2015年は動乱の年だった。メディアの説明責任が大々的に精査されるようになったからだ。
それにはもっともな理由がある。広告主は、自分たちが工面するお金が、ちゃんと人間に見られる広告に使われているという証拠が欲しいのだ。というのも、短期的な売上の増加を求めて、自動化やデータ収集の追求に執着するあまり、パブリッシャーの間で悪い慣行がはびこっている。そのため、消費者体験は著しく軽視されるようになったのだ。
消費者たちの一部はいま、アドブロックという方法で、アドテクに異議を唱えている。そんななか、パブリッシャーたちは、その対処法について、独創性を発揮しはじめてきた。
2015年は動乱の年だった。メディアの説明責任が大々的に精査されるようになったからだ。
それにはもっともな理由がある。広告主は、自分たちが工面するお金が、ちゃんと人間に見られる広告に使われているという証拠が欲しいのだ。というのも、短期的な売上の増加を求めて、自動化やデータ収集の追求に執着するあまり、パブリッシャーの間で悪い慣行がはびこっている。そのため、消費者体験は著しく軽視されるようになったのだ。
消費者たちの一部はいま、アドブロックという方法で、アドテクに異議を唱えている。そんななか、パブリッシャーたちは、その対処法について、独創性を発揮しはじめてきた。
Advertisement
アドブロックという消費者の「反乱」
メディアグループのニューズUK(News U.K.)で、オーディエンスおよび広告システム部門を率いるアレッサンドロ・デ・ザンチェ氏は、次のように述べている。
「過去12年、私たちは売上目標を追い続けてきたが、その目標はどんどん高くなり、そのために広告枠も増加した。それから、手っ取り早く利益を上げるために、アドテクノロジーが持ち込まれた。この過程でひどい扱いを受け、ないがしろにされてきたユーザーたちはいま、それに対するリアクションを起こしているのだ」。
こうなることが予見されていなかったわけではない。数年前、当時マイクロソフトの広告担当バイスプレジデントだったアンディー・ハート氏は、下手にターゲット化された広告を業界が制限できないようなら、消費者が反乱を起こすと予測した人間のひとりだった。しかし、この警告に誰も耳を貸さなかった。
アドブロックとビューアビリティ(可視性)をめぐる議論はどちらも、長期に渡って持続可能なデジタル広告戦略を組み立てるというより、短期間で売り上げを増加させることに依存しすぎている兆候がある。だが、より新しいモデルが現れてくるにつれて、それも変わり始めているようだ。
在庫を吟味、「質」を担保
たとえば「ガーディアン(The Guardian)」は先ごろ、パブリッシャーがトレーディング・デスク経由で購入するオフサイトのインベントリー(在庫)全体で、ビューアビリティが保証された広告に対してのみ支払いを行うと広告主に約束するという、危険な賭けに出た。
広告の到達率(リーチ)にこだわる業界では、販売可能なインプレッションの量を減らすことは大きな冒険だ。最新の数字から判断すると、業界全体の平均ビューアビリティ率は、パブリッシャーに直接持ち込まれたものか、ネットワークやアドエクスチェンジを経由したものかに関わらず、たかだか50%程度でしかない。
インテグラル・アドサイエンス(Integral AdScience)のマネージングディレクターを務めるナイル・ホーガン氏が、「ガーディアン」紙の発表時に指摘したとおり、これは、同紙が売上の半分を失ってしまう可能性があるという意味でもある。
だが、少しの間その打撃を受け入れれば、後で報われるだろう。広告主は、インベントリーの大部分が役に立たない、まがいものであるとしたら、量だけでは意味がないということを理解するようになっている。
短期的な激痛に耐える
攻めの姿勢に出たパブリッシャーがもうひとつある。オランダのスポーツ雑誌「フットバルインターナショナル(Voetbal International)」だ。
同誌はオンサイト・インベントリーの3分の1以上を切り捨て、オンライン広告の「標準広告料金表」を廃止して、ディスプレイ・インベントリーを、すべて公開オークションにかけることにした。すべては、持続可能なデジタル広告収入源を確保するためだ。
質の悪いインベントリーを切り捨てメディアの価値を高めた結果、「フットバルインターナショナル」は、本来ならインプレッションが減少することになるにもかかわらず、広告主からの入札が増加するという現象を目の当たりにした。
同誌にとって本当の試練は、インベントリーの35%を削減することで起こる短期的な売上減少という苦難に耐えることだった。だが、その取り組みは功を奏し、プログラマティック広告の売上が30%増加した。
アテンション購入という実験
2015年にはさらに、「フィナンシャル・タイムズ」に続いて、「エコノミスト」も、インプレッション・ベースの先にあるメディア販売方法を探り始めた。いまのところ、広告主を落ち着かせるにはビューアビリティで十分かもしれないが、すぐ近くに潜んでいるに違いない次のデジタル広告危機を黙って待っているわけにはいかないと考えた両誌は、今後起こるであろうトラブルに対して先手を打とうとしているわけだ。
「エコノミスト」誌は、大きな損失を回避するために「アテンション購入(attention buy)」に賭けることにした。ビューアビリティのためにサイトを最適化しても、広告主が必ずしもそれに見合うだけの成果を得られていないとわかったからだ。
広告主や広告代理店は、どのようなデバイスでも利用できる標準化された単一の取引指標をいまも欲しがっている(そして我々はいまのところ、クリックスルー率にこだわっている)が、たとえさまざまな矛盾がすっかり解決されたとしても、ビューアビリティが万能の特効薬になることはないだろう。「エコノミスト」誌の調査でも、特に平均滞留時間が長い、より深い内容のコンテンツがあるサイトでは、ビューアビリティ・ベースの取引では不十分という結論が出ている。
重視すべきは長期的な目標
パブリッシャーたちが直面しているのが、アドブロックに対する恐怖であれ、ビューアビリティへの需要に応えろという圧力であれ、あるいは違う種類の逆風であれ、何かしら独創的なアプローチが取り入れられようとしている。
そこでは、短期的な利益を得るという目標より、もっと長期間に渡るデジタル広告売上の増加という目標が重視される。2016年にはそうした方法がもっと登場することが望まれる。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)