[ DIGIDAY+ 限定記事 ]これまでAVODとSVOD、さらにvMVPDと細分化されてきた、動画ストリーミングサービス。その、どれにも当てはまらない新興サービスを表す、新たな言葉が生まれました。我々はそれをFASTと呼んでいます。デジマの新語について解説する「一問一答」シリーズ。今回は、このFASTについて、噛み砕いてご説明します。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]動画ストリーミングサービスの分類が拡大しています。
この市場はこれまで、YouTubeのように広告付きで人々にオンデマンドで動画を提供するサービス(AVOD)と、Netflix(ネットフリックス)のようにサブスクリプション型で人々にオンデマンドで動画を提供するサービス(SVOD)に二分されてきました。そこへスリングTV(Sling TV)やYouTube TVのようなvMVPD(virtual multichannel video programming distributors)が登場しました。vMVPDは有料のテレビ放送サービスで、ケーブルテレビや衛星放送とほとんど同じですが、人々がセットトップボックスではなくインターネットを通じてストリーミングサービスを利用できる点が違います。そして2019年になって、これらのどのグループにも当てはまらない新興の動画ストリーミングサービスを表す新たな言葉が生まれました。我々はそれをFASTと呼んでいます。
デジタルマーケティングの新語について解説する「一問一答」シリーズ。今回は、このFASTについて、噛み砕いてご説明しましょう。
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──まず、FASTとはなんですか?
無料の広告付きストリーミングTVのことで、ロク(Roku)の「ロクチャンネル(Roku Channel)」やAmazonの「IMDb TV」、ウォルマート(Walmart)の「ブードゥー(Vudu)」、バイアコム(Viacom)の「プルートTV(Pluto TV)」「ズモ(Xumo)」「トゥビ(Tubi)」のようなサービスを表します。これらのサービスは、オンデマンドで利用できる昔の番組や映画のように、テレビで見るために通常支払いが必要な番組をストリーミング配信する、もしくはテレビ番組やデジタル動画番組を従来型のテレビチャンネルに統合してストリーミング配信するようなものです。コンサルティング会社TVレブ(TVREV)の共同創業者でリードアナリストであるアラン・ウォルク氏は、2019年1月に発行された記事でこの用語を創り出した人物のようですが、あるテレビネットワークの幹部によると、今夏のイベントのステージ上で、この言葉をはじめて口にしたということになっています。
──FASTを気にかけるべき理由はなんですか?
メディア企業も広告主も、FASTサービスは、昔ながらのテレビにはそれほどチャンネルを合わさず、NetflixやAmazonの「プライムビデオ(Prime Video)」のような広告なしのストリーミングサービスにますます適応するオーディエンスを取り戻すチャンスになると見ています。こうしたサービスは、テレビ番組や映画のスタジオや制作会社など、さまざまなコンテンツプロバイダーからの幅広いプログラムを無料で提供しています。したがって、Disney+(ディズニープラス)やHBOマックス(HBO Max)のようなサブスクリプション型サービスが市場に参入してくるなかで、視聴者が月額料金を払うことなくエンターテインメントのオプションを完成させることができるサービスを探しているなら、FASTサービスの採用は進んでいく可能性があります。サムスン(Samsung)やヴィジオ(Vizio)のようなテレビメーカーが独自のFASTサービスを発表した理由もここにあります。パブリッシャーやテレビネットワークはこうしたサービスをどんどん採り入れ、既存プログラムからより多くのお金を稼ぎ、デジタル広告販売を増やそうとしています。そして広告主は、実際にテレビでテレビ番組やテレビ番組風コンテンツを見ているオーディエンスにリーチし、デジタル的により正確にターゲット化するオプションを利用して、そうしたオーディエンスに広告を見せることに関心を持っています。
──パブリッシャーやテレビネットワークは、こうしたサービスをどのように利用していますか?
豊富な動画ライブラリーを持つパブリッシャーは、YouTubeやFacebook、自身のサイトやアプリで、以前公開した動画をこうしたサービスで再利用しています。彼らは、コンテンツをエピソードシリーズへとパッケージ化して、サービスに対してライセンス提供したり、サービス上で独自のリニアチャンネルを作ったり、自身でインベントリー(在庫)を販売する、もしくはサービス所有者が販売した広告売上の一部を受け取ったりしています。
テレビネットワークについてもだいたい同じような感じです。ただ、自身のインベントリーを販売するというオプションにより、テレビネットワークは、年齢や性別のような比較的限られた通常のテレビのカテゴリー分けに不満を抱く広告主に対して、より細かいターゲット化オプションを提供する機会を得ることになります。その結果、テレビネットワークのなかには、このサービスを利用してデジタル配信のみのチャンネルを提供しているところもあります。ABCはロクチャンネルで「ABCニュースライブ(ABC News Live)」を提供し、バイアコムはプルートTVに追加した10以上のチャンネルで同じことをやっています。
──オーディエンスは実際にFASTサービスを利用しているのでしょうか?
はい、利用しています。トゥビは、毎月2000万人以上がサービスを利用していると述べています。バイアコムによると、プルートTVには1600万人以上の月間アクティブユーザーがおり、ズモは、月間アクティブユーザーが550万人いると言っています。Amazonやロク、ウォルマートは、それぞれの自社サービスのオーディエンス規模を明かしてはいません。その価値がどの程度かは別として、ブードゥーの登録ユーザー数は2500万人を超えているとウォルマートは言っていますし、ロクはアドバイヤーに対して、ロクチャンネルが同社のコネクティッドTVプラットフォーム上で3番目に大きい広告付きアプリになったと伝えているようです。
──なるほど。しかし、私は少し混乱しています。FASTに分類されているサービスのなかには性質がかなり違うものがありませんか?
そのとおりです。いままで紹介してきたサービスはどれも、ライセンス化されたテレビ番組や映画ライブラリーを提供していて、人々はそれらを、散在する広告とともにオンデマンドで無料で見ることができます。しかし、プルートTVやズモは、有料テレビサービスのプログラムの代わりになるように考えられたテレビ風のリニアチャンネルも提供し、人々が見たいものを簡単に見つけられるようにしています。
──では、そうしたサービスがすべてまとめてFASTとされているのはなぜですか?
そうしたサービスに言及するための簡単明瞭な用語としてFASTがあっという間に浸透してしまったからです。ほかの用語が使われることもあります。たとえば、前述のテレビネットワーク幹部は、自分のチームではプルートTVやズモのようなサービスは「AVODリニア」に当たると考えていたそうです。これを正しく言うと「広告付き動画オンデマンドリニア(advertising-supported video on demand linear)となりますが、これは矛盾した表現になるので、そう呼ぶのはやめたと言います。
──つまり、混乱を防ぐためには、業界がFASTサービスをさらに細かく分類して、何か違う用語を考える必要があるということですか?
ええ、是非そうしてほしいですね。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)