Amazonをはじめとする大手小売企業が、配送料金の低減と引き換えにユーザーに一部協力をあおぐケースが増えている。特にAmazonはクリスマスシーズン中のユーザーに、従来とは異なる「急がない」配送オプションを選択するよう促している。このオプション制度によるコスト削減効果が絶大であることは言うまでもない。
Amazonをはじめとする大手小売企業が、配送料金の低減と引き換えにユーザーに一部協力をあおぐケースが増えている。
今年は、小売各社による新たなフルフィルメントセンターへの投資が活発だ。だがそんななか、特にAmazonはクリスマスシーズン中の米国ユーザーたちに対し、従来とは異なる配送オプションを選択するよう促している。たとえば、Amazonブックスにおける店舗内ピックアップや、購入した商品を一括して配送する日を指定するプライム会員向けサービス「Amazon Day」、時間はかかるが送料無料の配送といった選択肢だ。
AmazonはCNBCの取材に対して、これらのオプションはコスト削減が目的ではなく、あくまで「ユーザーにより多くの選択肢を提供する」ためと回答している。しかし、このオプション制度によるコスト削減効果が絶大であることは言うまでもない。キャッシュバックや時間のかかる配送オプションを提供している小売企業はAmazonだけではない。メイシーズ(Macy’s)やターゲット(Target)といった小売企業も、今年は不急配送オプションを提供している。アパレルブランドのティンバーランド(Timberland)も最近、独自のオプションを発表した。同社は今後、直接的な金銭面でのインセンティブではなく、不急配送オプションの充実を目指している。
Advertisement
スピードを優先事項にしない
小売各社はオンライン注文が33%増加するとされているクリスマスシーズンに向けて準備を進めている。米国ではアルマゲドンと配送をかけた「シッパゲドン(Shipageddon)」とも呼ばれる季節限定の配送ラッシュを回避すべく、急ぎではない商品を通常の配送ラインから外し、代わりに高額のキャッシュバックサービスを提供する形に切り替えている。あるユーザーは、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、実際にメイシーズで不急配送を選択し、これまでで最高額となる10ドル(約1040円)のキャッシュバックを受け取ったと証言している。
不急配送は目新しいシステムではないが、2020年になってから一気に普及が進んでいる。この春、Amazonは「他の方を助けるためにご協力を」と銘打って、当日や翌日の配送が必要ではない商品については不急配送を選択するようユーザーに対して推奨していた。
これは、ある意味皮肉な現象だ。こういった取り組みの背景で、小売企業のあいだではさらに迅速な配送のために苛烈な競争がおこなわれている。ウォルマートでは不急配送のインセンティブを増やすと同時に、無料の翌日配達についてこれまであったカートの価格制限を撤廃した。
こういった二分化は、小売業界で常識とされた考え方の変化を象徴している。つまり物流面において、以前のようにスピードを最優先事項とするのではなく、ユーザーのニーズに合せる繊細なアプローチを採用する小売企業が増えている。各社はクリスマスシーズンに向けて、商品を少しでも早く届けるよう努めるだろう。一方で、急ぎではない配送サービスの提供により、配送量がピークに達することなく、なるべく均一にならす狙いがある。
複雑化する物流戦争
配送をめぐる激しい競争のなか、最近ではAmazonやウォルマートは倉庫ネットワークを構築し、商品の移動距離を最小限に抑える取り組みを進めている。だが、ミシガン州立大学教授でマーケティングを専門とするアヤラ・ルビオ氏は、このシンプルな目的のための戦略がますます複雑化していると述べている。同氏は「これまでずっと、配送にかかる時間を短縮する競争が続けられてきた。それがようやく、『どうすればより適切に制御できるか?』という発想へと切り替わった」と語る。一方で配送距離について、「単に距離を短縮するのではなく、効率を高める取り組みも重要だ」と指摘する。
Amazonの不急配送オプションは、約10年近く前から存在していた。だが今年のパンデミックによる物流への負担減の必要性から、配送料の割引額をこれまで通例だった1ドル(約104円)や2ドル(約208円)ではなく、3ドル(約312円)へと引き上げている。さらにAmazonは、この割引の提供方法の合理化も進めている。同社では、これまでは複雑なシステムでポイントバックしており、ユーザーも付与されたポイントを使うため、さらに商品を購入する必要があった。それを、商品価格自体から割引するようにしたのだ。これはユーザーにとっても非常に魅力的なシステムである。
同様の現象は、小売業界全体で起こっている。ルビオ氏は、「小売企業は、急増するオンラインショッピングに対応するため、当面の期間だけでも代替機能するソリューションを模索していた」と語る。「その結果、コロナ禍の来襲により、不急配送プログラムがこれまでよりも陽の目を浴びる形になった」。
ユーザーに高いインセンティブを付して、不急配送オプションを推奨する。これはかつてないほどオンライン収益が高まっている現在、理にかなった選択肢といえる。ルビオ氏は、「これによって、配送計画全体を改善できるようになった。つまり、トラックに積み込める最大量を積載しての配送が可能となった」と語る。「さらに配送ルートについても、ガソリン代を節約できる経済的なルートを選択できるようになっている」。たとえば、当日や翌日の配送需要に対応しなければいけない場合、配達時間に間に合わせるため、配送トラックは積載量の4分の3程度で出発するケースが大半となっている。一方、不急配送であれば、「トラックに隙間なく積載した状態で、かつ、さほど距離を移動しないような計画を練ることができる」。
時間を追加し、コストを削減
こうした配送効率化によって、Amazonやメイシーズは非常に大幅なコスト削減を達成できる可能性がある。MITは昨年、不急配送によるコスト面のメリットに関する研究を発表している。この研究対象はファッション用アクセサリーに限定されているが、ほかのカテゴリーに広げたとしてもコスト削減効果が大幅に変わることはない、と同研究者は述べている。
正確な「節約」額は、不急配送の割合に依存するが、物流コストについては少なくとも3%、多ければ32%もの削減に成功するいう。たとえば、商品の5%が不急配送の場合は、その分の時間節約により、1回の注文につき0.14ドル(約15円)のコスト削減になる。だが、不急配送が注文全体の80%になると、1注文あたり2.06ドル(約215円)の節約にまで跳ね上がる。
Amazonは不急配送オプションがとりわけ充実しており、「急がない」ことが必ずしも「遅い」ことを意味しない、例外的なサービスを提供できている。実際、不急発送であっても、Amazonの発送時間はかなり速い。カリフォルニア大学デービス校の持続可能貨物研究センター(Sustainable Freight Research Center)で共同ディレクターを務めるミゲル・ジェイラー氏は、モダンリテールに対し「不急配送といっても、企業によってサービス内容は異なる。Amazonであれば4日で配送する場合でも不急配送になる場合がある。だが別の会社であれば、10日程度かかることもあるだろう」と指摘している。
今後も維持可能か
不急配送の急増は、コロナ禍による一時的なものとなる可能性もある。しかしルビオ氏は、今後しばらくの間は、小売企業はインセンティブを高めずとも、この状態を維持していける要素が多数あると語る。配送時間について、より細やかなアプローチを採ることで、不急配送がコスト削減における重要なツールになる可能性がある。
「当面はやりくりに苦慮することがあるかもしれないが、需要管理において非常に効果的なツールであり、残っていくだろう」と同氏は語る。「企業にとってメリットがある限り、続くはずだ。そしてメリットがなくなれば、なくなっていくだろう」。
[原文:Why retailers like Amazon and Target are embracing no-rush delivery]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)