データのトラッキングがデフォルトでオプトインになっている、アプリで位置情報や電話番号の収集を要求するといった、ユーザーを不利な行動に誘導する「ダークパターン」を米国の規制当局が問題視し始めている。規制強化を求める声が上がるなか、デジタルメディアやオンライン広告業界団体は規制対策の動きを進めている。
企業がユーザーを不利な行動へと巧妙に誘導する手法、「ダークパターン」がオンラインにおける新たな問題として取り沙汰されている。
アナリストの発表によると、今やダークパターンは食料品店からカジノにいたるまで、実にさまざまな場所でも見られるという。しかし、とりわけ蔓延しているのがオンラインの世界だ。ECの販売戦略やデータ追跡のオプトアウト通知など、ありとあらゆるところで使われていると言ってよい。そして、米国の規制当局もダークパターンを問題視し始めている。
そのことを示す最新例が、連邦取引委員会(FTC)が4月29日に開いたダークパターンのワークショップだ。出席したアナリストから口々に、ダークパターンに対する規制強化が強く求められた。一方、早くも規制への対策も進んでいる。オンライン広告の業界団体、ネットワーク・アドバタイジング・イニシアチブ(Network Advertising Initiative、以下NAI)の動きがその一例だ。
Advertisement
個人情報収集の通知が一端に
ワシントン大学法学部教授のライアン・カロ氏は、FTCによるワークショップの「ダークパターンに光を当てる(Bringing Dark Patterns to Light)」のなかで、ダークパターンが消費者に与える影響について議論するパネルディスカッションに出席していた。同氏は「ダークパターンは不正かつ詐欺のようなやり口であり、消費者を保護するために、法による規制が必要だ」と説いている。
「100年前にこの国の議会が指示したように、企業が行っている不正な行為を把握するのはFTCにとって重要な責務だ。これは道義に則った指示であり、極めて明瞭だ。ダークパターンの規制をもって、改めてFTCの存在意義を世に示すべきではないか」。
ダークパターンがとりわけ問題視され始めた一因が、デジタルメディアやアドテク企業が現在おこなっている個人情報の収集についての通知だ。
欧州の一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア消費者プライバシー法(CCPA)といった個人情報保護法が次々に施行されたことで、消費者に対してCookieなどの技術によるデータのトラッキングの許可を求める通知が表示されるようになった。ただしこの種の通知においても、ダークパターンが多用されている。つまりデータ収集・使用のオプトアウトよりも、サードパーティCookieなどによるトラッキングへの同意を選びやすくさせるような強調表示が使われている。
規制対策する構えのオンライン広告業界
たとえばカリフォルニア州では、2021年3月にCCPAの中にダークパターンのみを対象とする規制を盛り込んだ。この規制は、個人情報販売のオプトアウトのプロセスを曖昧にしたり、過剰に複雑なプロセスでユーザーを混乱させたりすることを禁じている。カリフォルニア州におけるこの禁止措置とFTCからの関心の高まりを受けて、オンライン広告業界では規制への対策に備える動きが拡がっている。
NAIでポリシー担当バイスプレジデントを務めるデイビッド・ルダック氏は、FTCのワークショップがおこなわれた翌朝に掲載された市場調査会社モーニング・コンサルタント(Morning Consult)の論説で次のように述べている。「州および連邦政府が、マーケティング詐欺を防ぐためにダークパターンの把握に努めること自体には意義がある。だが、実行措置は既存の規制で十分であり、性急なダークパターン規制はおこなうべきではない。さらには、新しい法律の制定によりユーザーへ最適な情報提供をおこなう正当な手段まで制限されてしまう可能性もある」。
法規制ではなく、あくまで業界による自己規制で処置すべきというのがルダック氏の主張だ。「デジタルUIを規制する特別法は必要ない。不正・詐欺に対抗する既存の法律を活用すべきであり、消費者および企業に対する情報提供をより積極的におこなっていくことこそが重要だ」。
同意のアプローチを見直す必要も
FTCのパネルディスカッションでは、データ収集メカニズムにおけるダークパターンについて、スタンフォード大学「人間中心のAI研究所(Institute for Human-Centered Artificial Intelligence:HAI)」で個人情報およびデータポリシー担当フェローを務めるジェニファー・キング氏が解説をおこなった。「データのトラッキングがデフォルトでオプトインとなっていたり、モバイルアプリで位置情報や電話番号といったシステムの動作に必要のない情報の収集を要求したりすることはダークパターンに該当する。個人情報の収集や開示を強制的・誘導的に同意させることや、ユーザーの望む以上に開示させる目的で、これらの『操作』がおこなわれている」とキング氏は指摘する。
「とりわけ懸念しているのが、オンラインで同意を求めるやり方だ。既存のメカニズムはあるが、現時点ではまったく機能していない。たとえば、『許可』ボタンが強調された状態で表示されているものは、ダークパターンに分類される」。
オンライン広告業界では、既存の規制から広告事業を守るためにダークパターンを採用しているケースもある。一部のパブリッシャーやアドテク企業の幹部は、「CCPA関連のオプトアウトが広告収益に与える影響は最小限に抑えられている。ターゲティング広告は大きな収益をもたらすが、データトラッキングへの同意をユーザーに促す仕組みを導入している」と明かしている。
データトラッキングにより、広告主はオンラインやアプリ上におけるユーザーの行動に応じた広告のターゲティングが可能になった。一方、キング氏をはじめとする研究者からは、「広告業界はデータ収集への同意を求めるアプローチや伝え方を全面的に見直す必要がある」という指摘が繰り返しなされている。
通知を「強制」から「ユーザー本位」へ
「現在は、同意に際して法的な用語がそのままデジタルUIに使われている。もっとオーディエンスに伝わりやすい、人間中心のアプローチが必要だ」とキング氏は主張する。
「今のやり方は、ユーザーフレンドリーな形で説明する努力せずに、『同意する』ボタンを押させようとしている。これはダークパターンに相当すると言っていい。既存UIの見た目を変えるだけでは不十分であり、もっと真摯に取り組んだソリューションを見せるべきだ」。
またキング氏は、「Appleは新たなトラッキング防止機能を導入した。アプリごとに広告ターゲティングのためのトラッキングを許可するか、ユーザーに直接尋ねることを求めている。同意のデザインとしてベターなやり方だ」と述べている。「実験的な取り組みだ。実際にうまくいくのか見守っていきたい」。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)