[ DIGIDAY+ 限定記事 ]AppleがSafariのトラッキング対策機能「ITP」に行った、最近2回の更新は大きな波紋を呼んでいます。そんななか、Appleが提示してきた一種の和解案が、独自の広告アトリビューションツールです。デジタルマーケティングの新語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回はそのツールについて説明します。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]サイト上の広告クリックによって広告主のサイトで購入などのコンバージョンが生じたとしたいところは、Appleがブラウザ「Safari」のトラッキング対策機能「インテリジェント・トラッキング・プリベンション(Intelligent Tracking Prevention:以下、ITP)」に行った、最近2回の更新に、頭を痛めています。
そんななか、Appleが提示してきた一種の和解案が、「プライバシー・プレサービング・アド・クリック・アトリビューション(Privacy Preserving Ad Click Attribution)」という広告アトリビューションツールです。
デジタルマーケティングの未来に示唆を与える用語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回は、このAppleの広告アトリビューションツールについて、ご紹介します。
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――プライバシー・プレサービング・アド・クリック・アトリビューションとは?
Appleによる広告アトリビューションツールの名称ですが、ひどい名前なので、ここでは「Appleの広告アトリビューションツール」と呼ぶことにしましょう。広告と、パブリッシャーのサイトで広告をクリックした人が広告主サイト上で商品を購入したというような成果とを結びつけられるようにする必要があることは、Appleも認識しています。しかし、広告アトリビューションの手法を使って企業がウェブ上で人々を追跡することは好ましくないとも、Appleは考えています。そこで、このふたつのバランスを取るような独自の広告アトリビューションツールをAppleは考案しました。広告をクリックした人が、その後、広告主のサイトでのコンバージョンに至れば記録をしますが、コンバージョンした人物を企業が追跡することはできないようになっています。
――Appleはなぜ広告アトリビューションツールを提案することになったのですか?
既存の広告アトリビューションツールがSafariでは機能しづらくなったからです。Appleは2017年のITP導入以降も、広告アトリビューションには手を出したくないとしてきました。しかし、Safariのサードパーティクッキー制限があっても広告の貢献がわかるようにとFacebookやGoogleが導入した、ファーストパーティクッキーによる制限回避策は、サイトを越えたトラッキングにも利用できるものでした。そのためAppleは2019年はじめに、まず、アトリビューション測定に使われているファーストパーティクッキーが、広告のクリックから7日経ったら消去されるように、ITPを更新しました。そして4月、この期間を24時間に短縮しました。
――Appleの広告アトリビューションツールはどのような仕組みになっていますか?
Pというパブリッシャーのサイト上にある、Aという広告主のサイトに移動する広告を誰かがクリックするものとしましょう。広告がクリックされると、ブラウザはそれを書き留めます。具体的には、広告のクリックが行われたPのサイトのドメイン、そのクリックによって移動した広告主サイトのドメイン、その広告のキャンペーンの識別番号などが記録されます。しかし、この情報はパブリッシャーのPにも、広告主のAにも、仲介するアドテク業者にも共有されません。情報はブラウザに保存され、クリックした人のコンピュータ、スマートフォン、タブレットにしまい込まれます。
――企業側が広告クリック情報を記録できないとすると、実際に広告主のサイトで商品が購入されたかどうかを、企業はどうやって測定できるのでしょうか?
そうした結びつけは、ブラウザに頼る必要があります。先の例を続けましょう。広告主Aのサイトで商品が購入されると、サイト上の追跡ピクセルによって、パブリッシャーPのサイトにある所定の場所に対してメッセージが送信されます。この場所は、コンバージョンがあった時だけ呼び出されるようにしてあります。そこに向けてメッセージが送信されると、ブラウザはこれを、コンバージョンがあったかもしれないというサインとして捉えて、ブラウザに保存されている広告クリック情報を確認します。そこにパブリッシャーPと広告主Aが含まれているエントリーがあれば、ブラウザはコンバージョンがあったことを記録し、その後、コンバージョンを企業側にレポートします。
――Appleの広告アトリビューションツールでは、コンバージョンはすぐにはレポートされないのですか?
されません。Appleはコンバージョンのレポートのタイミングを、コンバージョンの発生から24時間後~48時間後へと遅らせます。レポート予定時にデバイスがインターネットにつながっていなければ、レポートはさらに遅れることになります。このようになっているのは、コンバージョンをリアルタイムでレポートすれば、コンバージョンの人物を企業側が推測できるかもしれないからです。一方で、レポートを遅らせることによる利点もあります。
――アトリビューションの測定を1~2日待つ必要があることに利点などあるでしょうか?
コンバージョンがレポートされると、広告クリック情報はブラウザによって消去されます。商品のショッピングカートへの追加時と商品の購入時というように、複数のコンバージョンを記録している場合、これは問題になりかねません。もしレポートに24時間~48時間の遅れがなかったら、「ショッピングカートへの追加」のコンバージョンは測定されますが、実際に精算して購入されたかどうかは測定できないことになるでしょう。24時間~48時間の遅れがあれば、ショッピングカートに商品を入れた人がコンピュータをいったん離れ、数時間後にその商品を購入した場合にも、その購入が測定されます。
――広告クリック1件につき複数のコンバージョンを記録できるのですか?
違います。レポートされてくるコンバージョンはひとつだけです。測定するコンバージョンは複数のタイプを設定できますが、その場合は、優先度をつける必要があります。すると、コンバージョンのレポート送信時に、優先度がもっとも高いコンバージョンがレポートされます。
――コンバージョンのレポートはどこに届くのですか?
クリックされた広告を掲載していたパブリッシャーです。そう、アトリビューションの測定を第三者に検証してほしい広告主側からすると、これは問題かもしれません。ITPを担当するAppleのエンジニア、ジョン・ウィランダー氏は、この広告アトリビューションツールを発表したブログ投稿で、「よくわからないサードパーティが広告クリックのアトリビューションレポートを受け取るべきではない」と述べています。
――これによってラストクリックのアトリビューションが強まることになるのでしょうか?
そうとは限りません。コンバージョンの直前ではない広告クリックでも、サイトのコンバージョンへの貢献は評価されます。Appleは広告クリックをブラウザに7日間保存します。なので、月曜に広告をクリックした人が日曜までに広告主のサイトに戻ってコンバージョンに至れば、この広告クリックはコンバージョンへの貢献が認められます。
――見られただけでクリックされなかった広告のコンバージョンへの貢献はどうでしょうか?
Appleの広告アトリビューションツールは、ビュースルーアトリビューションを考慮しません。ウィランダー氏は、開発者などがAppleの広告アトリビューションツールに関する問題を提起しているメッセージボードで、次のように書いています。「広告閲覧のアトリビューションに、プライバシーに配慮した形で対応することには関心をもっている。しかし、今回の仕様は広告クリックであり、広告閲覧に取り組む準備はまだできていない」
――広告ターゲティングへの影響はありますか?
その方向です。少なくとも、コンバージョンの可能性が高いと思われる人へのターゲティングについては、影響があるでしょう。広告クリック情報がブラウザに保存されて、企業には共有されないことになるので、ある人物が広告のクリック後に実際にコンバージョンに至ったかどうかは、プラットフォームにはわからなくなります。わかるのは、広告をクリックしたということだけです。結果、広告をクリックして広告の製品を購入する傾向がある人なのかを記録することはできなくなるでしょう。
――リターゲティングはさらに迷惑さが増すのでしょうか?
Appleのアトリビューション期間内にコンバージョンのクレジットを得るために、なるべく早急にコンバージョンに持ち込もうというプレッシャーが広告セラー側にかかるので、広告をクリックした場合のリターゲティングによる追いかけ広告が増えるのではないかという話ですか? おそらく、そうなるでしょう。
――いつからこのようなことになるのですか?
はっきりしません。Appleの広告アトリビューションツールは現在、Safariの開発者向けバージョンである「Safari Technology Preview」でテスト可能です。Appleはこのツールを正式なウェブ標準として提案する方向で進めており、実現すれば、ほかのブラウザは採用しやすくなります。しかし、Safariも含めて、各ブラウザが正式に実装するのかも、実装するとしていつになるのかも、まだ決まってはいません。
Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)