日本でも騒動になったネイティブアドの表記問題。アメリカのメディアでも日本同様にさまざまな議論が交わされている。実際に広告主や読者はどのように感じているのか? 米国の調査結果から分析する。
現在、ネイティブアドは物議を醸すほど、メディアが夢中になっているテーマのひとつだ。特に新聞や雑誌における記事広告の復刻版というべき、コンテンツ型ネイティブアドは真新しいものではないが、多くの広告主にとって見捨てておけない存在になっている。ニューヨークに本部がある全米広告主協会(ANA)が実施した会員へのアンケート調査によると、「2015年にネイティブアドへの予算は増加する見込みだ」と回答した広告主は63%もいるようだ。
しかし、現在多くのパブリッシャーは、ネイティブアドをどのように表記するべきか、統一の見解を持っていない。たとえば、米ハフィントン・ポストでは「presented by」、Slateでは「sponsored content」、ニューヨーク・タイムズでは「paid posts」という表記がされている。その一方、これまでの研究によって、多くの読者は通常の編集記事とネイティブアドの区別がついていないということが判明した。そうした、パブリッシャーの思惑が意図通りに読者に伝わっていない状態について、広告倫理のあり方が問われているのだ。
ここで、アドテクノロジー企業TripleLiftの最新調査データを見ると、この問題の奥深さが浮き彫りにされる。同社は、生物統計学(バイオメトリクス)を駆使したアイトラッキング調査を行う企業Stickyと協働し、209人の消費者を対象とした、ネイティブアドの表示方法に関するアンケート調査を行った。調査方法は、SargentoというWebサイトにて、「Presented by」「Sponsored by」「Promoted by」「Brought to you by」「Advertisement」という異なる5つのネイティアド表記を表示するものだ。
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それらのコンテンツが「広告を含んでいる」と気づいた人は71%ほどいたが、62%は「記事広告自体が広告だ」とは理解していなかった。さらに、アイトラッキング調査において「Advertisement」表記の認識率は最も低く、全体の23%となった。やはり、多くの人は面と向かって「広告」と表記されると自然と忌避してしまうのだろう。
出典:TripleLift
読者は広告を無視する傾向があるため、広告主は「Advertisement」という言葉をあまり使用せず、少し柔らかな表現の「Promoted by」や「Presented by」を好む傾向がある。TripleLiftがアンケートを行った際、回答者たちの多くは「Advertisement」と「Promoted by」という表記は、印象が良くないと回答している。「Brought to you by」と「Sponsored by」という表記の印象は悪くないようだ。
出典:TripleLift
その反面、従来から使われている言葉である「Presented by」や「Promoted by」という表記が、もっとも読者を困惑させる可能性があるという結果も出ている。
出典:TripleLift
読者を困惑させるのは大きなリスクが伴う。コンテンツマーケティングのメディアContentlyが2014年に行ったアンケートの結果では、被験者の半数以上がスポンサー提供のコンテンツを信用していないことが分かった。また、被験者の3分の2は、読んだコンテンツが企業のスポンサードだと判明すると「裏切られた」と感じるようだ。
また、広告主側も同様の認識でいる。全米広告主協会(ANA)会員を対象とした調査では、「たとえ明確な表示を定めなくても、ネイティブアドだと認識させることは必要だ」と回答した会員は、3分の2も存在するのだ。
出典:ANA
両方の結果を見る限り、マーケターと消費者は、広告の表示について同じ立ち位置にいると考えられる。特にマーケターは「Advertisement」や「Paid Content」が、もっとも明確にネイティブアドを表すと認識しているようだ。
出典:ANA
先述のアドテクノロジー企業TripleLiftのマイケル・ゴールドバーグCMOは、全世界で通用する表示方法を定めなければならないと考えている。「消費者を広告から敬遠させない方法を考えなければならない」と彼は言う。「多くのネイティブコンテンツは、正しい方法で行えば、直接宣伝を行わずとも必要な情報を消費者に届けることができる。バランスを保った表示を行えば、パブリッシャー、ブランド、読者にとって三方良しの結果をもたらすはずだ」
Contentlyの編集長であるジョー・ラザウスカス氏は「Advertisement」と表示しなくても、記事の本文内に「Sponsored content」表示し、記事のヘッドラインと広告の表示を色分けすることだけでも、ネイティブアドは明確なものになると話す。
また、広告であることを明確に表示しなくてはならないという議論のひとつとして、次のような意見もある。「読者が広告を出稿している企業に気がつかないと、広告としての意義がそもそもない」というものだ。
「もし読者がネイティブアドをスポンサードコンテンツだと理解していない場合、ブランドが数十万ドルもの費用を払って、パブリッシャーに広告を掲載する意味がない」と、Contentlyのラザウスカス氏。「そのようなことをするくらいなら、良質な記事を自社サイトに掲示し、よりコストのかからないペイドメディアやレコメンド型ネイティブアドなどで露出させた方が良い。そのほうが効率的で、読んだ人すべてがその企業からの発信だと理解できるはずだ」
日本では「PR」「Sponsored」「Powered by」「特別企画」「Presented by」という表記が散見されるネイティブアド表記。言葉は違ったとしても、抱える問題は、大きな差はなさそうだ。ただ、ひとつだけ言えることは、たとえ記事広告であってもコンテンツのクオリティさえしっかり担保できていれば、読者はきちんと理解してくれるということ。時代が進み、表現方法が変化したとしても、ブランド、パブリッシャー、読者の信頼関係の構築が、まずは目指すべきゴールなのだろう。
Lucia Moses (原文 / 訳:小嶋太一郎)
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