ベライゾン・メディア・グループ(Verizon Media Group)傘下の米ヤフーは3月最終週、自社サイトの更新版リリースを開始した。今回のデザイン刷新ではパーソナライズを強化したサイトをめざし、個々のユーザーの興味や関心に沿ったコンテンツをダッシュボードにカスタム表示できる機能を追加する。
先日、米ヤフー(Yahoo!)が発表した自社サイトのリニューアルは、広告代理店の幹部らによれば、日々閲覧しているユーザーにとっての利便性向上だけでなく、広告媒体としての米ヤフーサイトの地位回復に寄与するものになりそうだ。
ベライゾン・メディア・グループ(Verizon Media Group)傘下の米ヤフーは3月最終週、自社サイトの更新版リリースを開始した。今回のデザイン刷新ではパーソナライズを強化したサイトをめざし、個々のユーザーの興味や関心に沿ったコンテンツをダッシュボードにカスタム表示できる機能を追加する。今後数カ月かけて、米ヤフーメールのユーザーグループを対象に、新サイトのベータテストを行う予定だ。しかし、米ヤフー広告事業の観点からいえば、早期の本格稼働が望ましいだろう。オーディエンス情報を活用したビジネスチャンスへの期待から、リニューアル後のサイトが全ユーザーに公開される日が待たれるところだ。
米ヤフーへの広告主の関心
熾烈な競争が続くメディア業界では今、コンテンツのパーソナライズとターゲティング広告に利用可能なファーストパーティデータ活用に向けた取り組みが進んでいる。Chromeブラウザでのサードパーティcookieのサポート終了など、個人データ収集に関する規則の変更を見すえて、各企業が対応せざるを得ない状況だ。そんななか、米ヤフーのサイトリニューアル計画が発表された。
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米ヤフーは膨大な数のオーディエンスを獲得しつづけている。メディア測定と分析のコムスコア(Comscore)によると、2021年1月のサイト訪問者数は1億8000万人を超え、前年同月とほぼ同数に達した。安定したトラフィックを維持しているサイトながら、媒体としての米ヤフーに対する広告主の関心が薄れてきているとする意見もある。米DIGIDAYが今回取材した広告代理店の幹部3人によれば、広告主にとって米ヤフーのブランドは、親会社であるベライゾン・メディア・グループのブランドに比べて魅力に欠ける。理由は、エンゲージメント、広告パフォーマンス、ターゲティングの点で課題があるためだという。
WPPグループ傘下のメディア代理店マインドシェア(Mindshare)の米国デジタル投資部門でエグゼクティブ・ディレクターをつとめるクリスティーン・ピーターソン氏は、「米ヤフーがもたらす本当の価値は、米ヤフーだけでなくベライゾン・メディア・グループ全体から収集できるデータにある」と述べている。多数のオーディエンスのデータを入手するにはベライゾン・メディアのサイトが適しているが、特定カテゴリーの「信頼できるコンテンツ」を求めるなら米ヤフーのサイトがよいという。
一方、IPGが運営する代理店メディアハブ(MediaHub)のペイドサーチ部門バイスプレジデント、モハンマド・ハーク氏は次のように指摘する。「米ヤフーは膨大なオーディエンスと豊富なコンテンツを有している。それにもかわらず、広告主はユーザーのサイト検索やコンテンツへの反応を測定したデータをターゲティングに活かすのに苦労していた。ほかのパブリッシャーと比べて、米ヤフーではデータにもとづいた広告効果の改善が難しかった」。
メディアハブのクライアント企業の広告出稿状況をみると、「米ヤフーサイトへの投資額に最近大きな変化はないが、米ヤフーのネイティブ広告用ツールを利用する企業は少なくなったようだ」とハーク氏はいう。「クライアントがブランドセーフティや下流の広告パフォーマンスを疑問視しているからだろう。それでメディアプランにおけるネイティブ広告の需要が減っているのかもしれない」。
この刷新が転換点となるかも
モバイル広告ネットワークである「ヤフージェミニ(Yahoo Gemini)」は今、ベライゾン・メディア・グループが提供するネイティブ広告プラットフォームに統合されているが、「以前のジェミニは、ベライゾン・メディアを通じて多様な業界に巨額の広告投資をする企業向けのツールとして効果を発揮していた」と、スリーキュー・デジタル(3Q Digital)のメディアプランニング/戦略部門のディレクターであるベン・ダッター氏は語る。一方、「米ヤフーはサイト訪問者の多くがテクノロジーに弱い、または高所得者でないという特性があり、そのためパブリッシャーとしての評価はあまり高くない」という。米ヤフーはネットへの入口として使われる場合が多く、外部サイトから配信されるコンテンツは、ほかのパブリッシャーに比べて閲覧者のエンゲージメント率が低い傾向にある。
ベライゾン・メディア・グループの総売上高は2020年第4四半期、前年同期比11%増の23億ドル(約2528億円)に達した。2017年に45億ドル(約4945億円)で米ヤフーを買収して以来、業績が初めて前年同期を上回った四半期となる。同社は広告収入とその内訳(米ヤフーの寄与分)を開示していないが、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)の広告収入が前年比で41%伸びたというデータは公表している。
企業が広告出稿を検討する媒体としての米ヤフーの地位は下降ぎみではあるものの、サイトのリニューアルが転換点となるかもしれない。米ヤフーがオーディエンスのサイト利用を活発化させて収集可能なデータを増やし、広告主のキャンペーンに投入できる知見をもっと提供できるようになれば、状況は好転するだろう。「米ヤフーはコンテンツの宝庫だが、広告という観点からみれば、現時点では一部しか活用されていない」とハーク氏は述べている。
米ヤフーの広報担当者によると、リニューアル後のサイトでは大半のモジュールがダッシュボード上で移動できるため、個々のユーザーの興味や関心にもとづき、好みのページ設定が可能になる。モジュールのコンテンツはニュース、eメール、ショッピング、請求書、やることリスト、スポーツチーム、株価などさまざまで、これらのコンテンツやツールを組み合わせて画面をパーソナライズできる。この「可動式ダッシュボード」が最初に導入されるのは米ヤフーのトップページと米ヤフーメールで、ほかの米ヤフーページも順次リニューアルしていく予定だという。
バイヤーたちの期待は高まる
「コンテンツのパーソナライズ機能が充実すればするほど、ユーザーのサイト滞在時間は長くなる可能性が高い」とハーク氏はいう。「サイトの刷新でファネル下流でのエンゲージメント率が上がっていけば、広告主はより多くの予算を米ヤフーサイトにつぎこむことになるだろう」。
ダッター氏もこの見方を支持している。「米ヤフーサイト上でユーザーのアクティビティが盛んになれば、クライアント企業側でもメディアプランやエンゲージメント・プログラムの一環として、米ヤフーサイトへの露出を再検討する余地が出てくるはずだ」。
[原文:Yahoo’s latest redesign could help the website reignite advertisers’ interest]
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
ILLUSTRATION by IVY LIU