米下院の委員会で迅速に可決された<反トラスト法案により、テック最大手のプラットフォームは今後、自社のテクノロジーにほかのシステムがもっと容易に接続できるようにするよう強いられる可能性があります。「相互運用性」というこの概念は、新しいものではありませんが、今後数カ月にわたってさらに頻繁に耳にするかもしれません。
反トラスト法案が、米下院の委員会で迅速に可決されました。これにより、テック最大手のプラットフォームは今後、自社のテクノロジーにほかのシステムがもっと容易に接続できるようにするよう強いられる可能性があります。
こうした「相互運用性」というこの概念は、新しいものではありません。ですが、今後数カ月にわたって、さらに頻繁に耳にするかもしれません。
いつもの一問一答形式で、解説しますね。
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──相互運用性とは何でしょう?
とあるテクノロジーが、ほかのテクノロジーと連係して機能する状態と思ってください。メールを例に取りましょう。メールの機能に相互運用性がなければ、Gmailを利用して誰かのYahooメールアカウントにメールを送信できません。しかし、実際にはメールシステムが相互運用可能なので送信できます。
──なぜ反トラスト法の問題に?
ほかのテクノロジーと同じ言語を採用していなかったり、テクノロジーがほかのシステムとの接続やデータパイプラインへのアクセスを防ぐ障壁を設けたりするように開発されている場合、ほかのテクノロジーが特定の機能を有効にするのを防いで、成長を抑えることができます。相互運用性を支持する電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation:以下、EFF)が述べているように、「相互運用性は、ユーザーをコングロマリットのエコシステムに閉じこめておくネットワーク効果を弱め」、また「大手企業が開発したインフラに小規模企業が相乗りできるようにして、新規参入組にとっての障壁を取り除く」ので、「競争を促進するインターネットの主要なポリシー」なのです。
提案されている法案は、FacebookやGoogleなどのテックプラットフォームに対して、システムを経由する情報にほかの企業をもっとアクセスさせるよう強制する可能性があります。FacebookやTwitterのようなプラットフォームはある意味、外部の者が承認済みの開発者向けツールを利用し、自社のエコシステムで使える機能を開発できるようにすることで成功しました。企業が、WhatsApp(ワッツアップ)での会話内で機能するショッピングツールを開発する場合、それは相互運用性の一例であり、Facebook傘下のWhatsAppに役立つのはほぼ間違いありません。しかし、同時に相互運用性は、そうした主流のシステムと連携する新しいテクノロジーを新興企業が開発するチャンスを切り開くことにもなり、テック大手には自社の擁するテクノロジーにとって脅威となりかねないのです。
──相互運用性を実現するツールは、これまでに数多く公開されてはいないのですか?
公開されています。たとえば、APIによってGoogleやFacebookへのログインを利用して、他社のウェブサイトにサインインできます。また、Twitterは、あらゆる企業が同社のプラットフォームと連携して機能する技術を構築し、APIを使用してツイートや会話のスレッド、クエリ言語のようなTwitterのデータを利用できるようにしています。
「オープンAPIは、開発者に対して、プロプライエタリなソフトウェアアプリケーションやウェブサービスへのアクセスを提供し、コンピュータープログラム間で『対話』して情報の要求や共有を行えるようにしている」と、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)の創設者でもあるCTOのデイブ・ピクルス氏は、ソフトウェア開発コミュニティが相互運用性の向上を促進できる方法に関する2019年のフォーブス(Forbes)の記事で書いています。
──アドテクでの相互運用性の例は?
「アドテクの世界では、相互運用性は広告主がGoogleに対して、ブランドやキャンペーンに関連するコンバージョンデータすべての記録をザ・トレード・デスクに送るよう求めるようなものかもしれない」と、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)のようなアドテクシステムと連携するカスタムアルゴリズムを構築する企業、チャリス・カスタム・アルゴリズム(Chalice Custom Algorithms)のCEOで共同創設者のアダム・ハイムリッヒ氏は言います。
このように、デジタル広告市場の多くを支配しているGoogleなどのプラットフォームが、データへのさらなるアクセスを要求された場合、DSPがそうした情報を利用して改良することで、誰かがクリックして購入した時に適切な広告インベントリーが確実に信用を得られるようにできるかもしれないため、競争を平準化できる可能性があります。
「私にとっては、こうしたデータを中心に競争の扉が開かれます。それらはロックされた価値のセットであり、データのロックが解除されると、それらの価値もロックが解除されるのです」とハイムリッヒ氏は言います。
──スクレイピングは一種の相互運用性なのですか?
サイトのHTMLコードを収集するブラウザの拡張機能など、ほかのテクノロジーのスクレイピングやクローリングを行うテクノロジーは、相互運用可能なテクノロジーの一種と考えられています。主流のテクノロジーの条件や規定に反する恐れがある形で、ほかのテクノロジーに便乗するテクノロジーが開発されることもしばしば見られます。そのため、相互運用性の向上を義務づける規則は、大手プラットフォームによる議論と反発をますます激化させることになります。
データをマネタイズする消費者向けのブラウザ拡張機能の増加を例に取りましょう。FacebookやTwitter、マイクロソフト(Microsoft)傘下のリンクトイン(LinkedIn)が生成したデータをマネタイズするために、ブラウザ拡張機能やアプリなどの外部のテクノロジーを利用することを妨げる障壁を引き下げることにより、運用可能性向上の実現をプラットフォームに求める規則は、こうしたツールを開発する企業や、それらが生成するデータからより多くの利益を得たい人々にとって、重要な意味を持つ可能性があります。
相互運用性が高まれば、ソーシャルメディアプラットフォームからツールをはねつけられてきた学術研究者の助けにもなるでしょう。
──ポータビリティについては? 写真などを移動できることに意味があると思っていたのですが。
その点は相互運用性の大きな部分を占めており、テック大手のプラットフォームによる人々のデジタルライフと仮想資産の支配を懸念している議員たちから、しばしば耳にするものです。一般には「データの可搬性」と呼ばれるデータ転送を、相互運用性の一部と考えてみてください。
データの可搬性とは、データの共有および移動のことです。強制されれば、Googleのようなプラットフォームは、Googleマップ以外で友人の居場所を確認できるよう、友人の共有された位置情報に関連する情報に別のサービスをアクセスさせることに、人々が同意できるようにしなければならないかもしれません。
──プライバシーへの懸念はないのですか?
確かにあります。「相互運用性はデータの共有であり、それにはプライバシーへのリスクが内在する」と、EFFのスタッフ・テクノロジストであるベネット・サイファーズ氏は言います。サイファーズ氏らは、テックプラットフォームが、相互運用性の向上に対する主要な反論としてプライバシーやセキュリティのリスクを引き合いに出し、場合によっては、それで人々の注意がそらされる可能性があると予想しています。
「そうしたふたつの考えのあいだには大きな隔たりがある」と、サイファーズ氏は言います。サイファーズ氏は、相互運用性の向上を義務づける法律には、プライバシー保護のために、データの転送と利用を特定の用途に限定することや、ユーザーの同意を得ていない目的には許可しないといった、一定の条件を付けられると指摘しています。最終的には、受動的に収集されたデータの限定的な保護に比べて、相互運用性を向上させた結果、共有される特定の個人データに対するプライバシー保護が、米国で改善される可能性があるとサイファーズ氏は述べています。
KATE KAYE(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島 翔平)