英「テレグラフ」は2016年11月、全コンテンツの20%をペイウォール内に移動させた。そしていま、1日の登録者数は、以前の300%まで伸びている。テレグラフは、それまで3年間にわたってメーター制課金モデルによって運営していたが、そこから編集者とともに課金の方策を考えられるよう大きな方針変更が成された。
英「テレグラフ」は2016年11月、全コンテンツの20%をペイウォール内に移動させた。そしていま、1日の登録者数は、以前の300%まで伸びている。
テレグラフは、それまで3年間にわたってメーター制課金モデルによって運営していたが、この変更によってログイン訪問者の数も同期間で比べると400%も成長しているという(比較対象のベースラインは低いものではあるが)。コムスコア(comScore)によるとテレグラフは、月間2000万の訪問者数を擁している。
編集者が課金記事を決定
この成功の鍵となったのは、サブスクリプション戦略に関して、エディトリアルとの連携を図ったことだ。特に昨年の11月以前には存在しなかったようなスタイルの連携が開始されたことが大きい。「エディトリアルからの連携を得ると口で言うのは簡単かもしれないが、11月よりも前はサブスクリプション運営はエディトリアルのチームとは切り離された場所で行われていた」と語るのは、テレグラフの最高顧客責任者のロバート・ブリッジ氏だ。
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現在、どのコンテンツがプレミアム会員だけが閲覧可能で、どのコンテンツが一般公開されるのか、編集者たちが完全にコントロールしている。この判断を彼らは、オーディエンスデータに基いて毎日行う。「彼らはどんなニュースがいま起きているかを考慮して、その場その場で判断する。そのためデータフィードバックの循環は、非常に重要だ」と、ブリッジ氏。
最終的にどの記事が新規登録に貢献しているのか、より理解することにデータが使われるだろう。「どんなコンテンツが登録やログインに結びついているかといったデータを得つつある。またどんなコンテンツがユーザーが料金を支払うに至っているかもだ。それに基づいて我々はエディトリアル戦略を運営している」と、彼は付け加えた。
マーケティングチームを増強
こういったコンテンツのいくつかは、予想通り大きなニュースを中心に展開されている。「フィナンシャル・タイムズ」やテレグラフは、ブレグジットを中心として、そして「タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」がトランプ政権を中心に、登録者数の増加を体験している。メーター制課金モデルを廃止した2週間で、有料サブスクリプションの数は前月と比べて600%にまで急増した。

テレグラフのトップページ。「PREMIUM」表記された記事がいくつか見える。
テレグラフはまた適宜、サブスクリプションのプロモーションを効率化するためにマーケティングチームも増強している。楽天マーケティングからマーク・ワックスマン氏を同社初のパフォーマンス・マーケティング・ディレクターとして雇ったのもその流れだ。彼はブリッジ氏が直接やり取りをする役職のうちの1人となっている(全部で7人)。
トップページ戦略で効率化
通常、Facebookといったソーシャルプラットフォーム経由で訪れる一度限りのユーザーと比べて、パブリッシャーのサイトに直接やってくるユーザーはもっともエンゲージメントが高い、ロイヤル読者である。そして、テレグラフはトップページ上のプレミアムコンテンツの割合が比較的高い。多くの場合、トップページに表示されているコンテンツの30%はプレミアム・サブスクリプションのコンテンツとなっている。これは数にして記事12本ほどだ。ときによっては、それ以上の場合もある。「トップページに直接来るユーザーの方が、お金を支払うユーザーである傾向が強い。そのため私たちはプレミアムコンテンツの30%をここに載せるのだ」と、ブリッジ氏は説明した。
その30%のコンテンツとは、当然、テレグラフ独自の記事だ。論説からニュース分析、そして独占インタビューなどがプレミアムコンテンツの常連となっている。フランスの国民戦線党首で大統領候補であるマリーヌ・ル・ペンのインタビュー「フランスのマリーヌ・ル・ペンの狙い:ヨーロッパの秩序を打ち砕くと説く」が最近の例だ。ほかには「デンゼル・ワシントン・インタビュー:私の親友は刑務所で50年間服役した」などがある。
EU離脱を希望するメンバーに関するルールを規定したリスボン条約50条についても、プレミアム記事として書かれた。これはブレグジット関連のニュースである。ブリッジ氏によれば「その日はトップページにプレミアム会員向けのコンテンツをより多く配信した。その直接の結果としてサブスクリプション加入の急増が見られた」ということだ。
重要なマイルストーン
テレグラフはまた加入者を増やすために、さまざまなプロモーション策を打っている。そのうちのひとつが50ポンド(約7000円)のクーポンだ。また、テレグラフに加入したユーザーは「ワシントン・ポスト」のデジタル版に1年間アクセスできるという特権もある。
直接的な読者との結びつきを作ろうとしているパブリッシャーであれば、メーター制課金は適切なアプローチではないだろう。それを廃止したテレグラフの判断は正しかった。そう語るのはメディア分析会社エンダーズ(Enders)のCEOダグラス・マクケイブ氏。「(メーター制課金は)ユーザーにして欲しくない行動を取らせてしまううえに、加入に結びつかない」。
マクケイブ氏によると、テレグラフの講読者数はそれでも比較的小さいものである可能性が高いが、この急速な成長はテレグラフのポジショニングの取り直しにとって、重要なマイルストーンとなるという。これは内部にも、彼らがもつジャーナリスト、読者、広告主にとっても同様だ。「パブリッシャーたちは、大きな数字だけを祝うこと以外にもフォーカスするべきものがある」と、彼は語った。
Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)