もはや動画はYouTubeだけのものではない。盤石な動画共有のエコシステムを築き上げ、しばらくその地位は揺るがないと思われた絶対王者YouTube。しかし、意外なところから新たな伏兵が現れた。そのチャレンジャーは、動画と […]
もはや動画はYouTubeだけのものではない。盤石な動画共有のエコシステムを築き上げ、しばらくその地位は揺るがないと思われた絶対王者YouTube。しかし、意外なところから新たな伏兵が現れた。そのチャレンジャーは、動画とは一見距離を置くソーシャルネットワークサービス、Facebookである。「近況報告」という仮面をかぶった動画シェアは、いつの間にか王者の懐に迫っていたのだ。
1. 収穫期を迎えた、絶対王者YouTube
2014年7月中旬に発表されたGoogleの第2四半期決算は、投資家の期待を越えた。売上高が177億ドル(約2兆2,000億円)で、前年同期の159億ドル(約1兆9,500億円)から11%伸びた。純利益は39億3,000万ドルと、前年同期より10%以上伸びている。
ルース・ポラット最高財務責任者(CFO)は、好業績の要因のひとつはYouTubeにあるという。発表によれば、YouTubeのユーザーは10億以上。モバイルシフトも万全で、モバイルユーザーの視聴時間は1セッションあたり40分もある。昨年同期比で、60%も伸びた。
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これは、創業10年を迎えるYouTubeが「収穫期」を迎えたことを意味している。2005年創業した同サービスは、翌年にGoogleが16億5,000万ドル(当時のレート約1,950億円)で買収。収益性ではなく、プラットフォームとしての定着をねらう戦略が奏功し、いまや世界中にユーザーを抱えている。
YouTubeにおける動画共有のエコシステム構築が始まったのは、2011年。投資された予算は、米DIGIDAYの記事によると、累計1億ドルという。まず、世界中で現れた「YouTuber(ユーチューバー)」という新しいスターに着目した。日本では「はじめしゃちょー」「HIKAKIN」による、大型キャンペーン「好きなことで、生きていく」は記憶に新しい。
さらにYouTubeは、コンテンツ制作者を支援し、人気「YouTubeチャンネル」の確立を進めた。2014年11月には、ニューヨーク・マンハッタンに、チャンネル登録者数5,000人超のクリエイター専用のスタジオを設立。最高の機材とスタジオが利用できる一方、ビデオによる広告収入の45%はYouTubeに収めるルールで開放している。
加えて、YouTubeなどをテレビで楽しめるデバイス「Chromecast(クロームキャスト)」をリリース。配信インフラを独自の手法で拡大した。タレントに脚光を当て、製作者を支援し、独自の放送インフラを提供する。これは新しい「テレビ」システムの創造といえるだろう。
2. 意外な伏兵、挑戦者Facebook
しかし、独占はかなわない。強力な対抗馬が現れた。Facebookの動画が、潜在的な可能性を示したのは、2014年夏に世界中で流行した、氷水をかぶるゲーム「アイス・バケツ・チャレンジ」である。このゲームの動画は、YouTubeではなく、Facebook上で、1,700万回シェアされた。
Facebookユーザーの視点では、FacebookビデオはYouTubeより使いやすい。YouTubeを経由しなければ、シェアは格段に簡単になる。また、このムーブメントには、次にチャレンジする相手を指名するというルールがあった。それがソーシャル・ネットワークという、人を繋げるプラットフォームにハマったのだろう。
Facebookの月間アクティブユーザー数(MAU)は、2015年6月30日時点で14億9,000万人。これを同社の動画プラットフォームに誘導している。実際、Facebookの動画がYouTubeユーザーを飲み込んでいるという統計も存在する。
2015年のcomScore調査によると、同年7月時点でYouTubeのユニークビューワー数(デスクトップ視聴のみ)は16億9,219万、Facebookのユニークビューワー数(同)は8億9,357万と追い上げている。また、socialbaker調査によれば、2014年11月にウェブ上に投稿された動画の内訳で、Facebook動画がYouTubeを追い抜いたという。
各サービスに投稿された動画数の推移を示すsocialbakersの調査
米国のブランド企業はFacebook動画を「発見」した。2014年3月から導入されていたニュースフィード内の動画広告に、2015年初頭から広告主が殺到。良質なユーザーデータを保有するFacebookは、ターゲティングをさらに洗練できると主張している。
追い込みをかけるようにFacebookは、コンテンツ製作者への収入分配比率をYouTubeと同じ55%に設定。YouTubeの製作者を引き抜こうとしているのだろう。だが、まだ主要なパブリッシャーは、両方へコンテンツ提供するところがほとんどだ。加えて、Facebookにも弱みがある。動画の再生カウント方法が不透明なことに加え、海賊版がはびこり、YouTubeコンテンツの無断転載が相次いでいるのだ。
3. 争点は「ビューアビリティ」という新指標
特に判断が難しいのは、フィード内動画広告のオートプレイ(自動再生)である。画面に表示された途端に自動再生する動画は、実際に視聴していない人までカウントしている可能性があると、広告主は不満を持っているという。YouTubeは、そのFacebookが展開する動画広告の「不透明性」を執拗に責め立てている。争点は「ビューアビリティ(Viewability)」だ。
これは「全米広告主協会(IAB)」が定めた指標で、モニター上に動画枠が50%以上表示されたうえ、最低2秒間以上再生されることで、動画広告が有効に機能したものと判断するもの。要は、Facebookのフィード上で動画広告が流れてきても、即座に画面をスクロールされてしまったら、広告としての意味がないということである。
ちなみに、YouTubeのコンテンツ視聴前に流す「プレロール広告」と呼ばれる動画広告メニューには、ふたつの種類がある。全体の85%を占めるスキップ可能の「TrueView広告」 と、最後まで視聴しなくてはいけない通常広告だ。
加えて、Googleは2015年5月の発表文書で、一般的なデスクトップ上の動画広告では「ビューアビリティ」は53%だが、YouTubeでは87%に達していると主張。さらに動画広告のそれは、モバイルのほうが高まる傾向があり、YouTubeに限れば94%に上るとGoogleは高らかにうたいあげる。
Googleが提示する一般の動画広告(左)とYouTubeの動画広告(右)の「ビューアビリティ(Viewability)」
いまだにGoogleは、YouTubeの広告収入の内訳を公表していないが、動画広告の成長は約束されている。投資銀行ルマ・パートナーズの試算では2016年、広告動画市場は前年比34%の成長を遂げ、約100億ドル(約1兆2,300億円)に達するという。そこにFacebookがどのように絡んでくるのか、注目したい。
(吉田拓史)
photo by Thinkstock / Getty Images
<参考文献・サイト>
・「Google2015年第2四半期決算資料」
・電通報「業界人のためのYouTube論 #01 YouTuberだけが知っているWeb動画のルール」
・YouTube Creates Stars. Can It Keep Them?
・DIGIDAY「Brands confront video metrics mess in an age of autoplay」
・米メディア評価審議会(MRC)「MRC Accredited Viewable Display Impression and/or Ad Verification Vendors: Enhanced Description (as of 3/2/15)」
・全米広告主協会(IAB)「State of Viewability Transaction 2015」
・DIGIDAY「Watch out, YouTube: Brands have discovered Facebook video」
・DIGIDAY「Facebook’s off to a great start in video, but still has weaknesses」
・DIGIDAY「YouTube makes a move against brand-sponsored videos」
・DIGIDAY「Facebook courts publishers in looming YouTube battle」
・DIGIDAY「Facebook Video Is Driving YouTube Off Facebook」
・Facebook Q2015 Results
・Google「Are Your Video Ads Making an impression?」