今週はデジタル広告のデュオポリー(2者独占)の話題だ。GoogleとFacebookがデジタル広告費の成長分の70〜85%を取り込んでいるとされているが、今週は「デュオポリー崩し」とみられる動きがみられた。 YouTub […]
今週はデジタル広告のデュオポリー(2者独占)の話題だ。GoogleとFacebookがデジタル広告費の成長分の70〜85%を取り込んでいるとされているが、今週は「デュオポリー崩し」とみられる動きがみられた。
YouTube広告ボイコットが英企業から米企業に広がったことだ。GoogleがYouTube広告のボイコットで7億5000万ドル(約830億円)を失う可能性がある、と野村傘下のインスティネットのアナリストが予測した。
同時期にデジタル広告3番手候補のSnapchat運営のSnapに対して、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、シティなどのウォール街の金融機関が買い推奨を出した(YouTubeからの広告費移転を見込んでいるのだろうか)。広告最大手WPPのマーティン・ソレル氏はSnapが、Google、Facebookに次ぐ広告出稿先の三番手になる可能性があると語っており、Snapには期待が注がれている。
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では、Snapの状況はどうか。Snapの上場申請書によると、Snapchatのデイリーアクティブユーザー(DAU)には伸びの鈍化傾向がみられる。

SnapchatのDAUの伸びは鈍化傾向。Via Snap上場申請書
テレビの当たりづらいミレニアル世代を抱えているとはいえ、GoogleやFacebookと比べるとユーザーの絶対数は小さい。SnapはDAUを提示していることから分かる通り、ユーザーのアクティブ性を売りにしようとしている(関連記事)。
ただ、デバイスをまたいだ個人データをもつGoogleやFacebookの広告商品と比べ、Snapchatの商品はまだ開発段階であり、その試行錯誤はDIGIDAYでも報じてきた。
Business Insiderによると、金融大手UBSはSnapには3つの課題があると指摘した。
- 3年でDAUを2億5000万まで増やせるか
- 3~5年で広告収益を50〜100億ドルまで増やせるか
- いつ黒字化できるか
Facebookは今週、インスタグラム、メッセンジャーに加えFacebook本体にもSnapchatの「消える動画機能」を載せたと発表した。Snapchatをコピーしたのは、ひとつは背中を押されているSnapに追走のチャンスを許さないこと。もうひとつはFacebookユーザーのアクティブ性が落ち込んでいることだと考えられる。
2016年4月時点のThe Informationの記事によると、個人によるシェア数が、2016年の年初段階で、一年前に比べ15%減衰したとされている。その後Facebookはライブ動画を導入。現在は長尺動画を優遇するとし、今後はテレビのようなプロコンテンツを載せる展開が考えられる。
三番手狙う通信ジャイアント
早い段階で検索以外のGoogle広告出稿を控えた大手通信ベライゾンとAT&Tもこの3番手レースの走者だ。ベライゾンはYahooの買収が、Yahooへの大規模クラッキングによるユーザー情報の漏えいで長期戦になっている。米DIGIDAYが引用したeMarketerの予測によると、ベライゾン、AOL、Yahooの広告収益は来年37億ドル(約4100億円)に達すると予測されている。
オラクル、セールスフォース、アドビ、IBMなどもデバイスをまたいだ個人データを管理する機能を開発しているが、モバイルはCookieの効力が弱いことが障壁であり、メールなどのツールもまた世代を下ると活用されていない。
しかし、通信会社はモバイルにある豊かな個人データをもっている。しかも、米下院は28日(米国時間)、インターネットの個人情報を保護するプロバイダー規制の撤廃を決議。トランプ大統領も撤廃に賛成と言われる。
撤廃はベライゾンとAT&Tがデータを広告事業に活用することを法的に裏付ける。広告主にデータを売ることも許容されるそうだ。GoogleとFacebookなどは元々トラッキングしているが。
以下、今週のほかのトピック。
▼GroupMがYouTubeブランドセーフティツール提供へ
WPPの旗艦広告代理店GroupMがブランドセーフティ確認ツールを広告主に対し提供すると発表した。YouTubeが過激派広告挿入問題に関して、ポリシーのアップデートと詳細な配信設定機能の提供によりブランドセーフティを達成すると発表していたことを頭越しした形。WPPは「ウォールド・ガーデン(塀に囲まれた庭)」と呼ばれるGoogle内の測定を求め続けてきた。今回のツールがWPPがGoogleに対して一定の影響力を握ることにつながるか。
▼ガーディアンがルビコン・プロジェクトを提訴
英紙ガーディアンは、アドテクSSPのルビコンがガーディアンのデジタル広告在庫を取引する際に、パブリッシャーに開示しない手数料をバイヤー側からとっていたとして、ルビコンを提訴する考えを米DIGIDAYに明らかにした。ルビコンは「売り手と買い手に対するフィーを分けている。(双方に対する別々のフィーは)両者に提供する価値を反映したもの」とDIGIDAYに回答している。
▼Spotifyがデジタル広告に投資
ビデオディスカバリー「MightTV」を425万ドル(約4億7000万円)で買収。広告会社、アドテク企業とのパトーナーシップを含め、無料の広告モデル部分に対し、独自広告商品を拡大する見通し。
▼滴滴出行がソフトバンクと6600億円調達交渉
非上場企業の調達としては巨大。滴滴出行は中国最大ライドシェアで、中国市場2位だったUber Chinaから事業譲渡を受け、市場独占ともいうべき規模。
▼イーロン・マスク氏、脳とコンピュータをつなぐ新会社Neuralinkを設立
新会社が開発するニューラルレースとは、脳に極小の電極を移植して、思考を伝達する技術。医療分野向けの製品になるとみられている。
Written by 吉田拓史
Photo by GettyImage