政治ポッドキャストから多様化するクルックト・メディア:テレビと映画のプロジェクトも

政治を扱う進歩的なポッドキャスト番組で、その名を知られるようになったクルックト・メディア(Crooked Media)は、ヒット番組「ポッド・セーブ・アメリカ(Pod Save America)」で有名だ。クルックト・メディアは前オバマ政権を支えたスタッフたちが立ち上げた企業でもある。2017年1月の立ち上げ以降、同社の12の番組は合計で8億9000万回再生されてきた。

だが、クルックト・メディアは政治分野、さらにポッドキャストにもとどまる気はないらしい。創業者の自己資金で2年前に立ち上げられた同社は現在40名の従業員を抱えており、13本目のポッドキャスト番組「ホワット・ア・デー(What A Day)」の配信を予定している。同番組はその日のトップニュースについて15から20分間の解説を行う予定だ。クルックト・メディアは今後2年間でさらに15本の番組の配信を計画している。このうちのいくつかは、政治とは異なる分野の番組となる予定だ。

同社の提供するコンテンツは、現時点ですでに純粋な政治にとどまらない広がりを見せている。最後に配信を開始した「アメリカ・ディセクテッド(America Dissected)」は、健康についてのポッドキャスト番組で、デトロイトの元公衆衛生ディレクターが番組に参加している。また、ポップカルチャーに関するポッドキャスト番組「キープ・イット(Keep It)」は、エンタメの世界からセレブをゲストとして招いており、これまで100以上のエピソードが配信された。

「政治だけではない。歴史から得られる教訓や、米国の歴史に残るさまざまな瞬間を異なる角度から分析するといった内容だ」と語るのが、クルックト・メディアのクリエイティブ開発制作担当リーダーのサラ・ガイスマー氏だ。同氏はNetflix(ネットフリックス)とFox TV(フォックスTV)で役員を務めた経歴も持つ。「ポッドキャストのドラマ番組すら試しているところだ。これまで上手くいっていた分野にとどまらず挑戦していきたい」。

テレビと映画のプロジェクトも

クルックト・メディアはポッドキャスト以外にもテレビと映画のプロジェクトを進めている。2020年の米大統領選挙をテーマとしたドキュメンタリーのシリーズ番組だ。同社は2018年にはHBOで放送された4部作の特番を制作している。政治報道で知られるクルックト・メディアだが、今後は報道する分野を広げていきたいとしている。

クルックト・メディアはこういったポッドキャストやテレビ、映画の新プロジェクトでオーディエンスの拡大を狙っている。特に前述のポッドキャスト番組「ホワット・ア・デー」は、ガイスマー氏が「若い層(20代から30代)とクルックト・メディアの熱心なオーディエンスに向けた番組だが、新規オーディエンスの獲得も目指している」と位置づけている。

ガイスマー氏はクルックト・メディアのオーディエンス獲得と成長戦略として、物的な投資だけでなく人材への投資も組み合わせていると語る。「ポッドキャストにおける成功はパーソナリティなくしてありえない。物的投資だけでなく人材も重視することが求められる。ニュースを伝えるパーソナリティがいるからオーディエンスが集まるのだ」。

ポッドキャスト広告が主な収入

COOのサラ・ウィック氏によれば、クルックト・メディアの最大の収益源がポッドキャストの広告で、それに次ぐのが商品販売とライブイベントだという。同社は過去2年で6番組のツアーチケットを10万枚以上売りさばいている。また、テレビと映画製作、ニュースレターの広告販売、文章コンテンツや動画といった分野でも成長を続けている。

ポッドキャスト業界にはより多くの広告資金が流入している。IABとPwCは毎年ポッドキャスト収益レポートを発表しているが、3年目の今年のレポートによれば2018年にマーケターがポッドキャストに使った費用は4億7910万ドル(約521億円)で、前年度比で53%増となっている。2021年までに広告支出は10億ドル(約1090億円)に達する見込みだ。

広告資金が流入している現在、ポッドキャストへの参入は比較的容易だ。だが、IABのモバイル担当バイスプレジデントを務めるゾー・スーン氏はオーディエンスの獲得は困難を伴うと指摘する。ポッドキャスト番組は、いまや数億もあるためだ。スーン氏はポッドキャストのなかでも特に人気の高い分野である犯罪ドキュメンタリーやニュース、政治を扱う番組は「広告主が近寄りたがらないコンテンツなため収益化が難しい」と語る。

オーディエンスに行動させる力

だが、クルックト・メディアはD2Cブランドのエバーレーン(Everlane)やバークボックス(BarkBox)、メディアブランドのQuartz(クオーツ)、フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)、Netflixといった広告主を集めることに成功している。

クルックト・メディアの販売パートナー企業ケイデンス13(Cadence13)で最高コンテンツ責任者を務めるクリス・コーコラン氏は「クルックト・メディアの番組は(司会が)スポンサーについて非常に面白おかしく話をする」と指摘する。「話が会話の一部のように自然だ。笑えるが同時に商品を買いたいと思わせる内容になっている」。

リンガー(The Ringer)の「キーピン・イット1600(Keepin’ It 1600)」の番組作りを行っていたスタッフが番組を離れてクルックト・メディアを立ち上げたその当時から、クルックト・メディアはこのオーディエンスに行動させる力を強みとしてきた。

2017年に行われたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)のインタビューで、同社の共同創業者のジョン・ファブロー氏は「政治に関するポッドキャストを続けるだけでなく、ポッドキャストネットワークの拡大や動画への参入も行いたかった。『キーピン・イット1600』の頃のような政治分析だけではない、先進的なメディア企業にしていくとともに、積極的な行動や組織作りを促したかった」と語っている。

政治への関心を高めるのも目標

クルックト・メディアはオーディエンスを増やすことだけに執着しているわけではない。米国民に投票を促し、政治への関心を高めるのも同社の目標だ。それを端的に表しているのが同社が立ち上げたプラットフォーム「ボート・セーブ・アメリカ(Vote Save America)」で、登録者に対して投票とボランティア、候補者について学ぶことを促す場となっている。

「選挙に向けてできる限り多くの人にリーチすることを目指している」とウィック氏は語る。「もっとたくさんのポッドキャストと文章コンテンツ、動画を作っていきたい」。

Photo credit: Crooked Media
Deanna Ting(原文 / 訳:SI Japan)