Twitch(ツイッチ)は現在、ブランド各社から注目を集めるプラットフォーマーのひとつである。だが試験運用を経ても、同プラットフォームの有効的な利用方法がつかめず、活用を躊躇している企業も少なくない。
Twitchは現在、ブランド各社から注目を集めるプラットフォーマーのひとつである。だが試験運用を経ても、同プラットフォームの有効的な利用方法がつかめず、活用を躊躇している企業も多い。
現時点で有効利用できている企業は、Twitchのゲームコミュニティとのつながりが強いブランドに限られる。たとえばハイパーX(Hyper X)やレッドブル(Red Bull)、モンスター(Monster)といったエナジードリンクメーカーや、ヘッドフォンメーカーのキャンペーンは好評を博している。一方、他業界の企業による成功例は、菓子ブランドのドリトス(Doritos)が大会スポンサーを務めた、2018年のドリトスボウル(Doritos Bowl)キャンペーンなどが存在するものの、例外的といわざるを得ない。
それでも、これまで二の足を踏んでいたブランド各社の関心は高まり続けており、重い腰を上げ採用に舵を切った企業も出はじめるなど、Twitchの躍進は続いている。現に、同プラットフォームの配信者数は2020年、360万人からほぼ倍増し、690万人に達している。さらに2021年1月には、同月だけで、Twitchにおける総視聴時間は20億時間にも上ぼった。それだけではない。Twitchでは、美容やチェスといったゲーム以外のコミュニティも盛り上がっており、これまでゲームとは縁のなかったエルフ(Elf)やホワイトクロー(White Claw)、レクサス(Lexus)といったブランドからも関心が集まっている。
Advertisement
ニッチな市場を内包している点が魅力
美容ブランドのエルフは、2020年の秋にTwitchの試験運用を開始。同社で統合マーケティング担当 バイスプレジデントのパトリック・オキーフ氏は「新たな可能性を模索し、知見獲得の一環としてTwitchを試している」と語る。たとえば、ゲーム配信者のルーザーフルーツ(Loserfruit)とのコラボ企画では、エルフのメイクアップアーティストの助けを借りながら、同社の製品を使って人気ゲーム「フォートナイト(Fortnite)」のキャラクターのルックを再現した。
オキーフ氏によると、この配信のオーディエンスは10万人を超えた。「TwitchはZ世代のユーザーが非常に多く、我々は彼らにリーチすることが目的だった」。このキャンペーン以降、ルーザーフルーツは、自身の配信のなかでお気に入りのエルフ製品を紹介しているという。
Twitchの魅力は、莫大なユーザー数だけではなく、ニッチな市場を内包している点にある。これは、TwitchがAmazon傘下ということとあわせて、多くのeコマースブランドを魅きつけている。現在Twitchでは、Amazon Liveのようなライブコマースサービスは提供されていないが、Amazonのアフィリエイトリンクを利用することは可能だ。
なお、Amazonは2014年にTwitchを買収して以来、同プラットフォームにはあまり触れてこなかった。しかし2020年秋、TwitchをAmazon Advertisingの傘下に統合し、今後の展開を示唆した。ちなみに2020年の第3四半期の業績発表では、Amazon MusicとTwitchの統合についても公表されている。
Twitchの秘めるポテンシャルとリスク
「さまざまなプラットフォームが存在するなか、Twitchは興味深いメディアだ。だが、同時に極めてややこしい」。こう語るのは、ゲーム専門のコンサル会社、トゥーファイブシックス(Twofivesix)の創業者、ジェイミン・ウォーレン氏だ。同社はブランド企業に対し、インフルエンサーのスポンサードプログラムや、自社アカウントの立ち上げ、さらにはブランド独自のエモート(Twitchで使われる絵文字)の制作支援などを手がけている。ウォーレン氏によると、Twitchを利用して大規模なキャンペーン展開を検討するブランドが、増えているという。
ただ、ほかのプラットフォームでは常套手段となっている戦術でも、Twitchでは通用しない。「Twitchを活用するブランドは、自社アカウントで配信するコンテンツと、ほかのプラットフォームで提供するコンテンツを区別している」とウォーレン氏は語る。というのも、ゲーム配信において重要なのは、いうまでもなく配信者だ。企業がアカウントを作るのであれば、「個性的で、本物の配信者」になりうる社員を選び、アカウントを運用させる必要がある。「Twitchでは、個性的な声の持ち主が成功する傾向がある。聞いていて引き込まれるような配信者を選任する必要があるのだ」。
また別の懸念もある。それは、Twitchがブランドにとってコントロールし辛いメディアである点だ。数時間にもわたり生配信する場合、当然ながら脚本通りにはいかない。むしろ、想定外の出来事がコンテンツの人気を高めることがある。「こうした点から、今後失敗を危惧するブランドが出てくるだろう」と、Amazon関連ビジネスのコンサルティングを行う企業、ポディーン(Podean)の創業者で、エルフのキャンペーンにも携わったマーク・パワー氏は述べる。「ブランドがTwitchを有効活用するには、想定されるあらゆる事について、あらかじめ対応方法を検討しておくことが必要だ」。
実際、Twitchでのプロモーションについて検討不足だったブランドが、トラブルに巻き込まれた事例は存在する。たとえば、2018年にKFCが展開したフライドチキンのエモートは、黒人差別に悪用され、提供停止を余儀なくされた。ほかにも、ブランドが同プラットフォームにおけるキャンペーンで、配信者を「都合よく使っている」と批判されることも少なくない。2020年には、バーガーキングが人気配信者らのチャンネルで、投げ銭機能を匿名で使用していたことが判明。配信中は、投げ銭のたびに自動でメッセージが読み上げられるため、何千というオーディエンスに対してマーケティングができる。なお、バーガーキングが行っていた投げ銭の金額は5ドル(約530円)。これは、正式に配信者とコラボするためのコストより、はるかに安価だ。
レクサスやバーバリーなども進出
ゲーム一辺倒と思われがちなTwitchだが、実はほかにもニッチなコミュニティが混在している。たとえばチェスやアニメ、コスプレ、さらにはボディペインティングといった分野はかなりの人気があり、さまざまなブランドにとって魅力的なプラットフォームになり得る。最近ではレクサスを筆頭に、自動車メーカーも利用しはじめている。また美容ブランドも、エルフだけではない。バーバリー(Burberry)やEm Cosmetics(エムコスメティクス)をはじめ、多くのブランドがTwitchに進出している。
また、Twitchではいま、夜食を求めるユーザーのニーズを狙ったキャンペーンが増えている。2020年12月には、アルコールブランドのホワイトクローが配送会社のゴーパフ(goPuff)との共同キャンペーンを展開し、営業時間外に潜在的な顧客を獲得した。ゴーパフの事業開発、および体験型マーケティング責任者を務めるマーシャル・オズボーン氏は、「午前2時に営業している競合はほかにいない」と語る。毎週Twitchのチャンネルを更新しているウェンディーズ(Wendy’s)も、同じく12月に同様のキャンペーンを展開。ウーバーイーツとコラボして、ユーザー向けに夜食の宅配を行っている。チポトレ(Chipotle)も、同プラットフォームの機能を積極的に活用して、同じようなプロモーションを実施している。
Twitchを利用しているブランドの数は、ほかのプラットフォーマーの規模と比べるとまだ少ない。しかしユーザー層が多様化し、Amazonも積極的に投資していることで、参入企業が増えることはほぼ確実だ。「現在Twitchは、広告で多くの収益を上げている」とパワー氏は語る。「だが、Amazonのeコマース機能との提携など、ほかにもさまざまな収益化を実現するポテンシャルを秘めている」。
[原文:Why so many brands are testing out Twitch]
MICHAEL WATERS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)