SpotifyからNPRまで、ポッドキャストネットワークで番組の統廃合が始まった。一部のポッドキャスターはリスナーと収益を増やすための戦略として、看板番組を中核としたオーディオ事業の再編を進めている。制作する番組数の絞り込みは、この戦略の一環だ。
匿名で取材に応じたあるポッドキャストの幹部は、「成長の見込める人気シリーズや主要IPに経営資源を集中させ、この方向で焦点を絞り込むことには価値がある」と述べている。
NPRのポッドキャストチームは番組の絞り込みに注力する一方で、人気の高いポッドキャストフィード内で期間限定や話数限定の新シリーズを立ち上げ、制作チームやリスナーを複数の番組に分散させない戦略をとっている。一方、「ジ・アスレチック(The Athletic)」は小規模なサッカークラブのポッドキャストを一部終了し、主力番組への資源集中を進めている。
大手の一部は予算削減で量よりも質にフォーカス
Spotifyは6月に6つの番組を打ち切り、200人を解雇して「ギムレット(Gimlet)」と「パーキャスト(Parcast)」の担当チームをひとつに統合した。これは同社がこの1年に行ってきた大量解雇の一部でもある。また、ディズニー(Disney)は今春に行った人員整理の一環として、6人の従業員から成るマーベル(Marvel)のポッドキャストチームを半数に縮小。このほかNPRは、今年3月にスタッフの10%を解雇し、4つのポッドキャストを終了すると発表した。
コロナ禍で急成長したポッドキャスト業界が収縮の局面を迎え、暗いニュースが相次いでいるのは確かだ。しかし、予算の削減が始まり、ポッドキャスト版のバブル投資が終焉を迎えた結果、オーディオネットワーク各社はポッドキャストチームの整理統合を進め、制作、販売、マーケティングなど、より多くの経営資源を集客力の高い主力番組に集中させている。
メディアエージェンシーのホライゾンメディア(Horizon Media)でアドバンスト/デジタルオーディオ担当バイスプレジデントおよびマネジングディレクターを務めるマリア・タリン氏は、電子メールによる取材で「パブリッシャーが予算を削減しつつ、パフォーマンスの高い番組に資源を集中させ、量よりも質を優先したがるのは理解できる」と述べている。
全体的には番組量が増えている?
しかし、すべてのポッドキャストパブリッシャーがこのアプローチを採用しているわけではない。たとえば、エコノミスト(The Economist)、CNN、ベッチェスメディア(Betches Media)は、米DIGIDAYの取材に対し「年内に配信開始を予定している新番組が目白押しだ」と話しており、3社に関する限り、オーディオ事業への投資にブレーキをかける兆候も、縮小するポッドキャスト市場に合わせて事業規模を調整する必要性もほとんど見られない。
また、ポッドキャスト検索エンジンのリッスンノーツ(Listen Notes)が最近公表したデータによると、2022年上半期に公開されたポッドキャストの新番組が9万9467本だったのに対し、2023年上半期は10万4277本に上ったと、音声ニュースサイトのインサイドラジオ(Inside Radio)は報じている。対照的に、NPRとジ・アスレチックはいずれも「量より質」のアプローチをとっている。
NPRは主力番組を軸にポッドキャストの整理統合を推進
NPRはポッドキャスト番組の統廃合を進めており、番組担当バイスプレジデントのヨランダ・サングウェニ氏によると、「専任スタッフを配置した複数の季節番組を打ち切る一方、主力番組のショーケース化を進め、看板タイトルに長編シリーズを集約している」という。その結果、NPR広報によると、看板番組の「エンベディッド(Embedded)」シリーズの広告収入が前年比で80%増加したという。ただし、ポッドキャスト全体の収入は減少しているようだ。同社のジョン・ランシング最高経営責任者(CEO)は今年2月に「今年、収入の未達は3000万ドル(約44億円)近くに上る見込みだ」と述べていた。
その反面、NPRのポッドキャストのリスナーは年々増えている。ポッドトラック(Podtrac)発表のポッドキャストランキングによると、2023年6月現在、米国におけるNPRの月間ユニークリスナー数は1850万人で、前年同期の1800万人から増加している。NPRの広報によると、現在同社が制作するポッドキャストは30を超えるという。昨年との比較については、特定の番組の季節性により、このデータの追跡は難しいとして公表を避けた。「期間限定や話数限定などの番組本数によって、公式の数字は変動する」とのことだった。
サングウェニ氏によると、NPRはリスナーだけでなく経営資源も「分散」させていた。NPRのエンタープライズストーリーテリング部門でエグゼクティブプロデューサーを務めるアイリーン・ノグチ氏は、ポッドキャスト業界の競争激化に鑑みて、「厳選したポッドキャストフィードにリソースを集中させ、これをチャネルとして各種の番組にスポットライトを当てる」と話し、これは「専任の制作スタッフを持つ多くの番組に広く薄く資源を分散するやり方とは一線を画する」と指摘した。
実際、NPRは複数あるポッドキャストチームを整理統合する一方、看板番組の「エンベディッド」に、「テイキングカバー(Taking Cover)」「ホワイトライズ(White Lies)」「ラヴコマンドーズ(Love Commandos)」をはじめ、新しいドキュメンタリーシリーズを意欲的に追加している。これに合わせて「エンベディッド」と「ザ・サンデーストーリー(The Sunday Story)」のスタッフは倍増させた。「ザ・サンデーストーリー」はNPRが平日早朝に配信しているニュース番組「アップファースト(Up First)」の長尺・日曜版だ。
さらに最近では、加盟局との提携にも注力しはじめた。その結果、制作コストの負担なく、加盟局の番組をNPRのネットワークに追加できるようになった。こうした提携を開始した昨秋以降、NPRブランドを使用し、相互プロモーションに参加する加盟局提供の番組は120本前後に上る。
SpotifyからNPRまで、ポッドキャストネットワークで番組の統廃合が始まった。一部のポッドキャスターはリスナーと収益を増やすための戦略として、看板番組を中核としたオーディオ事業の再編を進めている。制作する番組数の絞り込みは、この戦略の一環だ。
匿名で取材に応じたあるポッドキャストの幹部は、「成長の見込める人気シリーズや主要IPに経営資源を集中させ、この方向で焦点を絞り込むことには価値がある」と述べている。
NPRのポッドキャストチームは番組の絞り込みに注力する一方で、人気の高いポッドキャストフィード内で期間限定や話数限定の新シリーズを立ち上げ、制作チームやリスナーを複数の番組に分散させない戦略をとっている。一方、「ジ・アスレチック(The Athletic)」は小規模なサッカークラブのポッドキャストを一部終了し、主力番組への資源集中を進めている。
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大手の一部は予算削減で量よりも質にフォーカス
Spotifyは6月に6つの番組を打ち切り、200人を解雇して「ギムレット(Gimlet)」と「パーキャスト(Parcast)」の担当チームをひとつに統合した。これは同社がこの1年に行ってきた大量解雇の一部でもある。また、ディズニー(Disney)は今春に行った人員整理の一環として、6人の従業員から成るマーベル(Marvel)のポッドキャストチームを半数に縮小。このほかNPRは、今年3月にスタッフの10%を解雇し、4つのポッドキャストを終了すると発表した。
コロナ禍で急成長したポッドキャスト業界が収縮の局面を迎え、暗いニュースが相次いでいるのは確かだ。しかし、予算の削減が始まり、ポッドキャスト版のバブル投資が終焉を迎えた結果、オーディオネットワーク各社はポッドキャストチームの整理統合を進め、制作、販売、マーケティングなど、より多くの経営資源を集客力の高い主力番組に集中させている。
メディアエージェンシーのホライゾンメディア(Horizon Media)でアドバンスト/デジタルオーディオ担当バイスプレジデントおよびマネジングディレクターを務めるマリア・タリン氏は、電子メールによる取材で「パブリッシャーが予算を削減しつつ、パフォーマンスの高い番組に資源を集中させ、量よりも質を優先したがるのは理解できる」と述べている。
全体的には番組量が増えている?
しかし、すべてのポッドキャストパブリッシャーがこのアプローチを採用しているわけではない。たとえば、エコノミスト(The Economist)、CNN、ベッチェスメディア(Betches Media)は、米DIGIDAYの取材に対し「年内に配信開始を予定している新番組が目白押しだ」と話しており、3社に関する限り、オーディオ事業への投資にブレーキをかける兆候も、縮小するポッドキャスト市場に合わせて事業規模を調整する必要性もほとんど見られない。
また、ポッドキャスト検索エンジンのリッスンノーツ(Listen Notes)が最近公表したデータによると、2022年上半期に公開されたポッドキャストの新番組が9万9467本だったのに対し、2023年上半期は10万4277本に上ったと、音声ニュースサイトのインサイドラジオ(Inside Radio)は報じている。対照的に、NPRとジ・アスレチックはいずれも「量より質」のアプローチをとっている。
NPRは主力番組を軸にポッドキャストの整理統合を推進
NPRはポッドキャスト番組の統廃合を進めており、番組担当バイスプレジデントのヨランダ・サングウェニ氏によると、「専任スタッフを配置した複数の季節番組を打ち切る一方、主力番組のショーケース化を進め、看板タイトルに長編シリーズを集約している」という。その結果、NPR広報によると、看板番組の「エンベディッド(Embedded)」シリーズの広告収入が前年比で80%増加したという。ただし、ポッドキャスト全体の収入は減少しているようだ。同社のジョン・ランシング最高経営責任者(CEO)は今年2月に「今年、収入の未達は3000万ドル(約44億円)近くに上る見込みだ」と述べていた。
その反面、NPRのポッドキャストのリスナーは年々増えている。ポッドトラック(Podtrac)発表のポッドキャストランキングによると、2023年6月現在、米国におけるNPRの月間ユニークリスナー数は1850万人で、前年同期の1800万人から増加している。NPRの広報によると、現在同社が制作するポッドキャストは30を超えるという。昨年との比較については、特定の番組の季節性により、このデータの追跡は難しいとして公表を避けた。「期間限定や話数限定などの番組本数によって、公式の数字は変動する」とのことだった。
サングウェニ氏によると、NPRはリスナーだけでなく経営資源も「分散」させていた。NPRのエンタープライズストーリーテリング部門でエグゼクティブプロデューサーを務めるアイリーン・ノグチ氏は、ポッドキャスト業界の競争激化に鑑みて、「厳選したポッドキャストフィードにリソースを集中させ、これをチャネルとして各種の番組にスポットライトを当てる」と話し、これは「専任の制作スタッフを持つ多くの番組に広く薄く資源を分散するやり方とは一線を画する」と指摘した。
実際、NPRは複数あるポッドキャストチームを整理統合する一方、看板番組の「エンベディッド」に、「テイキングカバー(Taking Cover)」「ホワイトライズ(White Lies)」「ラヴコマンドーズ(Love Commandos)」をはじめ、新しいドキュメンタリーシリーズを意欲的に追加している。これに合わせて「エンベディッド」と「ザ・サンデーストーリー(The Sunday Story)」のスタッフは倍増させた。「ザ・サンデーストーリー」はNPRが平日早朝に配信しているニュース番組「アップファースト(Up First)」の長尺・日曜版だ。
さらに最近では、加盟局との提携にも注力しはじめた。その結果、制作コストの負担なく、加盟局の番組をNPRのネットワークに追加できるようになった。こうした提携を開始した昨秋以降、NPRブランドを使用し、相互プロモーションに参加する加盟局提供の番組は120本前後に上る。
ジ・アスレチックは小規模な番組を整理し、主力番組に注力
米紙「ニューヨークタイムズ(The New York Times)」傘下のスポーツ専門サイトであるジ・アスレチックも、制作するポッドキャストの数を減らし、人気の高いサッカークラブの番組に経営資源を集中させている。また、従来よりも積極的なマーケティング戦略を展開しているようだ。
その結果、オーディオ部門のマネジングエディターを務めるイアン・マッキントッシュ氏によると、ジ・アスレチックの主力番組「フットボールポッドキャスト(Football Podcast)」の1エピソード当たりの平均リスナー数が、昨シーズン(2021-2022年)から今シーズン(2022-2023年)の1年間で倍増したという。なお、同氏はジ・アスレチックのリスナー総数については開示しなかった。
「膨大な数のクラブ番組があったのだが、それをコンパクトに縮小した。その結果、以前よりも効率的でよく考えられた、権威性の高い番組になったと思うし、新しいことに挑戦する機会も残されている」とマッキントッシュ氏は語ったが、削減されたポッドキャストの総数については明かされなかった。
ニューヨークタイムズの広報は、「事業目標の変化に伴い、英国に拠点を置くジ・アスレチックの国際音声事業部門で、いくつかのサッカークラブ番組(具体的な本数は非公開)を終了した」とコメントしている。現在、6つのクラブのポッドキャストが配信を続けている。同部門では来シーズン(2023-2024年)に向けて、合計14のポッドキャストを制作しているという。ニューヨークタイムズの広報によると、番組の打ち切りを決める明確な基準はないが、リスナー数などが考慮されるようだ。
ホライゾンメディアのタリン氏もこう述べる。「ダウンロード数の多い上位の番組だけに集中するのは間違いだと思う。それは在庫圧力の増大やインプレッション単価の上昇を招き、究極的にはKPI単価やパフォーマンス上の問題にも発展しうる。その反面、成績のよくない番組を打ち切り、効率化を図り、高品質のコンテンツに最優先で注力することは、誰にとっても勝利の方程式だ」。
コンテンツの集中と選択
一方、広告エージェンシーのオーシャンメディア(Ocean Media)でポッドキャストおよびデジタルオーディオ戦略の責任者を務めるクリステン・コセオ氏は、「ポッドキャストネットワークが特に番組のラインナップを縮小しているとは思わない」と述べ、「あくまでも通常運転だ」と続けた。
ジ・アスレチックは今年、英国で新しいマーケティング構想をテストした。毎週、「イチ推し」の番組を選び、この1本に全マーケティング力を傾け、ネットワーク内のほかのポッドキャストを巻き込んで、この番組のクロスプロモーションを展開するというものだった。結果、ジ・アスレチックが国際的に配信するポッドキャストの全番組でリスナーが大幅に増加した。マッキントッシュ氏によると、その多くは「2桁増」だったという。なお、リスナー数に関する具体的な数字は明らかにされなかった。
「どんなパブリッシャーも、どこかの時点で、収益性が高く、広告主に高いコンバージョンを提供できるタイトルを選び、集中的に投資を行うべきだ。コンテンツの質を優先することは、これを実現するもっとも有効な手立てと言えるだろう」とタリン氏は話す。「ジャンルとコンテンツの多様性が一定程度担保されるなら、この集中と選択は、ここ数年のポッドキャスト番組の急増に続く、自然で論理的な展開だと思う」。
[原文:Why some publishers are reducing their podcast slate to try to grow their audio businesses]
Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)