Twitterの創業者ジャック・ドーシー氏は3月第1週、Twitter史上初のツイートを売りに出すと発表しました。ドーシー氏が出品したのは、初ツイートを「非代替性トークン(NFT)」に変換したもので、落札者はこのデジタル資産の所有権を手に入れることになります。このNFTについて解説します。
Twitterの創業者ジャック・ドーシー氏は3月第1週、Twitter史上初のツイートを売りに出すと発表しました。初ツイートは2006年3月21日にドーシー氏自らが投稿したもので、「just setting up my twttr.(たった今、自分のtwttr (ツイッター)を設定したところ)」という内容でした。
それ以来、15年近くにわたり、何の金銭的価値も生み出さなかった初ツイートですが、オンラインプラットフォームで競売にかけられた翌日には、最高入札額が250万ドル(約2.7億円)に達しました。これは仮想通貨イーサリアム(Ethereum)で1630.6イーサ(ETH)に相当します。わずか1週間足らずで、価値がここまで急上昇した背景には、いったい何があったのでしょうか?
ドーシー氏が出品したのは、初ツイートを「非代替性トークン(NFT)」に変換したもので、落札者はこのデジタル資産の所有権を手に入れることになります。デジタルマーケティング新語を解説する「一問一答」シリーズで解説していきます。
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ーーまず、ひと言で「NFT」とは?
NFTは非代替性トークン(non-fungible token)の略で、譲渡されたデジタル資産の複製不可能な所有証明書として用いられます。デジタル資産のデータは、GitHubなどのソフトウエア開発プラットフォーム由来のオープンソースコードを使って生成したスマートコントラクト(Smart Contract:契約を自動実行するプログラム)を介してセキュリティを担保しています。完成したプログラムはトークン(主にERC 721規格に準拠したトークン)に変換され、イーサリアムなどのブロックチェーン上で公開されます。
NFTのなかでも人気が高いのはjpeg画像、gif画像、動画、ツイートなど。しかし、デジタル資産に唯一無二の価値を与えたいと作成者が望めば、記事やコンサートのチケットなど、どんな資産でもNFT化できます。
NFT化された資産を購入した新たな所有者は、当該資産を再販、配布、ライセンス化するデジタル権を行使できます。ただし、NFT作成者による設定次第で、権限の条件は異なります。「NFT作成者は、テレビ番組での放送禁止といった資産の使用目的制限について、プログラム内に記述して指定できる」と、マーチャントバンクとしてブロックチェーン業界で活動するガルフ・パール(Gulf Pearl)の共同創業者、シダン・グーラン氏は語ります。また、資産の再販取引の売上に応じたロイヤルティ収入の条件設定も可能です。
史上初のツイートは今後もTwitter上で誰でも自由に閲覧できますが、このデジタル資産について「自慢する権利」を持つのは、ツイートを落札した所有者に限られます。
ーーNFTと代替性トークンの違いは何でしょう?
代替性トークン(fungible token)には、仮想通貨のビットコイン(Bitcoin:単位BTC)やイーサリアム(Ethereum:単位ETH)に加えて、米ドルやユーロといった法定通貨も含まれます。一方、非代替性トークンであるNFTは一つひとつが唯一無二の資産であり、ほかのNFTでは代替不可能です。1ドルであればどの1ドルでも等価値ですが、NFTは個々のアイテムごとに価値が異なるという点に違いがあります。
NFTの価値は、購入希望者の需要動向によって決まります。取引には通常、イーサリアム(ETH)などの仮想通貨が使われ、初ツイートのように引く手あまたのアイテムは価値が上がっていきます。また、アイテムが希少であればあるほど高値がつく可能性があるのです。
ーーNFT購入の理由は?
NFT購入の理由は資産運用目的の投資であったり、思い入れのある品や収集品の入手であったりと、さまざまです。また、NFTを作成したアーティストやブランドとより深く関わりたいという買い手の思いが購入をうながす場合もあります。ベースボールカードやスニーカー、ぬいぐるみのビーニーベイビーなどを収集する動機と似ているかもしれません。
特定のブランドに対する愛着心や親近感から購入意欲が高まる場合もあります。ナイキ(Nike)の忠実なファンなら、あこがれのジョーダンシューズが数千足限定で発売されればこぞって買い求めますよね。ではたとえば、ナイキが「スウッシュ」ロゴのgif画像コレクションを25種のNFTとして出品したらどうでしょう。これも同様に、何とかして手に入れようとするに違いありません。
「人は、身につけるもので自分の個性を表現するのと同じように、好みのアイテムのデジタルコレクションを所有したいという思いがある」と、広告代理店のドイチェLAでシニア・バイスプレジデント兼クリエイティブテクノロジー・ディレクターをつとめるクリス・アリック氏は語ります。「希少なアイテムに対する所有願望があるのは間違いない」。
また、NFTにはコミュニティ的な要素もあります。アーティストは、自らのデジタルアート作品をNFT化して出品するにあたり、購入者向けの特典を提供する場合がある。例として、チャット・プラットフォームのディスコース(Discourse)が運営するプライベートチャンネルへのアクセス権などが挙げられます。購入者限定の特典を受けた選ばれた人だけのコミュニティが形成され、特別感を演出できます。
ーーNFTの真正性は、どうやって認証するのでしょう?
NFTのプログラムコードには作成者の電子署名が含まれ、それによりサーバーやブラウザ、あるいはプラットフォーム上でトークンの真正性を認証する仕組みになっています。ブロックチェーンを用いた分散型認証であり、NFTを一元的に管理する機関があるわけではありません。
例を挙げると、コンサートチケットをNFT化する場合、販売代理店であるチケットマスター(Ticketmaster)のプラットフォーム経由でトークンを認証する必要はなく、ブロックチェーン上のどの事業者を通じて認証を行ってもかまいません。
NFT作成に対応しているブロックチェーン大手としては、イーサリアム、ダッパー・ラブが運営するフロー(Flow)、ポルカドット(Polkadot)の3社があります。
NFTの取引を扱う主なマーケットプレイスは、オープンシー(OpenSea)、ラリブル(Rarible)、ニフティ・ゲートウェイ(Nifty Gateway)の3つで、すべてイーサリアムのブロックチェーン上で運営されています。
マーケットプレイスは暗号資産の世界におけるイーベイ(eBay)のような存在で、利用者はNFT作成者の定める販売プロセスに従い、出品されたNFTに入札するか、即金で買い取ります。一般に、数量が限られているNFTはオークションにかけられ、落札されて再販されます。一方、あらかじめ価格が設定してあり、出品点数の上限がないNFTは、直接購入できます。
ーーパブリッシャーのNFT活用例
デジタルメディア関連パブリッシャーのデクリプト(Decrypt)は、自社アプリのヘビーユーザーを対象とする特典制度と紐づけて自前のユーティリティトークンを発行するなど、仮想通貨の分野で独自の取り組みをしています。そのほか新規のNFT作成者向けに、出品前後のタイミングでスポンサーシップ・キャンペーンを販売しているのです。
デクリプトは、ブロックチェーン技術でサプライチェーン業務改善を支援するトレウム(Treum)の協力を得て、自社が発行するNFT2点のローンチキャンペーンを展開しました。ひとつ目のNFTはスウェザー(Swether)で、クリスマス用セーターの編み込み模様風の画像コレクション。もうひとつは、数式に基づいて設計したアート・音楽作品のNFTコレクションで、オイラー・ビーツ(Euler Beats)のサイトで公開されました。ローンチキャンペーンはディスプレイ広告形式で実施され、デクリプト公式サイトの読者はアラート登録をしておけばNFTの新規出品時に通知を受け取れます。希少なNFTの在庫情報をいち早く入手できるわけです。
オイラービーツに出品されたNFTはわずか27点で、プリント(アート作品の複製のようなもの)の発行数はアイテムにより異なります。「オリジナル作品は公開後数分で売り切れる」と同サイトのCRO(最高収益責任者)とパブリッシャーを兼任するアラーナ・ロアッツィ・ラフォーレ氏は述べています。オイラービーツを通じて販売されたNFTの最高価格は20.9 ETC(約436万円弱)でした。
ローンチキャンペーンによりデクリプトNFTサイトの訪問者数は増加しましたが、同社は売上に対する手数料やNFT再販時のロイヤルティを課しておらず、サイトからの収益は広告収入のみです。ただしロアッツィ・ラフォーレ氏の見立てでは、業界内でNFTを受け入れる動きが盛んになれば、大きなビジネスチャンスが期待できると言っています。
NFTビジネスに進出できるのは仮想通貨関連のパブリッシャーだけではない、とロアッツィ・ラフォーレ氏はつけ加えました。
「NFTはマーケットプレイス出品によって価値を高められる資産として今、大いに注目を集めている。パブリッシャー各社は、早期にNFT戦略を立てる必要があるだろう。収益化に向けた施策を検討し、新たな事業展開の可能性を探るべきだ」と述べています。
スポーツ専門のパブリッシャー、ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)はミュージシャンとの共同企画をすすめています。クエヴォ(Quavo)、リル・ベイビー(Lil Baby)、2チェインズ(2 Chainz)、ジャック・ハーロウ(Jack Harlow)の4人のアーティストとのコラボデザインで、バスケットボールをテーマとするアニメーション付きgif画像4種をNFT化しました(同社は過去にも同様の企画の経験があり、複数のヒップホップ・アーティストとのコラボデザインによるNBAリミックス・クロージング・コレクションを販売しています)。
バスケットボールのデジタル画像コレクションはB/R Open Run NFTと呼ばれ、ゴールドとシルバーのふたつのエディションがある。ゴールドエディションは1アイテムあたり10点のみの販売で、シルバーエディションは一律0.4ETH(約8万368円)という価格設定です。
B/R Open Run NFT コレクションは3月第1週の週末、オープンシー・マーケットプレイスに出品され、1週間も経たないうちにゴールドエディションのNFT全40点が売り切れました。同社のスポークスマンによれば、落札価格の合計は59万1775ドル(約6461万円)に上ったそうです。出品されたなかで最高値をつけたNFTは2チェインズとの共同デザインによるゴールドエディションのバスケットボール画像で、38ETH(約690万円)で落札されました。
ーーブランド各社はNFTをどのように活用しているのでしょう?
ファストフード大手のタコベル(Taco Bell)は3月第2週、NFTacoBellと題するコレクションを公開してNFTビジネスに乗り出した。アリック氏率いるドイチェLAのチームが作成に協力したNFTコレクションはタコスをモチーフとする5種のgif画像からなり、それぞれ5コピー、合計25点が販売対象。ラリブルのマーケットプレイスに出品され、30分以内にすべて売り切れた。
NFTのスタート価格はタコス1個の値段である1ドル(約109円)に設定されたが、なかには再販の結果、3600ドル(約39万円)以上の値がつくアイテムも出ました。NFTの再販取引1回ごとに売上の0.1%にあたるロイヤルティがタコベルに支払われ、全額がタコベル財団(Taco Bell Foundation)に寄付されています。
NFTのオークションの第1ラウンドに参加した購入者には、タコベル提供のタコス1年分が贈られました。入札開始前には告知されていなかった特典ですが、「オークションに入札して競り合う意欲のある人たちのために企画した」とアリック氏は語りました。
「しかし、ブランド企業がNFT分野に参入するにあたって、ギフトカードなどの特典は必須条件ではない」とアリック氏はつけ加えます。「特定の企業や商品とのつながりを深めるために喜んでお金を遣う熱心なファンがいる。そこに潜在需要があるはずだからだ」。
「自社ブランドを過小評価してはならない。消費者とブランドの接点を提供する取り組みは大切にされてしかるべきだ」と、アリック氏は指摘します。
ーーNFTのデメリットは?
仮想通貨とNFT取引の現行システムは、環境保全の観点からは到底サステナブルとは言い難いことです。グーラン氏によると、仮想通貨の取引により消費されるエネルギーは、Visaカードの取引70万回分のエネルギーに相当するようですから。
その背景には、仮想通貨とブロックチェーンがプルーフ・オブ・ワーク(Proof-of-Work:PoW)という合意形成アルゴリズムに基づいて運用されているという事情があります。アーティストのメモ・アクテン氏がNFTの環境影響についてメディアム(Medium)に寄稿した「The Unreasonable Ecological Cost of #CryptoArt (Part 1)」と題する記事によれば、このアルゴリズムはセキュリティ強化のため意図的に演算効率の悪い手順にしてあり、環境に余計な負荷がかかるという。
「仮にVisaカードの運用をビットコイン(Bitcoin)と同じシステムに移管した場合、二酸化炭素排出による地球温暖化効果を差し引いても、1.5℃以上の気温上昇につながる」とグーラン氏は指摘します。「NFTのシステムが発する熱だけでも環境に悪影響を与え、サステナブルとは言えない」。
NFT作品1点1点の環境負荷はさらに大きいようです。作成、売買、再販、保存の一連のプロセスにおいて毎回エネルギーが必要とされるからです。
NFTのカーボンフットプリントは平均340kWhで、二酸化炭素排出量に換算すると211KgCO2になる。NFT作品1点のフットプリントはEU圏全住民の電力消費量1カ月分以上に相当し、自動車の走行1000kmまたは飛行機のフライト2時間にともなう二酸化炭素排出量と同等である。
メモ・アクテン氏のMediumへの寄稿記事(2020年12月14日付)より
ーー現在のNFTをめぐる、ふたつのセキュリティ上のリスクとは?
- 著作権侵害。自ら創作していないデジタル資産をNFT化しようとする者があらわれる恐れがあります。
- 恒久的保存の解決策がない。NFTが購入された場合、そのコンテンツはブロックチェーン上に残らず、サーバー上に保存されます。そのため、「誰かがデータをうっかり削除してしまう可能性がある」と、ブロックチェーン向けマーケティング/コミュニケーション関連事業を運営するセロトニン(Serotonin)の共同創業者、マシュー・アイルズ氏は指摘します。
ーー注目すべきプラットフォームは?
Facebookは独自のブロックチェーンおよび同名の仮想通貨「ディエム」(Facebook Diem)の公開に向けて準備を進めています。グーラン氏の見立てでは、「ディエムは業界最小のエネルギー消費量で運用可能なブロックチェーンになる可能性がある」そうです。以前Facebookが主導していたリブラ(Libra)から改称したディエムは、規制当局の認可をようやく得て、ブロックチェーンおよび仮想通貨をこの3月にも導入する見通しです(Business Insider掲載の記事より)。
ーーNFTは定着するか?
簡潔に答えるなら、イエス。NFTは定着するでしょう。
「単なる落書きのjpeg画像が100万ドルの価値をもつ商品になるなど、我々が今遭遇しているのは、まさにゴールドラッシュだ」とグーラン氏は語ります。「しかし、価格高騰が続くNFT市場の過熱がいったん落ち着けば、取引可能なデジタル資産の収集品を所有するという考え方はだんだん浸透していくだろう」。
一方、アリック氏は「ブロックチェーンはまだ発展途上だ。この技術が幅広く応用されるようになるまでには、まだ時間がかかる」と述べています。
[原文:WTF is an NFT]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU