ウーバーは事業者ごとにカスタマイズ可能なクーポンプログラムを提供し、小売業者向けにビジネス機能を強化している。これは単なるクーポンの機能拡充ではなく、デジタル特典を提供しやすくすることで小売業者を惹きつけるための手法だ。ウーバーはできるだけ多くの企業との契約を目指し、競合との差をつけようとしている。
ウーバー(Uber)は、小売業者向けにビジネス機能を強化している。
2020年11月に競合であったポストメイツ(Postmates)の買収を完了した同社は、クーポンプログラムのウーバーバウチャーズ(Uber Vouchers)を全面的に刷新すると発表した。今回のビジネス向けのアップデートでは、企業が自社ロゴを使って顧客に(ウーバーで利用可能な)クーポンを送ることができるようになる。クーポンの配信や管理は企業側のダッシュボードで直接操作することができるようになった。そもそもこのプログラムは、企業が従業員向けに配布するウーバー乗車券から生まれたものだ。アップデートにより、ブランドたちは特定の地域の顧客にウーバー乗車券やウーバーイーツ(Uber Eats)のクーポンを提供することができ、小売業者は販売促進のための新たなマーケティング機会を得たことになる。
これは単なるクーポンの機能拡充ではなく、デジタル特典を提供しやすくすることで小売業者を惹きつけるための手法だ。ウーバーはできるだけ多くの企業との契約を目指し、ドアダッシュ(DoorDash)のような競合との差をつけようとしている。つまり、クーポンは同社のマーケティング戦略における新しいツールのひとつなのだ。
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toBプラットフォームとしてのウーバー
「特にブランディングエージェンシーは、顧客のためにクーポンをブランド化できることに興奮している」と、ウーバーの法人向け部門(Uber for Business)でグローバルマーケティング責任者を務めるミシェル・リソウスキー氏は言う。リソウスキー氏は、初期の使用例としてサムスン(Samsung)を挙げる。サムスンは2019年8月、消費者に店舗に足を運んでもらうためにウーバーバウチャーズプログラムを使用した。同社は、カナダにおけるギャラクシー(Galaxy)スマートフォンの購入に対して、100ドル(約1万300円)相当のウーバーイーツ用のクーポンを顧客に提供した。これによってモバイルデバイスの売上は20%増加した。リソウスキー氏はまた、回答することでクーポンがもらえるアンケートや、クーポンと商品購入を抱き合わせることで各ユーザーの購入金額を増やすなど、ほかの使用例についても言及した。
2019年にローンチしたバウチャーズプログラムは、企業がクーポンを作成し、eメールやテキスト、そのほかの独自チャネルを使って送信することを可能にした。顧客はモバイルデバイスでクーポンを利用できる。当初、バウチャーズはウーバーの法人部門によって管理されており、企業側で自社ブランドのサービスとしてカスタマイズはできなかった。主に1回限りの、イベント来場者などに対するウーバー乗車サービスのような利用を想定していたためだ。しかし、今回のバージョンでは企業が独自のクーポンプログラムを作成し、それぞれ個別にカスタマイズすることができる。
これは、現在世界中に15万社以上のパートナーがいるウーバーのBtoBプログラム全体を成長させる壮大な戦略の一環である。今年、法人部門は、法人顧客向けのサービスとしてウーバー乗車特典だけでなく、ウーバーイーツを追加した。現在、同社の法人顧客は、バウチャーズのようなサービスを利用して従業員と顧客の両方に特典を提供できる。このサービスは、ウーバーイーツが展開する20カ国以上に拡大された。これにより、ウーバーのBtoBプラットフォーム上のウーバーイーツユーザーは2019年比で30倍に成長し、プラットフォーム上の新規ブランドは2020年11月の段階で前年比23%の増加を見せたという。
小売業者の囲い込み競争
ライバルのドアダッシュとインスタカート(Instacart)が独自の小売提携を強化するなか、ウーバーも2020年は小売業者との提携に忙しかった。秋にはボディショップ(The Body Shop)と提携し、同ブランドのスキンケア製品とビューティー製品を対象地域のユーザーに提供した。これはビューティー分野におけるウーバーの最初の提携であり、食品と必需品カテゴリーの外へのプラットフォームの拡大を象徴している。
ドアダッシュで収益・マーチャント部門バイスプレジデントを務め、現在はギフトカード・プラットフォームのレイズ(Raise)のCEOであるジェイ・クラウミンザー氏によると、デリバリーサービス企業たちは、収益性を追求するなかで新しい小売業者やブランドに対象を拡大しようとしているという。「物流におけるラストマイルロジスティクスの秘訣は、車両効率だ。これらの企業がドライバーたちから1時間あたりに絞り出せる配送量が多ければ多いほど、料金を安くしたり、採算ライン自体を下げることすらできる」とクラウミンザー氏は言う。ドアダッシュの場合、まず食べ物からスタートした。「なぜなら、熱い食べ物を、まだ熱くて新鮮なうちに受け取り、配達してもらうことは、解決するのがもっとも難しい問題だからだ」と、彼は言った。
現在、これらのプラットフォームは、できるだけ多くの企業が利用できるようにしようと奮闘している。ウーバーにとってバウチャーズプログラムは、配送やeコマースの新たな需要に対応しようとする小売業者を惹きつけるための、新たな一歩である。「彼らのチームは、地元のレストランや小売店だけでなく、大きな全国展開のパートナーにも焦点を当てている」。
[原文:Why Uber is courting retailers with branded vouchers]
Gabriela Barkho(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)