YouTubeの広告不買騒動が起こり、「ブランドセーフティ」が今年のキーワードになっている。エージェンシー界隈からの情報によると、最初の事件から3カ月が経ち、ようやくYouTubeに広告主が戻りつつありとのことだ。これはGoogleがこの件に関して、広告主への対応が上手くいっているのが一因だという。
白人至上主義者やヘイトスピーチ扇動者たちの動画に大手ブランドの広告が表示されているという報道が3月中旬になされた。それを受けてロレアル(L’Oréal)からベライゾン(Verizon)に至るまで、数百のブランドがひと晩のうちにYouTubeにおけるバイイングを停止した。
そして、タイムズ・オブ・ロンドン(Times of London)は6月第2週、イスラム教過激派によるビデオに、英国選挙の広告が表示されていたと報じている。YouTubeにおけるこういった不幸な出来事が続くことで、「ブランドセーフティ」が今年のキーワードになっている。エージェンシー界隈からの情報によると、最初の事件から3カ月が経ち、ようやくYouTubeに広告主が戻りつつあるとのことだ。
広告トラッキング企業パスマティックス(Pathmatics)とメディアレーダー(MediaRadar)のデータによると、YouTubeに注がれる広告予算は安定している。これはGoogleがこの件に関して、広告主への対応が上手くいっているのが一因だという。
Advertisement
エージェンシーの見方
しかし、エージェンシーたちに言わせると、彼らの功績でもあるようだ。第三者の測定企業とパートナー関係を結ぶといったエージェンシー主導の対策が行われてきたという。もちろん、広告主としてもそもそも広告を停止したいわけではない。ビデオ業界においてYouTubeは、比類のないリーチを誇っている。特に若年層のオーディエンスに関しては突出している。
「(YouTube広告を停止した)クライアントとの話で、アクション単位のコスト増やメディアバイに関するROIの減少について心配していないところは、ほとんどない」と語るのは、グループM(GroupM)のデジタル広告オペレーションのマネージング・パートナーであるジョー・バローン氏だ。
バローン氏によるとグループMの米国クライアントは現在、「ある程度」YouTubeに戻ってきているという(リスクを減らすために購買量を小規模なものに抑えている広告主はいるようだ)。戻ってきたクライアントたちは、グループMがオープンスレート(OpenSlate)とパートナーを結んでローンチした測定プロダクトのおかげで、ある程度心配を解消したと、バローン氏は語った。オープンスレートはYouTubeに特化したビデオアナリティクス企業だ。3月にデビューしたこのツールは、YouTubeコンテンツそれぞれにブランドセーフティの点数をつけてくれる。また広告がどこで流れているかも報告してくれる。
YouTubeの代替手段
YouTubeにおけるサードパーティによる測定の重要性を説いているのは、バローン氏のエージェンシーだけではない。「サードパーティと協働することで重要なチェック機能を得ることができると思う」と共感するのは、キャンベルイーウォルド(Campbell Ewald)のソーシャルコンテンツ戦略のグループ責任者であるローラ・ストック氏だ。インターパブリックグループ(Interpublic Group)のエージェンシーであるキャンベルイーウォルドは、インテグラルアドサイエンス(Integral Ad Science)やほかのサードパーティの承認システムやブランドセーフティパートナーシップを利用している。
YouTubeを引き続き避けている広告主には、ほかの手段も残されている。「ある程度はYouTubeの代替となる高品質のビデオ市場のオプションは存在している。少なくともYouTubeで使われていた予算を向ける場所はたくさんある。もちろん、YouTubeをまったく抜きにしてメディアプランを考え直すのは困難だろうが」と、バローン氏は言う。
困難かもしれないが、必ずしも不可能ではないようだ。「Facebookを含めた代替プラットフォームは毎日増えている」と語ったのは、大手広告主のメディアバイ責任者だ。匿名を条件に取材に応じてくれた。彼の会社はYouTube広告を3月に止め、まだ戻ってはいない。「YouTubeは競合他社と比べて確かにパフォーマンスが抜きん出ている。しかし、この件に関して解決策を提示できないのであれば、我々はほかの方法を見つけるだろう。YouTubeほどは効率的ではなく、リーチもそれほど素早くは見られないかもしれないが、責任ある広告主という立場を妥協できない」とのことだ。
YouTubeを去った広告主たちが全体としてどのような悪影響を被っているか、情報を得るのは不可能だ。「YouTube広告を止めたという判断は会社の損になっていない、と会社は言うだろう」と、オープンスレートのCEOマイク・ヘンリー氏は言う。ほかにどのようなことを言っても彼らに良い影響は与えないからだ。
YouTubeが抱える恐怖
本稿の取材をYouTubeは断ったが、ポリシーを現在検証中であり、ブランドには広告に関してより大きなコントロールを提供することになると声明を出した。
この件に関して、YouTubeは対応をしようとしていると、エージェンシーも広告主も認めている。ブランドセーフティを揺るがす事件が起きてからの数カ月のあいだに広告主に優しいプラットフォームへのアップデートをいくつも行ってきている。たとえばYouTube上のどのようなチャンネルも最低1万ビューを獲得していないと広告を表示できないようになった。また、疑わしいコンテンツをチェックするためのスクリーン要員を追加で採用しているのも対応策のひとつであると、前述のバイヤーは述べた。
バローン氏も言う。「YouTubeは非常に努力をしている。これが一過性のものであるとは、YouTubeも考えていないようだ。彼らの収益に大きな影響を与えるかもしれないと、本当に恐怖を抱えている」。
David Teich(原文 / 訳:塚本 紺)