メディア業界ではこのところ、BuzzFeedのIPOの噂が「バズって」いる。BuzzFeed自身は否定しているが、CEOのジョナ・ペレッティ氏はインタビュー記事で、BuzzFeedの独立性を維持すべく努力しており、そのための選択肢としてIPOか非公開のままでいるかの両方が考えられると含みをもたせた。
メディア業界ではこのところ、BuzzFeedのIPOの噂が「バズって」いる。BuzzFeed自身は2018年に株式公開するという憶測について時期尚早だとしているが、CEOのジョナ・ペレッティ氏は「バラエティ(Variety)」のインタビュー記事で、BuzzFeedの独立性を維持すべく努力しており、そのための選択肢としてIPOか非公開のままでいるかの両方が考えられると含みをもたせた。
BuzzFeedがIPOに踏み切るかどうかよりも、さらに大きな疑問は、IPOを検討するBuzzFeedやそのほかのメディア企業(たとえばVice Media)にとって、株式公開がどんな結果をもたらすかだ。2006年の創設以降、BuzzFeedはさまざまな面でほかのパブリッシャーに見本を示してきた。具体的には、ソーシャルメディアを活用した効果的な拡散で従来メディアがリーチを失ったミレニアル層へ広告主がリーチするのを支援する方法、コンテンツ風の記事広告の普及方法、そして、エンターテインメント企業としての地位の確立の仕方などだ。
上場がもたらすデメリット
しかし、大勢が懸念しているのは、株式公開によりこうしたイノベーションが鈍化することだと、元モジラ(Mozilla)幹部のダレン・ハーマン氏は指摘する。同氏は現在、ベインキャピタル(Bain Capital)の未公開株投資部門に勤めている。ウォール街はイノベーションを評価することを理解しつつあるが、BuzzFeedが上場するとなれば、ウォール街は現代のメディア企業についてもっと学ぶ必要がでてくるだろう。
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「BuzzFeedは現代のメディア企業という新たな世界をウォール街に教えるという役割を担う。とはいえ、どの業界も流動的な状態にあり、BuzzFeedの説明を聞こうとする姿勢を見せてくれるだろう」と、ハーマン氏は予想する。
上場すると四半期ごとの決算報告が必要になり、結果が出るかどうかわからないリスクを冒すことは難しくなる。もちろん、常に例外はある。わかりやすい例がAmazonで、ジェフ・ベゾス氏は投資家に対し、経常利益を度外視して長期的な視野で経営することを納得させている。
投資家らは、BuzzFeedのネイティブアド戦略に先見の明があったと評価するかもしれないが、それ以外の投資を賢明でないとみなす可能性もある。パブリッシャーにとって、動画は手間も時間もかかるわりに、収益化が難しい分野だ。
内外に潜むさまざまなリスク
BuzzFeedの急速な国際展開では、現地メディアとのライセンス契約やジョイントベンチャー設立ではなく、たいていの場合、現地法人を自社で所有し運営する(owned-and-operated:O&O)アプローチがとられてきた。O&Oでは、パートナー企業と売上を折半する必要がないので、高収益が見込める。だが、固定費がかかるため概して高コストになる。一方、ニュースパブリッシャーとして、パートナーに運営を委託するよりも現地法人を保有する方が安全だという主張も一理ある。業務提携では、ブランド色が薄まったり、誤って伝わるリスクがあるからだ。
上場企業になると、BuzzFeedのニュース部門も、分社化を求められるほどではないにせよ、精査されることになりそうだ。2011年設立のニュース部門は、著名記者ベン・スミス氏を迎え、後にピュリッツァー賞受賞者マーク・スクーフ氏が率いる調査報道チームも加わったが、ずっとBuzzFeedの悩みの種だった。ニュースの収益化はつねに難しいが、トランプ時代でさらに困難になり、限りなく安全なコンテンツ以外を避ける広告主も増えてきた。ニュース部門と、軽くて儲かるエンタメ部門は、リソースの分配をめぐって緊張関係にあると報じられている。昨年、BuzzFeedは動画重視の戦略を推進するため、ニュース部門とエンタメ部門を正式に分割した。
実際、BuzzFeedはニュース事業の収益化を模索しはじめたばかりだ。その手段は主に非従来型のプラットフォームで、女性向けデジタルケーブル放送ネットワーク「オキシジェン(Oxygen)」への長編シリーズの販売や、Twitter用の朝番組の制作を行っている。
上場企業のCEOになるために
ベテランのメディアアドバイザーであり、クライスキーメディアコンサルタンシー(Kreisky Media Consultancy)の創業者でもあるピーター・クライスキー氏によると、急成長するスタートアップから安定し成熟したビジネスに移行する段階で、創業者の才能は往々にして企業と馴染まなくなるという。「大勢がトップに長居したがる」と、クライスキー氏は指摘する。「それが大抵トラブルにつながる。創業者はいつまでも、前進あるのみのスタートアップのつもりで会社を経営したがるからだ」。最悪の場合は、創業当初の猛烈な成長ペースが社内文化の問題につながり、それが非公開企業においては許容されていても、上場すると通用しなくなる。最近のUberの凋落がいい例だ。
「バラエティ」の記事で、ペレッティ氏は自身が上場企業の経営者にふさわしいかと聞かれ、常識が変わったと考えていると答えた。「創業したCEOが、上場企業のCEOになるために必要な資質を学ぶ事はできるようになった。だが、プロのCEOが創業者の文化や起業家精神を身につけることは難しい。15年くらい前は、これが逆だった」。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)