米国におけるケーブルテレビ離れは深刻だ。生き残りを模索し続けるテレビ局は、最近ではFacebookで番組の初回を無料放映するプロモーションを行うことが多い。最強のコンテンツ制作者であるテレビ局がFacebookと蜜月になりつつあるのだ。そうした状況で、動画帝国YouTubeの立場が危うくなっている。
米国におけるケーブルテレビ離れは深刻だ。生き残りを模索し続けるテレビ局は、最近ではFacebookで番組の初回を無料放映するプロモーションを行うことが多い。最強のコンテンツ制作者であるテレビ局がFacebookと蜜月になりつつあるのだ。
そうした状況で、立場が危うくなるのが動画帝国YouTube。これまでYouTubeとFacebookの闘いは、広告主や動画パブリッシャー、制作業者の囲い込みが主だったが、そんな戦いに新たな局面が訪れている。
2015年6月15日、Amazonは連続コメディドラマ『大惨事(原題:Catastrophe)』を映像配信サービス「Netflix」「Hulu」と合同で制作し、その第1話目をFacebookで無料視聴できるように投稿した。その1週間後、大手テレビ局HBOも同様に、最新作のドラマ「Ballers」と「The Brink」をFacebookで無料公開する。
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Web上でテレビの新番組をサンプリングすることは、そんなに目新しいことではない。新番組の情報を知らない人や、オンラインでしか動画を観ない人たちを、新しい視聴者として獲得する必要があるからだ。以前まではYouTubeが、それを実現できる唯一の場所だったが、もはやそうではない。
視聴回数の減少がマーケティング手法を変化させる
「現在、動画コンテンツ配信業界は、大混乱の崖っぷちにある」と、リサーチ会社Forresterの主席アナリストである、ジェイムス・ネイル氏は語る。以前までは、テレビ局が新しい番組の宣伝を行うのは、夜の報道番組の合間で、CMの数分間を利用するのが普通だったが、もうそれだけでは十分ではない。
これは人々がテレビを観なくなったというわけではない。IHS Technologyの主任研究アナリストであるエリック・ブラノン氏によると、「コード・カッティング(コード切り)」と呼ばれる、ケーブルテレビ離れが深刻さを増しているだけだ。消費者はケーブルテレビにお金を払わなくなっているのだ。
HBOは動画配信サービス「HBO Now」を立ち上げた。他のテレビ局も同様の対策を行っている。目的はケーブルや衛星テレビを契約していない1,000万世帯を獲得することだ。ソーシャルプラットフォームで番組をサンプリングすることで、テレビ局たちは視聴者を取り込み、新番組へお金を支払うことを促そうとしている。
「視聴者の行動が変わると同時に、その視聴者たちを引き込むことができるようなペースでテレビ局は変化し続けなくてはならない」と、HBOのデジタル・ソーシャルメディア担当取締役であるジム・マーシュ氏は話した。「デジタルサンプリングは、現在の顧客と見込み顧客に新番組を紹介する、とても有効な手段だ。最終的には、新たな支持層を作りたいと考えている」
「ケーブルテレビや衛星テレビを契約していない世帯を獲得することは、戦略の一部です」と、先述のブラノン氏。「人々を虜にし、契約につなげる。有料番組が増えるような結果にはならない。OTT(「Over The Top」の略。ネット回線を通じて、動画コンテンツを配信する事業)化をする上での手段だ」
Facebook が切り崩すYouTubeの牙城
YouTubeにとって、テレビ番組におけるデジタルサンプリングの流行は良いものだった。たとえば、以前HBOはドラマ『GIRLS/ガールズ』や『ニュースルーム(原題:The Newsroom)』などのパイロット版をYouTubeで無料公開している。しかし、Facebookが動画に関して目覚ましい発展を遂げると、YouTubeの弱みも見えてきた。
「私たちは常にパートナー企業たちと革新的な手段を模索している。今回のケースでは、Facebookのプラットフォームを利用して、大規模な人数へ宣伝する機会を得ることができました」とマーシュ氏は語った。「私たちが目標を達成できたのは、ここ数カ月でFacebookの動画能力が著しく進化を遂げたからだ」
プラットフォームとしてFacebookは、ユーザーをそれぞれのコンテンツへ誘導することにとても優れている。「YouTubeよりFacebookが優れているのは、ユーザーが1日に数回は確認するフィードであるという点だ」と、先述のネイル氏。「YouTubeはいまだ『ああ、これはYouTubeで検索しないと。あと何か新しいものがないか見てこよう』といった状態だ」
HBOのマーシュ氏は、もう少し外交的だ。「デジタル動画のエコシステムは、とても密接に関連し、注目を浴びるためのいちばんの得策はない。パートナーたちと密接に仕事をして、複数のプラットフォームで宣伝することが最も重要だ」
それを踏まえたうえで数字を見ると、いまのところHBOの実験は良い結果を残している。2015年6月24日、500万人のフォロワーを持つ、俳優ザ・ロックのFacebookページにアップロードされたドラマ「Ballers」は、すでに550万回以上の再生回数を記録。ザ・ロックが出演していない、ドラマ「Brink」の第1話でも、同時期に85万5,000回の再生回数を記録した。