YouTubeプレミアム(YouTube Premium)はこの1年で大きな成長を遂げた。だが、動画パブリッシャーからすると、まだ大きなサブスクリプション収益を上げられる場とはいえない。YouTube全体の収益のうち、YouTubeプレミアムのビュー数によって産み出される収益は、依然として少ないままだ。
YouTubeプレミアム(YouTube Premium)はこの1年で大きな成長を遂げた。だが、動画パブリッシャーからすると、まだ大きなサブスクリプション収益を上げられる場とはいえない。
YouTube全体の収益のうち、YouTubeプレミアムのビュー数によって産み出される収益は、依然として少ないままだ。YouTube上で月間平均1億ビュー以上を記録しているパブリッシャー4社の情報筋によると、YouTubeプレミアムから収益は、対前年比で100%を超える伸びになっているにもかかわらず、YouTube全体の収益における割合は、1桁に留まっていることが多いという。
ユーザー数と収益
情報筋によると、YouTubeプレミアムの閲覧数が増加しているのは確かなようだ。第1の情報筋は、YouTubeプレミアムのビュー数は、対前年比で80%伸び、収益は120%増加したといい、第2の情報筋は、ビュー数が200%伸びたという。ふたつの異なる情報筋は、具体的な数字を共有することは控えたが、2018年は、YouTubeプレミアムのビュー数と収益は、伸びていたといえるという。そして、YouTubeプレミアムは依然として、動画ストリーミングプラットフォームから得られる収益の「ほんの一部の」割合にしかなっていないともいう。動画パブリッシャーがYouTube上で得る収益の大半は、現在も広告からだ。
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ブランドイメージの刷新や価格の上昇、指標などを含めて、数々の劇的な変化が見られた2018年が終わり、成長の兆しが見えてきたことで、広告を表示しないサブスクリプションサービスに対する疑問が再燃している。その結果、過去には最大の売りとされた、サブスクライバーのみが閲覧できる限定的なコンテンツからパブリッシャーは去っていくことになるだろう。
「YouTubeは当初から正しいことを常にやろうと試みてきた」と、YouTubeにおける平均月間ビュー数が9桁を記録している、動画に重点を置いた情報筋のパブリッシャーは言う。「プラットフォーム上で顧客をサポートしたいと考えているように感じられる。YouTubeプレミアムは、まだこれから伸びる」。
YouTubeの広報担当者は、サブスクリプションサービスと同社がパブリッシャーに支払っている、広告サポート収益の差益についてのコメントは控えた。
アイデンティティはどこに?
「どの指標で見ても、2018年はYouTubeプレミアムとオリジナルのYouTubeがヒットした年だった」と、YouTubeの広報担当者は声明で発表した。「当社はYouTube Premiumを29カ国に拡大し、字幕があるものもあればないものもあるが、50を超える番組の配信を開始し、エミー賞に8作品がノミネートされ、30を超える業界で賞を受賞した。当社は世界ベースのファン層をさらに獲得するというニーズを満たす、すべてのオリジナルYouTube向けの広告の制作を開始する。オリジナルの次なる戦略は、オリジナルYouTubeのクリエイターのリーチを拡大し、YouTube世代の心をつかむ、信じられないほど素晴らしいコンテンツを広告主に届けることにある」。
同社が4年ほど前にサブスクリプションサービスをYouTube Redとして開始して以来、このストリーミング業界の巨人は、総サブスクライバー数を発表してこなかった。YouTube Redを開始してから1年後の2016年後半に、YouTube Redが150万人のサブスクライバーを獲得し、無料トライアルをベースにしてさらに100万人を獲得していたとバージ(The Verge)は発表している。
同社の歴史のどの時点においても、YouTubeプレミアムはそのアイデンティティに対する疑問に悩まされてきた。プレミアムコンテンツのための場所なのか、あるいは、単なる広告を表示しない形式のサービスなのか? はたまた、サービスを強化してSpotify(スポティファイ)に対抗する競合なのか? YouTubeプレミアムからのオリジナル番組も提供してくれるというが、YouTube TVに料金を支払う価値があるのか?
「方向性が見いだせない」
最近では、YouTubeは、自社が制作したいカテゴリのプレミアム番組について、明確に示唆するサインを送ろうと必死になっているというクリエイターもいる。「オリジナル番組のラインナップの面から見ると、戦略に明確な方向性が見いだせない」と、セレクトマネジメントグループ(Select Management Group)の共同経営者兼幹部プロデューサーであるアダム・ウェスコット氏は、昨年の後半に米DIGIDAYに語った。
YouTubeは広告サポートとプレミアムのビュー数を別々にマネタイズしようとしている。広告サポートビュー数は、YouTubeのプラットフォームを介して、またはパブリッシャーによって直接販売され、1000回表示あたりの広告コスト、いわゆるCPMに基づいてマネタイズしている。一方で、YouTubeプレミアムのサブスクリプション収益は合計視聴時間の割合に応じて支払ってもらう。YouTubeは両方の収益から45%を得る。
YouTubeプレミアムのサブスクライバー数が少なかったため、パブリッシャーはこれまでは、YouTubeプレミアムのオーディエンスが何を求めているかに関する手がかりを十分に得られていなかった。パブリッシャーは現在、YouTubeやYouTubeプレミアムの視聴者が通常、どのような種類のコンテンツを各自のチャンネルで視聴しているのか、はっきりと把握できる。理論上は、ビュー数が違うと、パブリッシャーにとってはそれが重要なサインとなり得る。たとえば、何十万ものYouTubeプレミアムのサブスクライバーが毎月、特定のカテゴリの動画を視聴していることがわかれば、番組戦略に影響を及ぼすだろうし、ある種の明確なフィードバックループを構築し、パブリッシャーは広告サポートコンテンツが産み出すのよりも多くの収益を産み出すコンテンツをより多く制作できるようになるだろう。
でも、無視できない理由
この話に関して訊ねるためにコンタクトを取ったパブリッシャーのなかには、そういったことを行うほどのビュー数は、いまのところまだないという。ある情報筋は、YouTubeプレミアムのビュー数が産み出す収益は少なすぎるため、どのカテゴリのビュー数がより重要かをわざわざ割り出す気にはならないという。「もっとも重視しているのは、もっとも影響を与えられるものにある」と、動画を重視する第3の情報源のパブリッシャーは語った。
サインが得られないことに苛立っている情報筋もある。彼らは特に、広告が表示されないプラットフォームに販売できるコンテンツ作品に注力しているという。「プレミアムコンテンツやプレミアムパートナーシップには、もっとも乗り出したい」と、第4の情報筋は言う。
「YouTubeを重視している理由は、収益的な観点からではない」と、その情報筋は述べた。「ユーザー的な観点からだ」。