デジタルメディア企業でありコンテンツスタジオでもあるジェリースマック(Jellysmack)は、ソーシャル動画の配信にかけては誰よりも熟知している。同社はいま、ソーシャルコンテンツの投稿で人気者になった人々とは別に、デジタルとは無縁の世界で名を挙げた人々を次代の動画クリエイターとして輩出するべく画策している。
デジタルメディア企業であり、コンテンツスタジオでもあるジェリースマック(Jellysmack)は、ソーシャル動画の配信にかけては誰よりも熟知している。同社はいま、ソーシャルコンテンツの投稿で人気者になった人々とは別に、デジタルとは無縁の世界で名を挙げた人々を起用して、次代の動画クリエイターを輩出したいと画策している。
ジェリースマックは1月20日、総合格闘技UFCヘビー級王者のフランシス・ガヌーが「マーキー(Marquee)」プログラムに参加すると発表。マーキーは、ジェリースマックが新世代の動画クリエイターとコンテンツを共同制作するための受け皿となるプログラムで、ついさきごろ公開された。ジェリースマックはマーキーと契約したパートナーから助言や協力を得てコンテンツを制作し、TikTok、YouTube、Snapchatなど、多様なソーシャルプラットフォームで配信する。コンテンツの制作、編集、配信にかかるコストはジェリースマックが負担し、成果としての広告収入はクリエイターと制作側で分配するという。
マーキーの目的は、なにが流行るか予想のつきにくいソーシャル動画の世界で、ジェリースマックが培ってきた専門技術や知見を最大限に活かしながら、複数の市場機会を一挙に掌握することだ。うまくいけば、ソーシャル動画の視聴回数をさらに伸ばしつつ、有力なインフルエンサーとの契約を増やし、広告主と直接取引する機会を広げることができるだろう。
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ソーシャルプラットフォームが動画コンテンツの配信先として成熟するに伴い、個人で活動するクリエイターやパーソナリティが台頭しており、パブリッシャーやコンテンツ企業はこのような個人とうまく連携する道を模索している。マーキープログラムは、この新たなストーリーの一角を担うものでもある。
昨年9月にジェリースマックのプレジデントに就任したショーン・アトキンス氏は、「クリエイターエコノミーのインフラに対する需要は日増しに高まっている」と話す。「将来的には数千億ドル(数十兆円)規模の産業に発展すると思われるが、この動きはまだ始まったばかりだ」。
ジェリースマックの歩み
2016年創業のジェリースマックはメインストリームのメディアブランドではないが、ソーシャルプラットフォームのあいだでは、それなりの規模を築いてきた。チューブラーラボ(Tubular Labs)による動画視聴回数の格付けでは、ワーナーメディア(WarnerMedia)、コムキャスト(Comcast)、BuzzFeedなど、同社よりもはるかに大規模なメディア企業をおさえて、全メディアサイト中第6位につけている。チューブラーの調べによると、2021年11月現在で、配信先プラットフォームをすべて合わせた動画視聴回数は69億回にのぼった。
そして近年は、これまでに蓄えた規模と専門技術をより効果的に活用する方法を模索している。2年ほど前には、ユーチューバーがFacebookでオーディエンスを獲得するための支援を開始。具体的には、YouTubeのコンテンツをFacebook向けに編集して、再配信するという方法を取っている。このアプローチが奏功し、現在では、ピューディパイ(PewDiePie)、ミスタービースト(MrBeast)、ニール・ドグラース・タイソン(Neil deGrasse Tyson)らを筆頭に、数百人の著名人が同社と契約している。また、プラットフォーム横断的にオーディエンスを拡大するサービスを、メディア企業やブランドに対しても提供している。
マーキー初のクライアントとなったガヌー氏のケースでも、この技術は理論的には大いに役立つと考えられる。ガヌー氏のフォロワー数は、インスタグラムでは330万人、Facebookでは100万人を超える一方、TikTokのフォロワー数は16万5000人、YouTubeの登録者数は18万9000人にとどまっている。異なるプラットフォームにまたがるこのオーディエンスに、直接アピールするコンテンツを作ることができれば、ガヌー氏のフォロワー数を全体的に底上げすることができるだろう。
「我々はどのような種類のコンテンツが効果的か知っている」。ジェリースマックで戦略パートナーシップの責任者を務めるオリヴィエ・デルフォス氏は話す。「そして、そのようなコンテンツを合理的なコストで制作することができる」。
そのコンテンツのなかには、明らかに制作チームの手に成る作品もあるが、ジェリースマックとしては、できるだけ個人を感じさせるコンテンツを作りたいという。マーキーのバイスプレジデントを務めるアーロン・ゴッドフレッド氏は、「フランシス(ガヌー)が自らカメラを手に取り、作成した作品のように見せたい」と述べている。
新世代のネットスターを支援
ジェリースマックが次にめざすのは、ネットの世界で活躍する新しいスター、それも、主要な広告主たちの注目を集めるほどのスターを生み出すことだ。そう語るのは、スタックコマース(StackCommerce)の最高執行責任者(COO)で、ファンブレッド(FanBread)の共同創業者としても知られるカール・ハウス氏。ファンブレッドも、著名人がコンテンツを作成し、自身のFacebookページで配信する活動を支援していた。「大金を生むのはブランドとのパートナーシップだ」とハウス氏は話す。ジェリースマックは、今後注力するクリエイターのカテゴリーとして、プロアスリートや美容分野の著名人を挙げている。なお、マーキーがマネジメントを担当する著名人の数は明らかにされていない。
自らのステータスとソーシャルメディアでのリーチ力を最大限に活用したい著名人を、メディア企業が支援する試みはこれまでにもあった。たとえばFacebookも、以前から手作業でコンテンツを制作する小さな事業をいくつか支援している。事業の内容は、著名人に有料で記事を配信してもらうリンク共有から、UGC(ユーザー生成コンテンツ)に若干手を加えてFacebookに投稿し、手っ取り早く広告収入を稼ぐという動画ライセンス販売までさまざまだ。
しかし、長年にわたって、プラットフォーマーたちが互いに互いを模倣しあってきた結果、動画コンテンツの配信に適したより広範で、かつ均質的なエコシステムができあがった。いまでは、縦型動画の人気シリーズを作れば、Facebook、インスタグラム、Snapchat、TikTok、YouTube、ピンタレスト(Pinterest)など、多様なプラットフォームで容易に拡散できる。
変幻自在なプラットフォーム
対するプラットフォームには、いつでも好きなときにルールを変更できるという強みがある。たとえばFacebookは、ブランデッドコンテンツに関する規則を変更することで、多くのパブリッシャーが頼りにしていたリンク共有戦略を事実上一掃した。彼らプラットフォームがおこなうコンテンツの監視や取り締まりに関しては、長期的な視点で注視する必要があるだろう。実際、インスタグラムは2021年の初めにアルゴリズムを変更して、TikTokのクローン機能といわれるリールタブに、TikTokコンテンツの使い回しを表示させないようにした。
とはいえ、Snapchatのスポットライトにしろインスタグラムのリールにしろ、まだ生まれたばかり、あるいはよちよち歩きの製品であり、この問題が表面化するのは2022年ではなく、むしろ2023年にずれ込むと思われる。
ハウス氏はいう。「新興のプラットフォームにとって、なにかを制限したり抑制したりすることは必ずしも有益ではない」。
[原文:With Marquee, Jellysmack looks to turn non-digital natives into a new generation of internet stars]
MAX WILLENS(翻訳:英じゅんこ、編集:小玉明依)