ショッピファイ(Shopify)が、eスポーツチーム「ショッピファイ・レベリオン(Shopify Rebellion)」を立ち上げる。このチームの主戦場はSFストラテジーゲームの『スタークラフトII(StarCraft II)』となる予定で、すでに前作の世界王者をはじめとするプレイヤーの獲得を表明している。
Shopify(ショッピファイ)が、eスポーツチーム「ショッピファイ・レベリオン(Shopify Rebellion)」を立ち上げる。
「ショッピファイ・レベリオン」の主戦場はSFストラテジーゲームの『スタークラフトII(StarCraft II)』となる予定で、すでに前作の『スタークラフト(StarCraft)』の世界王者をはじめとする3人のプレイヤーの獲得を表明している。Shopifyはこれまでもeスポーツに関わってきた。CEOのトビアス・リュッケ氏自身、長年eスポーツのファンであることを公言している。これまでも複数のeスポーツリーグのスポンサーを務めてきた同社だが、2020年秋にはスタークラフトの元プレイヤーのダリオ・ブンシュ氏をeスポーツ部門の責任者に据えた。
近年、小売業界ではeスポーツに対する関心が高まっている。eスポーツデータ企業のニューズー(Newzoo)が2020年2月に発表した市場調査では、2020年時点でeスポーツのオーディエンスは全世界で4億9500万人と推計されている。また、スポンサーやチケット、放映権などを含めた2020年のeスポーツの経済効果は11億ドル(約1200億円)とされた。もちろん、このデータは新型コロナウイルスによるロックダウン以前のものだ。2020年には、さまざまなプロスポーツが何カ月にもわたって休止を余儀なくされた。そして、再開後も視聴率が以前の水準まで戻っていないケースも多い。そのような事情も相まって、現在、eスポーツの注目度が急上昇している。そして、大手企業のなかでもとりわけ力を入れているのがShopifyだ。
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Twitchが牽引するeスポーツ
eスポーツというカテゴリーには、たとえば「NBA 2k」のリーグなど、ゲームタイトルごとにさまざまなリーグが存在している。そこに強さを競うプレイヤーが集まり、視聴者はTwitch(または、オーディエンスは少ないが、ESPN 2といったケーブルチャンネル)で配信を見る。
これまでも、スナック菓子や飲料、靴ブランドなどがeスポーツへのスポンサリングに関心を寄せてきた。そして現在、オンライン販売を行うブランドを中心に注目度が大きく高まっている。オーディエンスが若く、コンテンツへの関心度が高いことが最大の魅力だ。eスポーツの誕生自体は約20年以上前にまでさかのぼる。現在のようにブランドから注目を集めるようになったのは、実はeスポーツの「聖地」とも呼ばれる配信プラットフォーム、Twitchの誕生が大きく寄与している。
Shopifyはすでにeスポーツに高額の投資を行っている。ほかの企業もチームやリーグのスポンサーにはなっているのだが、Shopifyの場合は自らのチーム創設を行っている。プロプレイヤーへの投資やファン層の拡大など、いわば草の根運動ともいえるレベルから活動しているのだ。
チームの運営を成功させるには
「バスケットボールや野球のプロチームを買うようなものだ」と指摘するのが、eスポーツおよびゲームコンテンツ開発企業スタックト・エンターテイメント(Stacked Entertainment)のCEO、ダン・シコーン氏だ。「eスポーツチームの運営を成功させるには、プロスポーツチームの運営と同じような条件が必要になる」。ショッピファイ・レベリオンをほかのスポーツのチームとして捉えれば、その意味の大きさがわかるはずだ。たとえばウォルマートがMLBのチームのスポンサーになるだけでなく、購入して自らチームのマネジメントまで行うようなものだ。
「Shopifyのチーム運営は、ビジネス面でも確実に効果を期待できるだろう」と、シコーン氏は語る。「eスポーツのファンは、技術に興味のある若者が多い。しかも起業家を目指す者が大勢いる」。つまり、Shopifyにとっては見込み顧客ということになる。実際、eスポーツのプレイヤーはこれまでも商品販売のプラットフォームにShopifyを選ぶことが多かった。さらに、『スタークラフトII』は欧米以外でもファンが多く、とりわけアジアで絶大な人気を誇っている。「その意味でも、成長戦略として重要な意味を持つ」。
ただしeスポーツチームを結成し、選手や商品、エンタメ、広告に投資するのはコストがかかるのは言うまでもない。新しく結成したチームでファンを獲得するのは非常に難しい。「自らチームを立ち上げるよりも、はるかに安上がりで良い方法がほかにあるのは確かだ」とシコーン氏。
Shopify CEOの情熱が原動力
ニューズーの市場アナリストのキャンダイス・マドリック氏は「無論、マーケティングという側面はあるだろう。しかし私には、経営者のゲームタイトルに対する情熱が大きく影響しているプロジェクトに思える」と語る。「なにせCEOは、このゲームの大ファンとして知られている」。
Shopifyとeスポーツは必ずしも最適な融合、相乗効果を期待できるというわけではない。スニーカーなど、eスポーツとオーディエンスが重複する業界は、ほかにも多数ある。参考までにeスポーツメディアのDBLTAPによるアンケートでは、23%が年間で500ドル(5万4000円)以上をファッション、特にスニーカーに費やしていることも判明した。またスナックを販売しているサワーパッチキッズ(Sour Patch Kids)も、オーバーウォッチ・リーグのスポンサーとしてイベントでグミのプレゼントなどを行っている。Shopifyに近い企業では、Amazonが欧州で開催された学生向けの大会「Amazonユニバーシティ・eスポーツ」のスポンサーを務めている。
ほかにも、新規参入の小売企業は少なくない。テキサス州の食料品チェーンのH-E-Bもその一つだ。2019年にヒューストンのeスポーツチームのスポンサーになった。現在、同チームのユニフォームにはH-E-Bのロゴが印字されている。また2018年には、アホールド・デレーズ(Ahold Delhaize)がNBA 2kリーグのチーム「ウィザーズ・ディストリクト・ゲーミング」のスポンサーになった。これは食料品チェーンとして初の試みだった(プログレッシブ・グロッサー(Progressive Grocer)調べ)。
ほかのスポーツとの類似点・相違点
eスポーツリーグはテレビ放映が少ない点を除けば、ほかの人気スポーツとの類似点も多い。だが埋め切れていない欠点として、まだ各チームに熱心なファンが少ないということが挙がる(例外もあり、複数のeスポーツリーグで活躍する「フェイズ・クラン[Faze Clan]」などはファンも多い)。ただしプレイヤー個人には、プレイごとに一喜一憂してくれる愛着を持ったファンが付きやすいという、未開発ゆえの好条件も潜在している。
Shopifyのように、チームを立ち上げてファン獲得を目指すというのは決して容易ではない。「実は、チーム自体がブランドとして影響力を発揮できているところは少ない」とシコーン氏は語る。「なぜならオーディエンスは、チームではなくプレイヤーを追いかけるからだ」。
[原文:Why Shopify is investing in esports]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)