ライフスタイルパブリッシャーのコンプレックス・ネットワーク(Complex Network)が12月7日から5日間にわたって開催したバーチャルイベント、コンプレックスランド(ComplexLand)は、革新的なブランドスポンサーシップやバーチャルコンテンツを膨大に盛り込んで、まったく新しい世界観を確立した。
バーチャルイベントに、人々を参加させるのは容易ではない。
だが、ライフスタイルパブリッシャーのコンプレックス・ネットワーク(Complex Network)が、12月7日から5日間にわたって開催したバーチャルイベント、コンプレックスランド(ComplexLand)の参加者に、迷いはなかった。このイベントがほかと一線を画すのは、革新的なブランドスポンサーシップやバーチャルコンテンツを膨大に盛り込んで、まったく新しい世界観を確立した点だ。
たとえば、ベルサーチ(Versace)やヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)のようなスポンサーブランドは、仮想世界を自在に動き回り、参加者に話しかけるインタラクティブなキャラクターを用意。またイーベイ(eBay)は、フライヤーやグッズを配る代わりに、アプリのダウンロードを通じて景品のスニーカーを見つけるためのヒントを提供した。
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コンプレックスランドのブランドスポンサーは、ペリエ(Perrier)、アドビ(Adobe)、ヘッド&ショルダーズ(Head & Shoulders)、ユニバーサルピクチャーズ(Universal Pictures)、イーベイ、ヒューレット・パッカードなどだ。各ブランドが掲げるマーケティングの目標はそれぞれ異なるが、いずれのコンテンツも、ユーザーの積極参加が必要な点で共通していた。
では、各企業はどのようなバーチャルコンテンツを提供したのか。まずはイーベイだ。同社は参加者に対してスニーカーのプレゼントを用意。参加者はそのスニーカーを手に入れために、アプリをインストールしてヒントを得て、それをもとにスニーカーを探す。また、アドビはCreative Suite(クリエイティブスイート)の認知度向上を目的に、ライブアートのスポンサーを務めた。一方、コンプレックスランドのシアタースポンサーを務めるショータイム(Showtime)は、新しいコンテンツを紹介するとともに、サブスクリプションへの加入を勧めた。
リアルイベントに匹敵する売上
イベント開催前に行われた米DIGIDAYの取材に対し、同社のスポークスマンは、コンプレックスランドの売上は、スポンサーシップとマーチャンダイズを合わせると、コンプレックスコン(ComplexCon)の2016年の初回開催時の売上に匹敵するものになるだろうと述べていた。また、加えて経費が少ないため、コンプレックスランドは手堅い収益を生み出すとも見られていた。ただし、スポンサーシップの条件や構造は公表されていない。また、このスポークスマンによると、2016年のイベントの売上は7桁(数百万ドル:数億円)で、損益分岐点をわずかに上回る程度だったというが、それ以上の具体的な数字は明かさなかった。
ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は、昨年のコンプレックスコンの売上は4000万ドル(約41億7000万円)であったと報じている。
コンプレックスランドは、コロナ禍を受けて必要に迫られて誕生したイベントだ。しかし、コンプレックス・ネットワークの経営陣は、バーチャルイベントが、今後のビジネスにおいて重要な役割を果たすと確信をもっている。
イベントの中身
「バーチャルイベントを成功させるには、『ムーブメント』『アクティビティ』『ゲーミフィケーション』の場を創造することが重要だ」と、コンプレックス・ネットワークの最高売上責任者、エドガー・ヘルナンデス氏はいう。「これはつまり、オーディエンスがよりアクティブになれる環境をつくりだすことを意味する」。
コンプレックスランドは多くの点で、今年初めて海外展開を予定していた、前述のコンプレックスコンに似ている。参加者たちは、対面イベントでそうであるように、パネルディスカッションをチェックしたり、スクリーンに映り出される映像を見たり、音楽パフォーマンスを聴いたりできるだけでなく、バーチャルのフードトラックで食事の注文まで可能だ(商品はは視聴者に別途デリバリーされる)。
もちろんショッピングも可能だ。ベルサーチといったハイブランドから、アディダス(Adidas)などのスポーツウェア、ステープル(Staple)などのストリートウェアまで、さまざまなカテゴリーの60以上のブランドが、5日間にわたって商品を販売した。そこで販売される商品の多くは、イベント参加者だけが購入できる限定品だ。
一部のブランドのコンテンツは、ブース出展に止まらない。コンプレックスランドには、NPCと略されるノンプレイヤブルキャラクター(non-playable character)が多数登場し、参加者がタスクをこなしたり、商品を購入したり、コンテンツを利用するのに役立つ情報を提供する。たとえばドナテラ・ベルサーチ(Donatella Versace)のキャラクターは、コンプレックス・ネットワークとベルサーチが共同開発した、限定スニーカーの入手方法と入手場所を参加者に教えてくれる。
「理想が現実になった」
コンプレックスランドをはじめとしたバーチャルイベントは、まだ新興メディアだ。それ故、大多数のブランドがマーケティング予算を費やす場にはなっていない。しかし、プラットフォーム内で行われることは、すべて測定と追跡が可能であり、しかも積極的なエンゲージメントを参加者に求めるため、マーケターにとってますます魅力的な選択肢になりつつある。
「これは、まさにブランドたちが求めていたものだ」と、AR/VR・エクステンデッド・リアリティ(XR)キャンペーンに特化したエージェンシーのトゥー・ゴーツ(Two Goats)の共同創業者で、同社のクリエイティブ・テクノロジストを務めるリッチ・カミングス氏はいう。「従来のイベント運営方では非常にコストがかかり、効率が良くない。だがいまや、こうした費用のかさむ物理的制作は過去のものになっている。バーチャルプラットフォームですべてがデジタルに(かつ追跡可能に)なった。ある意味、理想が現実になったのだ」。
バーチャルイベントの今後
ブランドたちは現在、遠い将来の計画に予算を使うことに消極的になっており、これはコンプレックス・ネットワークにとっても悩みの種であった。実際、同社がコンプレックスランドの構想を公にしたのは第2四半期だが、ヘルナンデス氏によると、スポンサーシップ契約が成立しはじめたのは、ようやく第3四半期に入ってからだったという。いくつかの企業については、第4四半期に進展があった。
しかしヘルナンデス氏は、日常生活が戻るにつれ、将来バーチャルイベントへの需要は高まるだろうと考えている。市場の不確実性が薄れれば、コンプレックス・ネットワークはさらに積極的にライブのバーチャルイベントを展開するだろう。
「バーチャルイベントは今後、我々のビジネスの中核を占めるものになると確信している。デジタルのマディソン・スクエア・ガーデンへと成長を遂げるにふさわしい」。
MAX WILLENS(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)