者をひとりも出しておらず、賃金も来年には満額に戻す予定でいる(スワード氏だけは、コロナ禍前の報酬の半額を維持するという)。現在は世界に110人の社員がいる。
とはいえ、前述のとおり、クォーツはコロナ禍以前から問題を抱えていた。
今年6月、Quartzの苦しい台所事情を明らかにした米DIGIDAYの記事によれば、創業8年目を迎えた同社は2019年、ユーザベースによる経営の下、2690万ドル(約28億円)の収益に対し1840万ドル(約19億円)の損失を報告した。加えて、2020年度第1四半期、広告総収益は前年比54%以上のマイナスを記録した。
スワード氏はしかし、現在の財務状況は明かさなかったが、第3および第4四半期の広告収入が上り調子である――さらには買収発表後、有料サブスクリプションの申込者が1週間としては記録的な数字を記録した――事実を踏まえ、2021年の見通しは明るいと断言する。
一線を画するサブスク製品
Quartzのメンバーシッププロダクトは、ほかとは一線を画している。単一の業界をベースとする商業パブリッシャーの多くと異なり、Quartzはマクロなトレンドだけでなく、気候テックやポッドキャスト業界といった、ニッチな分野も積極的に取り上げるからだ。つまり、人々に自身のキャリア構築と必ずしも関係のない話題について深く知る機会を与えているわけであり、読者は斬新な視点を提供してくれる、そうしたコンテンツから新たな知見を得るために、年間100ドル(約1万438円)、もしくは月間15ドル(約1565円)を支払っている。
買収後、読者宛のニュースレターにおいて、スワード氏は新規契約者への初年度50%の割引を約束した。すると、これが引き金となり、週間記録となる1200人が新たに定期購入契約を交わした。同社によれば現在、登録者数は計2万5000人を超える。
もっとも、ビジネスだけにフォーカスせず、したがってビジネスだけに注目する定期購読者にもフォーカスしない姿勢には、人々にサブスクリプション契約をしたい――そして更新したい――と思わせるだけの、魅力的コンテンツの常時提供が不可欠だと、アドゲイト氏は指摘する。
2020年を通じて、ニュースは買うもの、という概念がある程度浸透したのは確かだ。しかし、2021年にも今年のような衝撃的ニュースが相次ぐとは考えにくいなか、消費者の財布の紐を緩めるには、よりいっそう強力な動機付けが必要となる。
サブスクと共存する広告事業
Quartzの広告事業はプログラマティックではなく、主に直接販売からなると、スワード氏は語る。そして、広告事業の循環的性質上、広告収益は第4四半期に最大となるのが常ではあるが、氏はこの伸びについて、今年度初頭からの嬉しい巻き返しであり、「2021年に向けて、我々の大いなる自信の源になっている」と語る。
そして、その成長をさらに促進するべく、ネイティブコンテンツおよびコンテンツトランスフォーメーション事業にフォーカスしていくと、スワード氏は語る。氏によれば、それはつまり、ブランドのホワイトペーパーとリサーチ結果を収集し、それを同社コンテンツチームにより、クォーツの言葉で独自のコンテンツに変えて行くことだという。
また、サブスクリプション数の増加は、広告事業にとっても明るい兆しだと、スワード氏は言う。
「我々は、広告とサブスクリプションという2つのビジネスは、実は共生関係にあると見ている」とスワード氏。「両者は相容れない存在とされることが少なくないが、我々の経験では違う」。
登録者数が増えれば、ターゲットオーディエンスに関するデータおよび知見がそれだけ増えるわけであり、それを編集チームと広告主で共有できるからだと、スワード氏は語る。
「昨年度、サブスクリプション事業は倍増したわけだが、この急成長には読者に関するデータもそれだけ増すという利点があり」、これを利用してファーストパーティデータを構築し、サードパーティクッキーから離れることができると、氏は断言する。
「ビジネスを改善する」という使命
ただし、Quartzを救うのはやはり「ビジネスを改善する(Make Business Better)」という使命であり、その姿勢に基づき、読者に対する長期的フォーカスとして、既存および今後のエディトリアルプロダクトをなおいっそう充実させていくと、スワード氏は語る。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)