インターネット経済において、データはしばしば石油にたとえられるが、今週この2つのコモディティに新たな共通項が追加された。100年以上前にスタンダードオイル(Standard Oil)を解体に追い込んだ反トラスト法に違反するとして、かねてより米司法省がGoogleを提訴していたが、ついにこの訴訟の審理が始まったのだ。
米国対Googleの裁判が新たな展開を見せる今週、業界の観測筋は、金ぴか時代の最盛期に米連邦議会で可決された1890年制定のシャーマン反トラスト法について多くを耳にするだろう。
提案者のジョン・シャーマン上院議員にちなんで命名されたこの法律は、未曾有の好景気に沸く鉄道業界や鉄鋼業界で、俗に「泥棒男爵」と呼ばれた大資本家が独占市場を形成し、それによって企業間の競争や消費者の利益が損なわれることを防ぐための法律だった。歴史的な背景に触れるなら、1890年とは、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが没し、チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」が初演にかけられ、アイダホ州とワイオミング州がそれぞれ43番目と44番目の州として米合衆国に加入した年だった。
独占化ではなく独占の維持をめぐる訴訟
「シャーマン法」は「Google」とは異なり、誰もがよく知るなじみの言葉ではない。Googleトレンドのデータによると、8月の最終週に「シャーマン法」を検索した人はわずか61人で、今年1月下旬に米司法省がGoogleに対して2件目の反トラスト法裁判を起こした週よりも数十件程度少なかった(今週審理が始まる訴訟は、2020年にトランプ政権下で提起された)。
米司法省の主張はシャーマン法第2条に依拠している。同法第2条は、米国内または他国との「貿易または商取引のいかなる部分」についても、これを独占すること、独占を企てること、または独占の意図をもって他者と共謀することを禁じている。
政府がその正当性を主張するには、まずGoogleが検索市場を独占していることを証明しなければならないと専門家は話す。しかし同時に、Googleがその支配的立場を利用して競争を阻止し、その過程で消費者や広告主に損害を与えたか否かも証明しなければならない(ここで争点となるのが、GoogleがAppleやサムスン[Samsung]のような携帯電話メーカーや無線通信事業者らと結んだ独占契約である)。
シンクタンクのチャンバー・オブ・プログレス(Chamber of Progress)を創設し、最高経営責任者(CEO)を務めるアダム・コヴァセヴィチ氏は、「この訴訟は独占化行為をめぐる訴訟ではなく、独占維持行為をめぐる訴訟だ」と述べている。
この裁判の結果はGoogleをはるかに超えて広範な影響を及ぼしうる。裁判所の判決がGoogleのアドテク事業の解体につながるものなら、ダートマス大学の経済学教授が執筆した2023年の論文が示唆するように、仲介サービスの手数料引き下げや、パブリッシャーの収入増、広告主のコスト削減につながる可能性もある。
反トラスト訴訟の歴史
シャーマン法はその制定以来、1911年にはスタンダードオイルを、1984年にはAT&Tを解体させる根拠法として用いられてきた。もちろん、USスチール(U.S. Steel)、IBM、そして最近ではマイクロソフトなど、解体に失敗したケースもある。
インターネット経済において、データはしばしば石油にたとえられるが、今週この2つのコモディティに新たな共通項が追加された。100年以上前にスタンダードオイル(Standard Oil)を解体に追い込んだ反トラスト法に違反するとして、かねてより米司法省がGoogleを提訴していたが、ついにこの訴訟の審理が始まったのだ。
米国対Googleの裁判が新たな展開を見せる今週、業界の観測筋は、金ぴか時代の最盛期に米連邦議会で可決された1890年制定のシャーマン反トラスト法について多くを耳にするだろう。
提案者のジョン・シャーマン上院議員にちなんで命名されたこの法律は、未曾有の好景気に沸く鉄道業界や鉄鋼業界で、俗に「泥棒男爵」と呼ばれた大資本家が独占市場を形成し、それによって企業間の競争や消費者の利益が損なわれることを防ぐための法律だった。歴史的な背景に触れるなら、1890年とは、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが没し、チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」が初演にかけられ、アイダホ州とワイオミング州がそれぞれ43番目と44番目の州として米合衆国に加入した年だった。
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独占化ではなく独占の維持をめぐる訴訟
「シャーマン法」は「Google」とは異なり、誰もがよく知るなじみの言葉ではない。Googleトレンドのデータによると、8月の最終週に「シャーマン法」を検索した人はわずか61人で、今年1月下旬に米司法省がGoogleに対して2件目の反トラスト法裁判を起こした週よりも数十件程度少なかった(今週審理が始まる訴訟は、2020年にトランプ政権下で提起された)。
米司法省の主張はシャーマン法第2条に依拠している。同法第2条は、米国内または他国との「貿易または商取引のいかなる部分」についても、これを独占すること、独占を企てること、または独占の意図をもって他者と共謀することを禁じている。
政府がその正当性を主張するには、まずGoogleが検索市場を独占していることを証明しなければならないと専門家は話す。しかし同時に、Googleがその支配的立場を利用して競争を阻止し、その過程で消費者や広告主に損害を与えたか否かも証明しなければならない(ここで争点となるのが、GoogleがAppleやサムスン[Samsung]のような携帯電話メーカーや無線通信事業者らと結んだ独占契約である)。
シンクタンクのチャンバー・オブ・プログレス(Chamber of Progress)を創設し、最高経営責任者(CEO)を務めるアダム・コヴァセヴィチ氏は、「この訴訟は独占化行為をめぐる訴訟ではなく、独占維持行為をめぐる訴訟だ」と述べている。
この裁判の結果はGoogleをはるかに超えて広範な影響を及ぼしうる。裁判所の判決がGoogleのアドテク事業の解体につながるものなら、ダートマス大学の経済学教授が執筆した2023年の論文が示唆するように、仲介サービスの手数料引き下げや、パブリッシャーの収入増、広告主のコスト削減につながる可能性もある。
反トラスト訴訟の歴史
シャーマン法はその制定以来、1911年にはスタンダードオイルを、1984年にはAT&Tを解体させる根拠法として用いられてきた。もちろん、USスチール(U.S. Steel)、IBM、そして最近ではマイクロソフトなど、解体に失敗したケースもある。
1990年代後半に始まったマイクロソフトの裁判は、この規模の反トラスト法訴訟としてはもっとも新しく、またGoogleに対する訴訟と類似していることから注目に値する(この訴訟では、マイクロソフトはPC市場の独占を違法に維持したとして訴えられた)。
制定以来の130年間、シャーマン法の改正は数えるほどしか行われていない。もっとも大きな改正は、1914年のクレイトン法制定だ。元連邦通信委員会(FCC)委員で、現在はハドソン研究所(Hudson Institute)の上席研究員として活動するハロルド・ファーチゴット・ロス氏によると、「1970年代までは、反トラスト訴訟で裁判所の出方を予測するのは困難だった」という。「反トラスト法は時代とともに大きな変貌を遂げてきた」と同氏は話し、こう続けた。「50年前までは、『大きいことは悪』という要素があったが、それで一貫していたわけではない。以降、裁判所は反トラスト訴訟において、より経済学的な視点を取り入れるようになっている」。
ファーチゴット・ロス氏によると、経済学者は「経済的不合理性テスト(no economic sense test)」と呼ばれる手法を用いて、反競争的行為に競争を阻害する以外の合理性が認められるか否かを検証するという。シャーマン法第2条の条文は、競争を阻害する意図があるだけで、反トラスト法違反を問われうると読めるが、同氏は「裁判の歴史を見れば、これと真逆の解釈も数多く見られる」とも述べている。
米下院通商委員会のチーフエコノミストとしての経歴も持つファーチゴット・ロス氏は、この点を説明するために、同じ交差点に立地する4つのガソリンスタンドの喩えに言及した。その内容は、4店のうち1店が5セント値上げもしくは値下げして、「競争を阻害したい」という内容の電子メールを送信していたとしても、必ずしも反トラスト法違反の根拠とはならないというものだ。
「結局のところ、これで競争が阻止できると考えるなら、それは誤りというしかない。同じ交差点に立地する4つのガソリンスタンドのうちの1つが何をしようと、実際に競争が阻害されることはありえないのだから」とファーチゴット・ロス氏は結論づけた。
シャーマン法解釈の経緯
共和党系の弁護士と民主党系の弁護士は法廷では見解を異にするのが一般的だ。しかし、州司法長官連合の代理人弁護士を務めるビル・カヴァノー氏は9月12日の冒頭陳述で、Googleに対する訴訟が一致団結の機運を作り、多くの人々がGoogleのシャーマン法第2条違反を「声をひとつにして訴えている」と述べた。
検索市場に占めるGoogleのシェアがまさに圧倒的な90%であるのに対し、マイクロソフトの「Bing(ビング)」は3%にすぎず、これは政府の主張を支えるひとつの柱となってきた。カヴァノー氏は、Googleは広告主にとって新規顧客を開拓する「唯一の手段」だと指摘する。しかしそのために、エクスペディア(Expedia)のようなGoogleに出稿する一部の競合と利益相反を抱えることにもなったと同氏は話す。
「Googleが一部の大手顧客を拒絶できること、同時に彼らとの取引を維持することもできること、それどころか取引量をさらに増やすことさえできること。それこそが独占力の直接的な証だ」とカヴァノー氏は指摘する。「広告主にかかるコストをつり上げることで、Googleは莫大な独占利益を揺るぎないものにした」。
別の冒頭陳述で、米司法省の弁護士を務めるケネス・ディンツァー氏は「無線通信事業者や携帯端末メーカーはGoogleの契約条件には制約が多すぎると考えていた。政府はその証拠を持っている」と語った。それでも、同氏によると、「それが唯一の選択肢であったため」、通信会社も端末メーカーも金を受け取ったという。「Googleは独占的な地位を使って将来的、潜在的なライバルをつぶした」とディンツァー氏は付け加えた。
両当事者が市場をどう定義するかという問題も重要な論点となるだろう。司法省と州の司法長官たちは具体的に「検索市場」と定義しているが、GoogleはTikTokやAmazonを含む広告エコシステム全体を視野に入れるべきと主張する。もし裁判所がGoogle側の弁護士の主張を支持すれば、この事案の立証はことさらに難しくなるかもしれない。
シャーマン法の定める「顧客」とは誰かという問題もある。消費者は無料でGoogleを利用できるため、この訴訟における事実上の顧客は広告主だというのが政府側の主張である。広告価格の高騰が議論の鍵となるのもこのためだ。この点について、業界団体のデジタルコンテンツネクスト(Digital Content Next)でCEOを務めるジェイソン・キント氏は、「消費者価格の上昇が依然として唯一重要なファクターなのかという現代の反トラスト法上の問題にも通じる」と話す。
「我々は過去30年から40年間、価格が上がらなければすべて良しと考えてきた。この部分については、近年、見直しが進んでいる。消費者が本来享受できるはずの最高の体験を実は享受していないとか、あるいはイノベーションが起こらない、あるいはプライバシー保護の機運が起こらないとなれば、たとえ製品が無料であっても、消費者にとって有害な影響はあるかもしれない。広告主にも同じことが言える」。
長引く訴訟とその先にあるもの
この訴訟はAI開発競争のただ中で進行しており、それも大きなファクターとなることは間違いなく、さらに検索市場で起きているさまざまな変化や、デジタル広告全体におよぶ変革など、訴訟に影響を及ぼす要因はほかにもある。
審理は10週間に及ぶと予想されているが、もっと長引く可能性もある。技術革新のスピードが訴訟の進行を上回れば、裁判自体が意味をなくすのではないかと見る人々もいる。技術革新のペースは、1969年に提訴され、1982年に取り下げられたIBMに対する反トラスト法違反訴訟でも問題となった。提訴から取り下げまでの13年間にテクノロジーが大きく進歩した結果、訴えの根幹部分のいくつかが意味を成さなくなったのだ。
テクノロジー・ポリシー・インスティテュート(Technology Policy Institute)のトーマス・レナード上席研究員兼名誉会長も、「Googleの裁判がIBMと同じくらい長期化するとして、10年後の市場はこの訴訟が意味をなくすほどに様変わりしている可能性もある」と指摘する。
「こういう訴訟は長く厳しい苦行だ」とレナード氏は話す。「長引くだけ長引いて、結局、消費者に利益をもたらしたのか。それとも訴訟に気を取られて集中力を削がれた企業が不利益を被っただけなのか。よく考えてみる必要がある」。
Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)