サブスクリプション方式で有料番組を提供するポッドキャスターが増えている。リスナーと直接的な関係を結び、追加的な収入源を確保することが狙いだ。しかも、多くのポッドキャスターがAppleやSpotifyのサブスクリプションプ […]
サブスクリプション方式で有料番組を提供するポッドキャスターが増えている。リスナーと直接的な関係を結び、追加的な収入源を確保することが狙いだ。しかも、多くのポッドキャスターがAppleやSpotifyのサブスクリプションプラットフォームにとどまらず、サポーティングキャスト(Supporting Cast)やスーパーキャスト(Supercast)などのサードパーティベンダーに関心を向けているのだ。
ソニーミュージックエンターテインメント(Sony Music Entertainment)のエグゼクティブバイスプレジデントで、グローバルポッドキャスト部門の共同責任者を務めるスティーヴ・アッカーマン氏は、「サブスクリプション需要は増えている。市場にはAppleだけでなく競争が必要だ」と述べる。
ポッドキャスト企業の複数の幹部が米DIGIDAYに語ったところによると、その主な理由は3つある。リスナーデータへのアクセス、特定のプラットフォームに縛られないこと、もっと有利なレベニューシェア契約の3つだ。AppleやSpotifyは、電子メールアドレスやクレジットカード情報といったサブスク契約者のデータをポッドキャスターに提供してくれない。また、Spotifyはポッドキャスターのサブスクリプションの売上から5%の手数料を徴収する。Appleに関しては30%だ。
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サポーティングキャストとスーパーキャストの強み
サポーティングキャストとスーパーキャストはリスナーのデータをポッドキャスターと共有するため、ポッドキャスターはリスナーに直接アプローチすることができる。共同創業者でCEOのジェイソン・スー・ホイ氏によると、スーパーキャストの手数料は、契約者1人当たり月額一律59セント(約82円)だという。一方、サポーティングキャストの手数料は平均してAppleの約半額だと、創業者でCEOのデヴィッド・スターン氏は説明している。
より多くのデータにアクセスできることは、「間違いなくスーパーキャストを選んだ理由のひとつだ」と、ポッドキャストネットワークのクルックトメディア(Crooked Media)でコミュニティおよびパートナーシップ担当バイスプレジデントを務めるダリューシュ・ブリズエラ・ノーサフト氏は述べる。
クルックトメディアは5月17日に定額プランの提供を始めたばかりだ。サブスクリプション料金の決済には、ストライプ(Stripe)のアカウントを利用している。ブリズエラ・ノーサフト氏によると、誰がどのエピソードを聴いているかという分析データにアクセスできるため、このデータに基づいてコンテンツ制作の方針を決めるという。人気番組の「ポッド・セーブ・アメリカ(Pod Save America)」で3つの定額プランを用意しているが、契約件数などについては開示されなかった。
使いやすさで勝るApple、Spotify
一方、AppleやSpotify以外のプラットフォームでサブスクリプションを提供する場合、そこにはユーザーのストレスという問題がつきまとう。ポッドキャストのリスナーの大半は、SpotifyやAppleのポッドキャストアプリを利用している。これらのアプリでポッドキャストのサブスクサービスを購入するのはごく簡単で、(とくにAppleポッドキャストでApple Payを利用する場合は)数回のクリックで完了する。
ほかのプラットフォームには、リスナーがクリックでポッドキャストのショーノートにたどり着き、ランディングページへのリンクを見つけるか、あるいはポッドキャストのWebサイトに直接アクセスして登録しなければならないという難しさがある。実際、本稿執筆のために取材したポッドキャストネットワークのほとんどすべて(クルックトメディアを除く)がAppleとSpotifyでサブスクリプションを販売し、補完的にサポーティングキャストやスーパーキャストといったサードパーティのプラットフォームを活用していた。
また、サポーティングキャストのスターン氏は、「パブリッシャーにとっては余計な手間が増えることにもなる」と述べ、「忘れずにショーノートにリンクを設置したり、ポッドキャスト番組のなかで登録ページのURLを読み上げたりしなければならない」という。とはいえ、それはポッドキャスターたちにとって大きな問題ではないようだ。
新興のサブスクリプションプラットフォームの動向
ベッチェスメディア(Betches Media)は6月、Webサイトのリニューアルに合わせて、パブリッシャーのスレート(Slate)が運営するサポーティングキャストと連携して、サブスクリプションの提供を開始する。ベッチェスのデヴィッド・シュピーゲル最高収益責任者(CRO)は、「リスナーをWebサイトに誘導できることは大きな強みで、Webページの閲覧者増に貢献する」と述べている。
サポーティングキャストとの提携について、シュピーゲル氏はさらにこう語った。「価格設定、番組のバンドル、さまざまなオプションなど、柔軟性が高い。顧客関係もこちらが主導権を持って管理できる。たとえば、リテンション戦略やメッセージの配信、マーケティングなどだ。あるいはインセンティブを提供してほかのビジネスに誘導することもできる。シカゴ在住のサブスク契約者に、『3ヶ月後にシカゴでライブがあります。一般販売に先駆けて特別先行販売を実施します』というようなメッセージを送ることもできる」。
伸び続けるサブスク契約者
ソニーの事業開発およびオペレーション担当シニアバイスプレジデントを務めるエミリー・ラセフ氏によると、ソニーのサブスク契約者の大半はApple経由のユーザーだが、追加的なサブスクリプションプラットフォームとしてサポーティングキャストやパトレオン(Patreon)とも連携しているという。
ラセフ氏によると、ソニーのポッドキャストのサブスク契約者伸び率は前月比で平均10%、前年比で平均150%だという。ソニーは2021年にポッドキャストのサブスクリプションを開始。そしてこの1年で2つのサブスクプランに再構築した。ひとつは常時配信のトーク番組の番組単位のサブスクリプションで、もうひとつは「ザ・ビンジ(The Binge)」という定額聞き放題のプランだ。
限定配信のドキュメンタリーや犯罪実話番組が含まれ、毎月新シリーズも配信される。この2本立ての定額プランにより、サブスク契約者数が全体的に増えているとソニーの幹部は述べている。なお、具体的な数字は開示されなかった。
スターン氏によると、サポーティングキャストで実行されたサブスク契約者によるダウンロード数は、2022年4月から2023年4月までの1年間で205%増加し、有料リスナーは180%増だったという。この半年のあいだに、Qコード(QCode)、テンダーフット(Tenderfoot)、キャストメディア(Kast Media)らがサポーティングキャストでサブスクリプションの提供を開始した。同社と連携するポッドキャストは1000を超え、ヴォックスメディア(Vox Media)も近々中にサポーティングキャストでサブスクリプションサービスを開始するという。
スターン氏はポッドキャストパートナーの売上については言及を避けたが、「年間の売上が数十万ドル規模のサブスクリプションが多く、数百万ドルに達するものもいくつかある」と語った。
バンドル化して売りやすいプラットフォームは?
米公共ラジオ局NPRも、サポーティングキャストと連携して17番組をバンドルした「NPR+」というサブスクプランを全米34市場で販売している。音声プラットフォーム戦略担当バイスプレジデントのジョエル・サッチャーマン氏によると、2023年初頭までに全米に拡大する計画という。NPR+は昨年11月に一部の市場で販売を開始した。NPRのポッドキャストのうち、16番組(昨年は6番組)については番組単位のサブスクリプションも提供しており、こちらはApple PodcastsまたはNPR+のウェブサイトから登録できる(ただし、「プラネットマネー」「プラネットマネー・サマースクール」「ジ・インディケーター」は単一のサブスクプランにパッケージ化されている)。
NPR+の貢献度は高く、NPR加盟局を支援したいという新規登録者が大幅に増えている。NPR+のプログラムマネジャーを務めるレダ・マリッツ氏は、「NPR+に登録を申請した人のうち、64%が新規登録だ」と述べている。なお、NPR+または番組単位のサブスクリプション件数については開示されなかった。
マリッツ氏によると、昨年の今ごろと比較して、番組単位のサブスクリプション件数は2倍以上に増えたという。また、NPRの幹部は「複数の番組をバンドル化したサブスクをAppleやSpotifyで売るのは容易でない」と指摘している(シュピーゲル氏も同じ意見のようだ)。
ポッドキャスト事業の進化と堅実な目標
米DIGIDAYはポッドキャスト企業の幹部に、「サブスクプランを提供するポッドキャストが急増しているのは、インプレッション単価(CPM)と予算の縮小により、ポッドキャスト広告の売上が低迷しているからだろうか?」と訊ねてみた(最近出されたある報告書によると、米国における音声広告収入は2023年第1四半期に前年同期比で5%減少している)。
しかし、本稿執筆のために取材した企業幹部たちの答えは、「直接的な相関関係はなく、むしろポッドキャスト事業の進化によるものだ」というものだった。とはいえ、ポッドキャスターたちは大きなコンバージョン率を狙っているわけでは必ずしもない。リスナーのごく一部がサブスクプランに登録してくれれば、それで目標達成というのが大半のようだ。
「もともと、ポッドキャストのリスナーの1%がサブスクに登録すれば、正当な事業として成立すると考えていた。この数字をクリアしている番組もあれば、まだ至らない番組もある」と、サッチャーマン氏は述べている。また、ソニーのラセフ氏も「2%から5%程度のコンバージョン率を達成できれば上出来」とみているようだ。
[原文:Why podcasters are selling subscriptions through third-party vendors]
Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)