メディアにはVCが押し寄せている。過去3年間で推定156億ドル(約1.73兆円)の資本が投入された。これらの企業の少なくとも一部は、「成長」メディア企業としての恣意的な目安である1億ドル(約111億円)を超える収益水準に到達することが期待される。しかし、1億ドルに到達するのは容易なことではない。
3月はじめ、ラップミュージックのアノテーションプラットフォームとしてスタートしたGeniusは、今後、事業を動画に集中することを決定した。これはよく耳にする話だ。ベンチャーキャピタルの支援を受ける企業は、成長を強く求める投資家たちを満足させようと躍起になり、儲かる収益源の期待がかかるものに希望の目をむける。
メディアにはベンチャーキャピタルが押し寄せている。調査会社Preqinによると、過去3年間で推定156億ドル(約1.73兆円)のベンチャーキャピタル資本がデジタルメディアの取引に投入されている。これは3年前と比較して45億ドル(約5000億円)の増加だ。これらの企業の少なくとも一部は、「成長」メディア企業としての恣意的な目安である1億ドル(約111億円)を超える収益水準に到達することが期待される。
1億ドルに到達するのは容易なことではない。Business Insiderは、Axel Springerとの取引をまえにして、それをクリアできなかった。情報に基づく推定によると、大手デジタルメディア企業のうち1億ドルの水準に達しているのはわずかであり、BuzzFeed、Vice Media、Vox Media、Refinery29、Huffington Post、Bleacher Reportがそこに含まれる。
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「常に1億ドル到達が目標だった」。こう語るのは、メンズ・ライフスタイルメディアのComplex Media創設者でCEOのリッチ・アントニエッロ氏だ。4月、VerizonとHearstは、2億5000万から3億ドル(約278億円から333億円)で、Complex Mediaを買収するために協力した。「この取引は広告業界にとって極めて重要な取引であることから、多くの企業はこれを会社が今後さらに拡大し、長寿命で成長能力をもつ『根拠』だと捉えている」と、アントニエッロ氏。
1億ドルに到達できない原因
しかし、この規模に到達する企業はひと握りにすぎない。多くの企業は5000万ドル(約56億円)かそれ以下で立ち往生するだろう。つまずく原因は非常に多くの必要条件があるためだ。独自のオーディエンスを持ち、オーディエンスとエンゲージメントを常に拡大させ、差別化を図り、複数のプラットフォーム上で影響力を持ち、利幅を改善することが必要だと、アントニエッロ氏は述べる。
「大部分の企業は、1億ドル規模到達のためにクリアする必要がある、これらすべての課題はおろか、そのひとつさえ解決できていない」と、アントニエロ氏。その結果、最近では、リスクが低く「すべてをつぎ込む」必要のない投資の割合が、パブリッシング企業の無条件の買収よりも大きくなっている。
広告に依存するパブリッシャーは、ベンチャーキャピタルの成長への期待に応えることが困難なビジネスモデルに縛られるため、苦慮することになる。その他の事業が収益を予測できるサービス契約に基づく一方で、パブリッシャーはいつも次の広告契約を売り込んでいかなければならない。広告の平均的な購入額が10万ドル(約1100万円)とすると、年間収益が1億ドルに達するためには年間1000件の取引を獲得しなければならない。それだけの数を獲得するためには、おそらく3〜4回は売り込みをかける必要があるだろう。
「毎年1000件の取引を獲得することは難しい。それはセールスチームにとって負担になる」と、Cheezburgerの元チーフリスクオフィサーで、現在はネイティブ広告のプログラマティックプラットフォーム、ZemantaのCEOを務めるトッド・サウィッキ氏は語った。
解決方法とさらなる問題点
多くのパブリッシャーは、収益目標を達成するのに、そこまで多くの取引の必要をなくすために、広告注文の平均規模を大きくして、仕事量を減らそうとしてきた。そのひとつの方法は、自分たちのオーディエンスを新たな水準に拡大することであり、我々が海外市場や新たな業種に手を広げている企業(Business Insider、Huffington Post)を目にするのはそれが理由だ。だが、これにはリスクを伴う。オーディエンスが大きくなればなるほど、ブランドイメージが弱くなる可能性が高くなる。そして、規模拡大のハードルは大きくなる。
パブリッシャーが成長を狙って利用するほかの2つの主な方法は、ブランデッドコンテンツや動画広告の直接販売だ。それにより、より高いレートを意のままにできる。Mashable、Vox Mediaといった企業は、ブランデッドコンテンツをサービスの中核としている。ただし、ブランデッドコンテンツはいまだに売り込みベースで販売されており、その制作には非常に労力を要し、利益に影響する。
もうひとつの方法は動画で、Refinery29からBusiness Insider、前述のGeniusまで、すべての企業が飛びついている。CPMは高く、広告表示に際してパブリッシャー間の競争も少ない。しかし、成功させるのは難しくコストもかかる。動画の大半はパブリッシャー自身のサイトではなく、収益化の明白な道筋もないFacebookなどのソーシャルメディアプラットフォームで視聴されている。
「ベンチャーキャピタルの支援を受けた企業の多くは、収益化の約束もされていないプラットフォームで規模を拡大している」と、Atlantic Mediaのプレジデント、マイケル・フィネガン氏は述べる。
あえて自力で進むこと
Bleacher ReportおよびBustleの創設者、ブライアン・ゴールドバーグ氏は、収益1億ドルの到達は信じられないほど画期的な出来事だと語った。しかし、5000万人のユニークビジターと年間収益5000万ドル(約56億円)をめざすこと、つまり 彼が「50/50」ルールと呼ぶものは、とりあえずの目標としては最適だという。
ゴールドバーグ氏はこう述べた。「その水準を下回るメディア企業は、そのラインを上回るために、互いに力を合わせることを検討すべきだ。とはいっても、翌年にはその目標に近づくことを期待したい。我々は2018年後半にはやすやすと『100/100』の領域に到達することが可能だろう。いまはまだ、そこまでは行っていないが」。
1億ドルという苛酷な目標に近づくもうひとつの方法は、たくさんのニッチパブリッシャーがそうしているように、ベンチャーキャピタルからの資金調達をあえて避けて自力で進むことだと、サウィッキ氏はいう(米DIGIDAYもそうした自力で進む企業のひとつに挙げている)。「ベンチャーキャピタルから資金調達するという考えは、やみくもに崇拝されている。大手メディア企業は例外だ。しかし、すべての企業がそうである必要はない」と、彼は語った。
Lucia Moses(原文 / 訳:Conyac)
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