広告主たちはYouTubeを従来のテレビに近いものとして認識しはじめている。通常であればYouTube広告にとっては有難い状況だ。しかしいま、広告主がマーケットに参加する理由はそこにはないと、複数のエージェンシーエグゼクティブたちは語る。
広告主たちはYouTubeを従来のテレビに近いものとして認識しはじめている。通常であればYouTube広告にとっては有難い状況だ。しかし、現状の広告マーケットでは、これは責任問題にもなる。
広告主側における変化はすでに、YouTubeの広告収益に影響を与えている。昨年と比べて、第1四半期のYouTube広告収益は合計で40億ドル(約4276億円)と33%の成長を見せた。しかし、その一方で3月末までにはこの収益成長は「1桁後半台」まで減速したと、アルファベット(Alphabet)のCFOであるルース・ポラット氏は先日の収支報告で語った。YouTubeのダイレクトレスポンス広告収益が「四半期全体では年比較で大きな成長を見せた」ものの、3月中旬にブランド広告収益が下がりはじめたと語った。
ここ6年において、YouTubeはもっとも人気のあるチャンネルたちを組み合わせて、プレミアムの在庫として広告主にパッケージ販売をしてきた。これによって従来のテレビよりも柔軟性のある、かつテレビのようなブランド認知度を作れるプラットフォームとして確立してきた。しかしいま、広告主がマーケットに参加する理由はそこにはないと、複数のエージェンシーエグゼクティブたちは語る。
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「YouTubeはキャンセルしやすい」
コスト管理と収益保護のプレッシャーのなか、広告主たちはブランド認知度を高めるよりは、プロダクトの売り込みを重要視している。こうした厳しい状況においては、ブランド認知とダイレクトレスポンスでは、やはりダイレクトレスポンスの方へと傾くのが通常だ。
これは広告主たちがブランド広告キャンペーンへの取り組みを検索やソーシャルといった、ダイレクトレスポンスへと方向転換することを意味している。テレビ広告に対する支出を広告主たちが削減しているなか、YouTubeのようなプラットフォームから支出を削減する方がはるかに簡単だ。
「YouTubeはほかの動画ベースの媒体と比べてもキャンセルしやすいという事実をクライアントの多くが突きつけている。リニアTVにおけるアップフロント契約すべてを解約することはできないかもしれないが、YouTubeの場合はスイッチを切るくらいの簡単さで広告を一時停止することができる」と、取材に応じたエージェンシーエグゼクティブのひとりは語った。
ビューは増えても価格は下がる
YouTube広告支出を停止する広告主もいるなかで、YouTubeが予約形式で販売するプレミアム在庫からの購入を止め、プログラマティック広告へと移す広告主たちもいると、エージェンシーエグゼクティブたちは述べた。取材に応じたメディアエグゼクティブのうち、ふたりは彼らのYouTubeチャンネルの収益アナリティクスにおいて予約形式からオークションベースのバイイングへのシフトを確認していると述べた。予約形式の場合はCPMは30ドルから35ドルであるのに対して、オークションの場合は5ドルから6ドルだと、PMGのソーシャルアカウント責任者であるティン・チェン氏は言う。
YouTubeの在庫に対するブランド広告主間の競争が減ったことで、パフォーマンスを重視してビュー毎のコスト(CPV)で広告を購入するマーケターにとって広告価格が下がるという影響が出ている。彼らは広告を最後まで見た場合(もしくは30秒視聴した場合)、もしくは広告をクリックした場合に広告代を支払う。通常であれば広告主はYouTubeに対してビュー毎に0.04ドルを支払うが、その価格はいまは0.02ドルにまで下がったと、2番目のエージェンシーエグゼクティブが語った。
YouTubeのCPVが低いことはパフォーマンス広告主たちの支出を集める助けとなってきた。2番目のエージェンシーエグゼクティブによると、自主隔離がはじまって以来、ストリーミングサービスの1社はYouTubeでのサブスクライブ会員獲得の広告支出を数%増加させたという。
しかし、YouTubeにおける広告は、検索やソーシャルプラットフォームほどは良いパフォーマンスを見せない。YouTubeをコネクテッドTVで見るオーディエンスが増えるなか、広告をクリックする傾向は低下している状況では特にそうだ。Facebook広告で費やされる1ドルあたり、広告主は通常は2ドルから3ドルの売り上げを得る。しかしYouTubeでは「0.50ドル以上の売り上げすら得られないかもしれない」と、チェン氏は語った。
その結果として、企業たちは支出をパフォーマンス広告へと動かしつつあるなかでも、YouTubeはその恩恵をもっとも受けているわけではないのだ。
「再度急所を突かれた状況」
先述のストリーミングサービスの広告主にとっては、「より低いファネル層のリマーケティング戦略でよく使われるものではない。我々はどちらかというとオープンエクスチェンジと、ウェブ上のどこにいたとしてもオーディエンスを探すという方向性に傾いている」と、2番目のエージェンンシーエグゼクティブは述べた。
YouTubeのオーディエンスは急上昇しているなかでも広告価格は20%の下落を見せており、今回の変化はメディア企業や個人の動画クリエイターたちの広告収益の減少にも現れている。この構造はYouTubeに限らない。「FacebookとSnapchat両方において、ユーザーの増加とCPMの減少を確認している」と、ハヴァスメディア(Havas Media)のソーシャル部門グローバル責任者であるジェス・リチャーズ氏は言う。
しかし、多くのパブリッシャーやクリエイターのデジタル動画ビジネスにおける主な収益源となっているYouTubeの方がその影響は大きい。オーディエンス数が高まったことで、値段が下がったことの影響が相殺されているパブリッシャーやクリエイターもいるなかで、年比較では収益が減っているところもある。「(辛い現状のなかで)再度急所を突かれた状況だ」と、メディアエグゼクティブのひとりは語った。
ビジネス再開のときには機会が
YouTube、そして収益をYouTubeに頼っているパブリッシャーやクリエイターにとっての希望は、ビジネスが再開をする段階になったとき、マーケターたちの店舗やレストランがオープンしていることを人々に伝える必要があることだ。マーケターはそのときにビルボードやテレビ広告を使って大きく宣伝することができるものの、より融通の効くオプションを求める可能性が高い。その一例がYouTube広告のように、彼らが入札できる広告だ。
「YouTubeがそのような融通性を持っていることは、第2四半期の後半と第3四半期において良い成果を生むことになるだろう」と、最初のエージェンシーエグゼクティブは語った。
Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)