巨大プラットフォームは2016年、コンテンツに対してきちんと対価を支払う明確なサインを見せた。2017年、さらに多くのプラットフォームが小切手を切る力を有するようになるだろう。しかし、パブリッシャーたちは楽観視できない。このような流れが生まれた経緯と、今後を考察する。
Facebookは1年前、クリエイターやパブリッシャーに対して、新しいライブ動画機能の利用を求めていた。そのインセンティブとして、ニュースフィードにおいて、ライブ動画コンテンツの表示を優先させた。
さらにFacebookは、より強力なモチベーションも用意した。現金だ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、Vox Media、マッシャブル(Mashable)などのメディア企業だけでなく、ケビン・ハート氏、ゴードン・ラムゼイ氏といった個人に至るまで、140のクリエイターに対し、総額5000万ドル(約57億円)以上が配られた(さらに最近では、独自番組の購入について交渉中だったという報道もある)。
Snapchat(スナップチャット)は、コンテンツセクションの「ディスカバー(Discover)」における広告収益分配に加え、コンテンツのライセンス供与についてもメディア企業と交渉中だ。誰もが恩恵を受けられるわけではなく、支払額の上限はもちろんあるにせよ、これらは巨大プラットフォームがコンテンツに対してきちんと対価を支払うことの明確なサインといえる。2017年、さらに多くのプラットフォームが小切手を切る力を有するようになるだろう。
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目的はスケールを確保すること
しかし、これが利他主義から生まれるものだと期待してはいけない。プラットフォーム各社がもっとも気にかけているもの、それはスケールだ。結局のところ、プラットフォーム各社はスケールに合わせた広告ゲームを展開しているのだ。
そして広告、特に収益につながる動画広告を引きこむためには、広告主が関係構築を望むような上質のコンテンツを、しかも数多く有する必要がある。その先例がYouTubeだ。2013年、YouTubeはハースト(Hearst)やバイス(Vice)などのメディア企業に1億ドル(約115億円)を支払い、上質な番組制作を委託している。
「プラットフォーム各社はコンテンツの対価を正当に評価するということを、さまざまな方法で表そうとしている」と語るのは、CNNデジタル部門のゼネラルマネジャー、アンドリュー・モース氏。CNNはFacebookから有料でライブ動画制作を依頼されており、その対価は正しい方向への一歩だと彼は表現した。「メディアとプラットフォーム各社間の信頼は非常に強まってきた。1回目のデートは最高だったのならば、2回目のデートでは将来の関係性を確約する何かが必要だ」。
だが、楽観視はできない
一方、プラットフォームの寛容さには制限があり、平等に分配されるわけではない。Facebookライブ動画の報酬は、動画クリエイターが広告で収入を得られるようになれば打ち切られるだろう。Twitterはスポーツイベントのライブストリーミングに注力している。これは特定の時間に視聴者を集められる数少ない方法だ。Snapchatはライセンス料の条件を操作し、自身にとって確実に有利になるよう進めていくはずだ。
プラットフォーム各社はスケールを有し、さらにほかとの差別化を図れるなにかをもったメディア企業と仕事をしたいと考える。中堅以下の位置に、あいまいに存在する企業の多くは、力不足で取り残されてしまう。
同時に、従来のパブリッシャーは難局に直面することになる。予想よりも広告費を取り巻く環境が厳しくなるからだ(新参のデジタルパブリッシャーもこれを免れることはできない。加えて従来型のメディア企業の拠り所である、レガシーな収入もないのだ)。そういったプレッシャーがあることで、自社でなくプラットフォームに経費をかけ続けることが正当化できなくなるだろう。
付き合い方が模索されている
すでに2016年、全記事をFacebookのインスタント記事化していたパブリッシャーにも、それから手を引きはじめるものが現れた。Facebookでは読者データもFacebookに所有されてしまい、マネタイズに関するルールも決められてしまうのだ。
「新たなガードは古きガードの一部だ」と語るのは、デジタルメディアに詳しいビビアン・シラー氏。「プラットフォームで起きていることを鑑みると、これまでの経緯と変わらない」。
「従来型メディアの収益は、オーディエンスがデスクトップにシフトしていったことで打撃を受けた。そうであるなら、モバイルシフトでも同様のことが起こり、さらに厳しいものになるだろう。コンテンツは、収益がより分割されがちな社外のプラットフォームで消費されるからだ」と、ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)のグローバルデジタル部門を率いるM.スコット.ヘイバンズ氏はいう。
「この数年間で経済活動の利益がいかに分配されてきたかについて、パブリッシャーとプラットフォーム間で話し合いが行われている。もしパブリッシャーの努力が実らないのなら、彼らはプラットフォームの一部から手を引くことになるだろう」。
しかし、強い立場にあるものから撤退することはまずないだろう。
Luia Moses(原文 / 訳:Conyac)
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