数カ月後、新たなCEOがAmazonの手綱を握る。その人物は、時価総額1兆ドル(約105兆円)を超える企業を、どのように舵取りしていくのだろうか。ジェフ・ベゾス氏の後任に指名されたのは、アンディ・ジャシー氏。2021年第3四半期から、Amazon舵を取ることになる。
数カ月後、新たなCEOがAmazonの手綱を握る。その人物は、時価総額1兆ドル(約105兆円)を超える企業を、どのように舵取りしていくのだろうか。
ジェフ・ベゾス氏の後任に指名されたのは、アンディ・ジャシー氏。同氏は2021年第3四半期から、Amazon舵を取ることになる。1997年、Amazon上場からわずか数カ月後に入社したベテラン社員であるジャシー氏は、この約15年間、AWS(Amazon Web Services)を率いてきた。かつて社内で付随的だった同部門は、ジャシー氏の手腕により、Amazonをテックジャイアントへと後押しするまでに成長。実際、AWSの2015年第4四半期の収益は24億1000万ドル(約2500億円)だったが、2020年第4四半期は、127億ドル(約1兆円)にもおよぶ。
ベゾス氏はAmazonにエグゼクティブチェアマンとして残るため、これは完全な政権交代ではない。しかしそれでも、新CEOがいくつかの変化をもたらす可能性はある。セラーからエージェンシーまで、Amazonが提供するプラットフォームに依存してきた企業たちは、ジャシー氏がより統合型のビジネスを生み出し、AWSで得た学びをAmazonの事業拡大に活かすことを期待している。ジャシー氏はこれまで、テクノロジーとサービスにフォーカスしてきたことを考えると、リテールビジネスにどうその経験を活かしていくかは、まだ見えてこない。内部事情に詳しい者たちによれば、突然の変化も驚くような変化もないだろう、というのが業界を覆う、いまのところの空気のようだ。
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ジャシー氏への期待
2020年は、Amazonにとってもリテール業界全体にとっても、きわめて騒々しい1年だった。Amazonは同年、Amazonは大幅な成長を遂げ、年間売上は前年比38%増の3861億ドル(約40兆円)を記録。ただし、相応のコストも伴った。ベゾス氏は2020年第2四半期の収支報告において、新型コロナウィルス関連への対応に第1四半期の利益40億ドル(約4200億円)を費やしたと発表。Amazonは需要高騰を経験したが、危機にも陥り、その需要に応えられる新たなインフラの構築に励んだ。続いて8月、コンシューマ部門を統括していた重鎮、ジェフ・ウィルキー氏が退任。ウィルキー氏はベゾス氏の側近のひとりだっただけに、業界に衝撃が走った。
そして、そんなバタバタも収まりつつあるいま、Amazonの長期展望が見えてきている。「ベゾス氏はこれまで30年近くにわたり、自らの強い思想でAmazonを動かしてきた」と、Amazonのセラーやベンダー向けの支援を提供する、オルカ・パシフィック(Orca Pacific)の創業者/CEO ジョン・ギオルソ氏は述べる。「それだけに、劇的な変化が起きるとは思えない」。
しかし、AWSを率いてきたジャシー氏の姿勢には、変化の展望を伺わせるヒントもある。「ジャシー氏がAmazonで築いたのは漸進的ビジネスであり、AWSの成長だけでも、過去20年における最大の成功物語といえる」とギオルソ氏。「もし彼が行動を起こし、同様のビジネスをあと新規に10ほど築けるとしたら、その先にはAmazonの勝利がある。あくまで、漸進的な形ではあるが」。
セラーとブランドの統合
では、どのような変化が期待されているのか。「Amazonは[歴史的に見て]顧客にフォーカスしてきた」と、コンサルタント会社ポディーン(Podean)の創業者/CEOマーク・パワー氏は指摘する。「Amazonのエコシステムでは、顧客だけでなくあらゆるパートナーが重要なのだが、その点をAmazonはいまだに理解していない」。つまり、複数の業界全体がAmazonの超強力なフライホイールのおかげで成長した一方、同社は依然、それらを統合できていない。それゆえ、「Amazonには、多くのサービスパートナーと、より良い関係を構築してもらいたい。我々は皆、もっと有意義な関係を求めている」。AWS時代に企業間関係を重視したジャシー氏に期待していると、パワー氏は強調する。
最近の数字に、こうした関係性が明確に現れている。eコマース解析企業、マーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)のジョー・カイザクーナス氏のツイートによれば、Amazonの2020年第4四半期マーケティング予算のうち、実に97%が広告収入によって「まかなわれた」。
広告は、セラーおよびブランドの成功に不可欠な要素であり、エージェンシー勢はそのおかげで帝国を築いている。Amazonもこの恩恵を享受しているのだが、いまだ両者を完全には統合できていない。「広告は、どのブランドやセラーとも緊密に関係している」とパワー氏。「にもかかわらず、両者は完全にサイロ化している」。
変化はすでにはじまっている
エージェンシーのトンブラス・グループ(Tombras Group)で、VP/ディレクターを務めるケヴィン・パックラー氏によれば、変化はすでにAmazon内部ではじまっているという。「AWSの成長から得た教訓の多くは、すでにAmazon Advertisingチームに伝えられている」と、同氏は米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)の質問にeメールで回答した。「ただ、エージェンシーやブランドにとっての大きな変化がすぐに起きるとは思えない」とパックラー氏。というのも、これらは組織面での変化であり、ハンズオフおよび自動化の推進を基本とする、Amazonのマーケットプレイス戦略からはかけ離れているからだ。
とはいえ、こうしたAmazon内部での微細な変化も重要だ。これまでも同社は、セールス、およびアカウントエグゼクティブといったのインフラストラクチャーを整備するために採用を推進し、社全体の成長を促進してきた。もちろんこれは、ほかの団体/テック企業にもよく見られるものだが。
詰まるところエージェンシー勢は、ジャシー氏がAmazon Advertisingの改善に、AWSの戦略を適用することを願っている。「もしもアンディが物置のなかを探し回り、AWSといった道具を見つけたとする。そして、それらを上手く使えば、Amazonはアドフラウドといった問題に、ほかの誰にもできない規模で取り組めると気づいたとしたら?」とパックラー氏は書いている。いまのところ、そうした問題への対応は、大半がいわばモグラ叩き状態なのだが、同氏いわく「アンディがAWSで得た実践的知識は、非常に興味深い。ひょっとしたら、新たなタイプのアドネットワークが、数年のうちに登場するのではないか」。
一方、コンサル企業のボブスレッド・マーケティング(Bobsled Marketing)のCEO キリ・マスターズ氏は、フルフィルメントサービスはすでに成熟しており、より大規模のB2Bビジネスに成長できると確信しているようだ。同氏は最近、フォーブス(Forbes)誌に掲載された寄稿のなかで、「AWSは元来、Amazon内部における束縛/制約の解決を目的として発展したもの。Amazonはその漸進的余剰能力を、他企業や政府といったサードパーティに販売できた。同様に、Amazonは自社が抱える問題を解決するために、物流システムを構築したのであり、いまやその余剰能力を他企業/組織に転売できる状態にある」とした。さらにマスターズ氏は、その後のメール取材で「ジャシー氏がトップの座に就くことで、今後この動きは持続性をさらに増すと考える」と述べている。
大局的な見解
とはいえ、ほとんどのセラーおよびエージェンシー幹部らは、Amazonのビジネス手法自体に、大きな変化はないと見ている。というのも詰まるところ、ジャシー氏は20年以上にわたり同社の幹部を務めてきた人物だからだ。ボックス(Vox)の最近の記事のなかで、多くの事情通は同氏について、ベゾス氏の病的ともいえる顧客中心主義を共有する人物、と評している。
「コロナ禍がなければ、(CEOの交代も含めた)Amazonの一連の動きは1年前に起きていたと思う」と前出のギオルソ氏は述べる。「予断は許されないが、状況が少しずつ落ち着いてきたいま、Amazonは着々と計画を遂行している」。
CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)