ユニリーバのコニー・ブラームスCD&COが神経を尖らせている。世界中でインターネットが大きく変わろうとしているからだ。必ずしもいい方向ではなく悪くなる可能性もある。しかし、同氏はWeb3.0という分散型インターネットへの移行は、機能不全に陥っている現在の一部のデジタル要素をお払い箱にする好機だと考えている。
ユニリーバ(Unilever)のコニー・ブラームスCD&CO(最高デジタル&コマーシャル責任者)が神経を尖らせている。世界中でインターネットが大きく変わろうとしているからだ。必ずしもいい方向に変わるわけではない。むしろ、悪くなる可能性もある。
2022年4月7日、世界広告主連盟(WFA)が主催したギリシャ・アテネのイベントにおいてブラームス氏は、「次に人々が時間とお金をかける場所の構築に着手し、そこに資金を投じていく際に、過剰な期待感に惑わされることなく自分たちが何を創ろうとしているのか、何を防いでいかなければならないのかを明確にする必要がある。詐欺だらけの体験を生み出さないようにしなければならない」と話し、「Web3.0の(文字通りの)通貨は、仮想通貨ではなく信用」だと強調した。
つまり、Web3.0という分散型インターネットへの移行は、機能不全に陥っている現在の一部のデジタル要素をお払い箱にする好機だという話である。「勝者総取り」から「なによりもコミュニティ」に意識をシフトさせるのだ。これは簡単なことではない。インターネットでもっとも影響力を持つ「利害関係者」のなかには、誰かと協調するよりも、有利な立ち位置を占めたいと考える者が多いからだ。
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とはいうものの、あとから振り返って導き出された教訓は役に立つものだ。ブラームス氏はこうした教訓について米DIGIDAYに語り、現実世界とソーシャルネットワーク、そしてますます増えつつある仮想空間においてビジネスを構築するユニリーバのアプローチに、それらの教訓がどのように活かされているのかについても説明してくれた。
「王者」に仕えることで学んだ教訓
巨大テック企業と彼らの資金源となっている広告主との間の白々しい関係を言い表せる表現はいろいろあるが、もっとも言い得ているのは「機能不全」だろう。マーケターが巨大プラットフォームにかける予算を抑えたいと思っても、それを実行に移すことはない。これらのプラットフォームが提供するリーチは、彼らと手を組むリスクより毎回はるかに大きい。
だがWeb3.0で、豊富なデータに対して巨大テック企業が持っている強力な支配が揺るがされることがあれば、そのような必然性はなくなるかもしれない、とブラームス氏は話す。いま初めて、そのような可能性が見えてきている。
ブラームス氏は「消費者は自分のデータを所有し、もっとコントロールできるようになる」という。「ひいては自分のデータに対して何が行われるかをもっと意識的に選択できるようになる。こうした意識の高まりによって、現在プライバシー関連で生じている副次的な悪影響の多くを防止できる」。
少なくとも、それが願いだ。新しいインターネットの価値は、現在のインターネットが持つ危険性と簡単にすり替わりかねない。ブラームス氏は次のように解説する。「今日の消費者が抱える課題や懸念は、個人的なデータがいっそう個人的なものになる環境ではさらに増大するだろう。規制だけでは十分ではない。自主規制だけでも十分ではない。自制に頼るのも十分ではない」。
「知識」が力であるならば、「知恵」とは己の無知を知っていること
ブラームス氏の世界に「絶対」はない。Web3.0がWeb2.0と同じような混乱に終わらないと確信を持っていうことはできない。彼女はただ、自分の知識の限界とその知識によって同じ過ち(特に、オンラインメディアの中心にある裁定取引の問題)の繰り返しをいかに防げるかを理解しているだけだ。
Web2.0の世界において企業は裁定取引に精を出し、可能な限り多くの消費者データを吸い上げ、それをまとめて高い値段で売ることで、数兆ドル規模の事業を構築してきた。こうして消費者には豊富なコンテンツが、広告主にはかつてないリーチが提供され、テック企業はこの空前の機会を機敏にとらえて莫大な利益を上げた。
ブラームス氏は「自分にはWeb2.0で起きたような問題の再発を防ぐために具体的に何をすればよいのかを突き止めるだけの力はないが、意図しない結果の数々からたくさんの教訓を得たことはわかっている」と語る。「データドリブンな経済から、アルゴリズムがコンテンツをどう扱うかまで、以前より明確に把握しているだけでなく、悪質な業者たちがいかに人々の実生活だけでなく、バーチャルに害を及ぼすかもわかった」。
たとえば透明性を例に考えてみよう。巨大テック企業は広告の仕組みやデータがどこに流れていくかを明確に示さず、そのギャップを埋めることはユニリーバのような広告主に委ねた。広告主は、信頼できるマーケットプレイスやデータクリーンルーム、内製化などであいまいさをなくそうと取り組んできた。Web3.0でもこれが続くと考えていいだろう。
ブラームス氏はこの点を強調する。「広告主にはインターネットの新しい段階を構築する際に、自分たちが正しいと考えるソリューションやサービスに投資するという力がある」。
責任あるメディア
社会的責任投資は、かつてはニッチな分野だと見られていた。だが現在では、特に投資先のコンテンツに関連するところで、社会的責任はマーケターにとって無視できないものとなっている。この問題が最も顕著なのはオンライン上だ。2017年にブランドセーフティ危機が持ち上がって以来、プラットフォームはアドベリフィケーション企業にインベントリーを測定してもらうという従来からの手法で、キャンペーンに関する知見をわずかながら得ていた。
これに対し、ユニリーバやハイネケン(Heineken)などの企業は、アドベリフィケーション企業に実際のデータを要求した。GARM(Global Alliance for Responsible Media:責任あるメディアに向けた世界同盟)が策定した基準に照らし合わせて確認するためだ。大抵の場合、プレスリリース以上のものは何も見つからない。
ただし、こうした確認行為は分散型インターネットにおいて別の意味合いを持つこととなる。目的は単に「悪者を排除」することではなく、市場のプレイヤーを教育することだ。
ブラームス氏は「GARMのようなイニシアチブを通して、責任あるプラットフォームとの取引や責任あるインフラというより広い環境での事業において、広告主や消費者が何を求め、何を求めていないのかを学ぶことができた」と話す。「人々は自分が買うブランドに対し、もっと慎重に、自覚を持って行動してほしいと望んでいる」。
Web3でトラッキングは行えるのか、そもそもトラッキングは存在してよいものなのか
あまり驚くことではないが、ブラームス氏はどちらもよくわからないと話す。トラッキングの今後に関しては不確定要素が多すぎて、明確な見通しが持てないのだ。確信を持っていえるのは、ファーストパーティIDからコンテクスチュアルまで、さまざまなソリューションを試す必要性があることだという。特に優勢なものはない。
ブラームス氏をはじめとするマーケターたちがあらゆる選択肢を探っているからだ。結果はどうあれ、データ保護が鍵を握るだろうとブラームス氏は続けた。そうでなければ、広告業界は多数の間接業者が極めて不透明な環境で大量の個人データを入手し、取引できる状況になってしまう。
「現在広告主として入手できる個人データは、通常はいくつかの特徴だけに限られているが、Web3.0ではそれ以上のものになる」とブラームス氏はいう。考えてもみてほしい。人々が自分のデータをコントロールできればできるほど、自分が信頼する企業に対しては、等価と見なすサービスまたは商品と引き換えにそのデータを共有する可能性が高い。
よくよく思えばこれはかなり深いコンセプトだ、とブラームス氏は指摘する。「より多くの人が、自分のデータを共有することによって自分は何を得られるのかと考えるようになる。たとえば、自分はターゲット広告がいいのか、それともパーソナライズされた商品のほうがいいのか」。
Commerce3.0
ここ数年、商取引は不可逆的な変革のなかで、クリエイターとバイヤーの両方にとって開かれた経済へとゆっくり移行している。その結果、eコマースとメディアプラットフォームが近づいている。ブラームス氏は次のように説明する。「マーケターはeコマースプラットフォームではコンバージョンを実現してブランド構築につなげる機会を得られるし、メディアプラットフォームではその逆ができる」。
たしかに、マーケティングとセールスの境界線はかなり前からぼやけてきていた。それが今では、ユニリーバにとってリテールメディアがブランドの戦略的投資先となるまでにぼやけているのだとブラームス氏は語った。これを受けて同社のメディア支出もシフトしている。「リテールメディアに投じる金額は増えているが、接する場所は異なっても消費者には必ず同じ体験をしてもらえるようにしたい」。
このトレンドはここ数年本格的に進行しており、Web3.0ではいっそう加熱することが確実と見られる。2022年4月、CD&MO(最高デジタル&マーケティング責任者)からCD&COに変わったブラームス氏の肩書がそれを証明している。
[原文:Why ‘the currency in Web 3.0 is not crypto, it’s trust’]
Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)