通常ならTwitterにとって、ワールドカップは広告収入の稼ぎ時だ。ところが、2022年は通常とはかけ離れている。経済も、大会も、そして何よりTwitter自体も、何から何まで異例ずくめだ。世界最大のスポーツイベントが開催中だというのに、Twitterでは広告支出の収縮が起きている。
通常ならTwitterにとって、ワールドカップは広告収入の稼ぎ時だ。ところが、2022年は通常とはかけ離れている。経済も、大会も、そして何よりTwitter自体も、何から何まで異例ずくめだ。世界最大のスポーツイベントが開催中だというのに、(いつもなら言説を運ぶ大動脈のひとつである)Twitterで広告支出の収縮が起きている。
その要因はいくつもある。経済の低迷により、多くの企業は広告予算の引き締めを迫られた。大会のタイミングと広告費の高騰するホリデーシーズンが重なり、支出には合理的な説明が求められる。そしてイーロン・マスク氏がTwitterのトップに就任したこと、それに続く混乱がTwitterでの広告支出を完全にストップさせた。
ハッシュタグや絵文字、ライブ動画といったいつもの賑わいはどこにも見られないが、そこに驚きはない。大会に向けたTwitter独自の企画も中止されたもようだ。
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2022年ワールドカップに向けたTwitterの(旧)計画
ワールドカップの開催に向けて、Twitterのマーケティング部門はTwitterを活用してより広範なオーディエンスとつながる機会を強調してきた。
たとえば、Twitterスペース(Twitter Space)とライブショッピング。あるいはプロダクトエクスプローラ広告、コレクション広告、インタラクティブテキスト広告という新しいフォーマット。さらに、ブランドはTwitterアンプリファイ(Twitter Amplify)のプレロール広告とスポンサーシップ広告を通じたプレミアムサッカーコンテンツと連動させることにより、テレビ広告戦略の拡張を図ることもできると謳っていた。
これだけの準備をしてきたにも関わらず、Twitter本社で起きている最近の騒動を背景に、Twitterではいま二つのナラティブが同時並行的に進行している。
エンゲージは増加しているが、大量解雇によるシステム障害が懸念
まず、ユーザーのエンゲージメントは飛躍的に増えている。あれこれいったところで、やはりワールドカップである。エンプリファイ(Emplify)が収集したデータによると、今大会の上位3つのハッシュタグはすべてTwitter上で話題にされている。具体的には、#fifaworldcup(40万メンション)、#qatar2022(12万7000メンション)、#worldcup2022(7万9000メンション)で、そのほかのハッシュタグはインスタグラムで突出している。
メディアセルズ(mediacells)のブラッド・リース最高経営責任者(CEO)は、「チーフツイット(Chief Twit)」を自称するイーロン・マスク氏にとって、ワールドカップはまさに絶好のタイミングで幕を開けたと指摘する。「ワールドカップ関連のツイートは、2018年大会のときよりもエンゲージメントが大幅に増加している」とリース氏は話す。「ただし、残り期間のユーザー行動について予測するのは時期尚早だ」。
その反面、この増加によって、大会期間中にTwitterが大規模なシステム障害を起こす可能性も否定できない。2018年のワールドカップ開催時、ビジネスインサイダー(Business Insider)は「Twitterではワールドカップに関する話題のインプレッション総数が1115億回におよんだ」と報じていた。
ワンダーマントンプソン(Wunderman Thompson)でソーシャルメディアストラテジストを務めるジェイムズ・トゥリーン氏は、ツイートの減速は一見すると災難だが、Twitterを効果的に運営するにはむしろ僥倖(ぎょうこう)だと述べている。従業員が大量に解雇されているときにトラフィックが急増すれば、システムの機能停止を招きかねないからだ。
グローバルなアドテク企業のペリオン(Perion)でCEOを務めるドロン・ガーステル氏も、「ワールドカップのタイミングはTwitterにとっては最悪かもしれない」と同意する。「世界50億人のW杯視聴者がいつサイトに来てもおかしくない」とガーステル氏は話す。「その反面、ひとつのプラットフォームに内在する欠陥や脆弱性、あるいは歪みといったものにこれほどメディアが注目したことはかつてなかった。まるで文化そのものが反Twitterで団結しているようだ」。
広告のゴーストタウン
ワールドカップをめぐるエンゲージメントについては非常に好調なTwitterだが、広告となると話は別だ。もちろん、ある程度の広告は入るだろう。ワールドカップは頻繁に開催されるイベントではない。それでも、広告に関する限り、Twitterは過去の大会ほどの販売実績は期待できそうにない。
「ここ最近の不安定さ、大幅な人員削減、マスク氏の奇矯な言動のせいで、一部のブランドはTwitterでの広告出稿を一時停止している」。そう語るのは、MKTGスポーツ・アンド・エンターテインメント(MKTG Sports + Entertainment)でコンテンツおよびコミュニケーション担当のシニアバイスプレジデントを務めるアマール・シン氏だ。「それでも、アテンションの獲得をめざして、ワールドカップの開催期間中にペイドキャンペーンを展開する企業は少なくない」。
Twitterの混乱はともかく、このタイミングのおかげで、広告主たちはいつものワールドカップほど自由に動けなくなった。カタールの人権問題も火に油だ。広告主としては、大会との関連づけに慎重にならざるを得ない。デジタルヘイト対策センター(Center for Countering Digital Hate)の調べによると、Twitterはワールドカップ開幕直前の1週間に報告された人種差別的なツイートの99%に対処できなかったという。
クリエイティブエージェンシーのR/GAで、EMEA市場の営業と業務を統括するマシュー・バート氏は、「混乱と人員不足がヘイトという名のパーフェクトストームを招いていることは明白で、当然、企業もTwitterへの広告出稿に二の足を踏む」と述べている。
Twitterは実際にはいくらの損失を出しているのか?
ワールドカップの最初の週に起きたいくつかの出来事は、このような懸念の払拭にはまったく役に立たなかった。FIFAが出した虹の腕章の着用禁止をはじめ、むしろ大会にまつわる多くの論争を悪化させるだけだった。マーケターは慎重な生き物だ。ワールドカップがTwitter上でグローバルな議論を巻き起こすことは分かっていたし、Twitterが激しい議論の場となるのはいつものことだ。
ワンダーマントンプソンのトゥリーン氏もこう述べている。「広告主にしてみれば、人々のタイムラインに投稿されたネガティブなコメントの横に広告を出す意味はほとんどない。出した広告がネガティブなコメントを引き寄せるなどあってはならない」。
それだけではない。バート氏が指摘するように、Twitterの運営に必要なノウハウの多くが、それを持つ人々、つまり最高プライバシー責任者と最高コンプライアンス責任者の辞職ととも失われてしまった。Twitterは不安定化という深刻なリスクを抱えており、その兆候はすでに現れている。
平たくいえば、本来、Twitterにとってワールドカップは稼ぎ時だ。過去の大会では、特別な瞬間ごとに、まるで避雷針が雷を集めるように人々の注目を集めてきた。当然、広告収入もついてくる。
Twitterが上場廃止となったいま、同社がカタール大会で稼ぐ広告収入の額について知る術はおそらくない。自分が気に入らない数字、それどころかどんな数字も、いまのマスク氏に公表する義務はないのだから。
[原文:Why the World Cup adds to, rather than eases, all that ails Twitter]
Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)