Googleに年間数百万ドルを費やしている大手のエージェンシーでさえ、サードパーティCookieに代わるGoogleの「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」の手法がどのように機能するかについて、限られたことしか知らないといいます。いつもの一問一答形式で、解説していきます。
Googleに年間数百万ドルを費やしている大手のエージェンシーでさえ、サードパーティCookieに代わるGoogleの「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」の手法がどのように機能するかについて、限られたことしか知らないといいます。Googleが主導するこれらの手法において、広告主は自社のファーストパーティデータを何らかの形で利用できますが、どのような形となるのかは用いる手法によって異なるようです。
Googleは、広く利用されている自社のChromeブラウザでサードパーティCookieを2022年1月までに廃止したあと、まださほどテストが進んでいないプライバシーサンドボックスの手法を用いて広告のターゲティングと計測を可能にしようとしています。ですが、それらの手法についての情報を広告主に豊富に提供しているとはいえません。そして詳しい情報の不足は、広告主、エージェンシー、アドテクプロバイダー、パブリッシャーのあいだで一様に混乱を招いています。
「問題は、Googleのプライバシーサンドボックスが実際には多くの潜在的なソリューションの集合体であるにもかかわらず、人々がひとつのものと捉えている点にあると思う」と、デジタルエージェンシーのグッドウェイ・グループ(Goodway Group)でエンタープライズパートナーシップ担当のバイスプレジデントを務めるアマンダ・マーティン氏は言います。「関連用語は、どちらかというと包括的な意味合いで使用されているが、実際には、これら提案のすべてが非常に具体的な問題を解決するものなのだ」。
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いつもの一問一答形式で、解説していきます。
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──ChromeがサードパーティCookieを廃止したあとも、広告主はファーストパーティデータをGoogleで利用できるのでしょうか?
答えはイエスです。ただ、その方法は限られています。Googleは、サードパーティCookieを廃止したあとは、ウェブ上の人々に対する個人レベルのターゲティングをできなくする意向です。そしてGoogleが計画を実行に移した場合、広告主が自社のファーストパーティデータを個人レベルのターゲティングに利用することは、限られた方法でしか許されなくなります。たとえば、検索やYouTubeなどのGoogleが所有するインベントリー(在庫)内では、たとえば広告主のファーストパーティデータをGoogleのファーストパーティデータと照合するといった形で、引き続き個人レベルのターゲティングやキャンペーンの計測を行うことができます。Googleは、Google検索やYouTubeといったプロパティのパブリッシャーとして、自社のユーザーログインデータをファーストパーティデータとみなしているのです。
──プライバシーサンドボックスの個々の手法においてはどうでしょうか?
GoogleのChromeブラウザを使用している人をターゲティングするために開発されているプライバシーサンドボックスの各手法において、また、広告主がGoogleのアドエクスチェンジを通じてGoogle以外のインベントリーを購入した場合においては、ファーストパーティデータの利用方法の違いにより注意が必要です。
広告主は、自社のファーストパーティデータを「FLEDGE」と組み合わせて利用することができます。FLEDGEとは、「First Locally-Executed Decision over Groups Experiment」(ローカルで実行される集団決定の初回実験)の略で、関心グループに向けて広告を配信することでリターゲティングを模倣する、プライバシーサンドボックスの手法のひとつです。
──FLEDGEにおいて、広告主はどのようにファーストパーティデータを利用できるのでしょうか?
FLEDGEを利用する広告主は、自社のファーストパーティデータに基づいて関心グループを作成することができます。ファーストパーティデータは、広告キャンペーンの入札や予算に関する情報が保存されている「信頼できるサーバー」を介してアップロードすることが可能です。プライバシーサンドボックスのAPIは、そのファーストパーティデータに反映されている人々が、FLEDGEを用いてターゲティングされた広告を目にすることができるように設計されています。また、プライバシーサンドボックスのほかの手法と同様に、FLEDGEはほかのアドテク企業やDSP(デマンドサイドプラットフォーム)も利用することができます。
──注意すべき点とは何でしょうか?
マーティン氏によると、FLEDGEは、広告主がファーストパーティデータの利用ができるGoogleの唯一の手法ではないといいます。「FLoC」と呼ばれるプライバシーサンドボックスの別の広告ターゲティング手法においても、広告主のファーストパーティデータが利用されるとマーティン氏はみています。同氏は、ブランドがオーディエンスについて知っていることと、FLoCがブランドのウェブサイトにおいて生成するコホート(人々の集団)との相関関係を理解するために、広告主のファーストパーティデータを利用するつもりだと述べています。しかし重要な点として、FLoCの手法では、ユーザーを個人レベルで追跡したり、ターゲティングしたりすることはできません。そのため、広告主が所有する顧客に関するデータは、コホートと自社顧客との相関関係を判断するのには役立つ一方で、個人レベルでつながりを構築する目的には使用できません。
──改めて、FLoCの仕組みとはどのようなものでしょうか?
FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)とは、機械学習を用いた手法であり、ターゲティングの対象となる数千人単位の集団、すなわちコホートをブラウザを用いて生成するものです。ブラウザに組み込まれたアルゴリズムのプロセスが、人々が最近訪れたサイトや、閲覧したページの内容などに基づいてコホートを構築します。
プライバシー保護のため、Chrome(あるいは必要に応じて他のブラウザ)がFLoCを構築した場合、GoogleのアドエクスチェンジやほかのDSP、広告主は、「FLoC ID」とも呼ばれるコホートのIDを受け取りますが、個人レベルのデータは一切受け取ることができません。
──FLoC IDとは何ですか?
FLoC IDとは、FLoCすなわち人々のコホート全体を表す識別子のことです。その人の閲覧履歴をもとに、ユーザーにコホートIDを割り当てる仕組みですが、個人を特定できない形で作成されます。たとえば、インテリアデザインに興味がある人のためのFLoCがあったとすると、そのコホートに属する人には同じFLoc IDが付与されますが、同時にその人たちには、彼らが振り分けられたほかのコホートのIDも付与することが可能です。ただしFLoCには、この手法に関連してユーザーレベルで個別にターゲティングする機能はなく、Googleもそのような機能を提供することはありません。
──FLoCにおいて広告主のデータはどのように利用されるのでしょうか?
Googleは、FLoCのコホートIDを、広告主がターゲティングに利用できるようにします。広告主は、自社のデータ、機械学習モデル、予測分析を用いて、FLoCのIDが示唆するところに基づき、それらのコホートに属する人々が何に興味をもっているかを評価することが可能です。IDからはたとえば、コホートがゴルフ、ガーデニング、パンクロック、またはバードウォッチングに興味を示していることが見てとれます。
すなわち広告主は、FLoCに属する個々のユーザーに対するターゲティングを行ったり、自社のファーストパーティデータを使ってFLoCを構築したりすることはできませんが、自社のファーストパーティデータを使って、どのFLoCにリーチしたいかを判断することができます。「ファーストパーティデータは、ブランドがターゲティングすべきFLoCを選定するのに役立つ」と、マーティン氏は述べています。「広告主は、訪問者や消費者のプライバシーを尊重しながら、[FLEDGEとFLoCの]両方からインサイトを得ることを計画すべきだ」と、同氏は言います。
Googleは、2021年第2四半期にGoogle Ads向けにFLoCのテスト開始を予定しています。
──プライバシーサンドボックスとファーストパーティデータについて、まだ分かっていないことは何でしょうか?
エージェンシーやアドテク企業の幹部は、GoogleがFLoCに関して、自分たちが望むほどの詳細を提供していないと述べています。メディアバイイングエージェンシーのグループエム(GroupM)でデータ戦略とパートナーシップ担当のグローバルシニアバイスプレジデントを務めるクリスタル・オリビエリ氏は、「FLoCがどのように機能するのかをめぐっては、答えの出ていない疑問がまだまだある」と述べています。
たとえば、ブラウザが生成するFLoCに、具体的にどのようなユーザーの関心事が反映されるのか、企業側はまだわかっていません。というのもFLoCは、GoogleやFLoCを利用するほかの企業が自ら作成するわけではなく、代わりに、機械学習アルゴリズムを用いて自動的に生成されるからです。それらのアルゴリズムはGoogleによって構築されている場合が多いとはいえ、Googleの幹部陣がしばしばこの手法について、自分たちでもコントロールできる範囲は限られていると語るのはそのためです。
[原文:WTF can advertisers actually do with first-party data in Google’s Privacy Sandbox?]
KATE KAYE(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:長田真)