非代替性トークン(NFT)に恒久的な価値を持たせるためには、異なるプラットフォーム、たとえばロブロックス(Roblox)、サンドボックス(The Sandbox)、あるいはディセントラランド(Decentraland)な […]
非代替性トークン(NFT)に恒久的な価値を持たせるためには、異なるプラットフォーム、たとえばロブロックス(Roblox)、サンドボックス(The Sandbox)、あるいはディセントラランド(Decentraland)などのあいだに相互運用性を確保する必要がある。ところが現在、多くのNFT事業者は長期的な価値よりも短期的な宣伝を優先し、相互運用性を考慮した製品設計をおこなっていない。
相互運用性のもっとも基本的な定義に従うなら、それは異なるシステムが相互に通信し、作用しあい、ひとつのまとまりとして機能できることをいう。現代のインターネットの根幹をなすデジタルエコシステムの多くは、電子メールをはじめ、相互運用性を備えている。電子メールの場合、送受信を一元的に管理するシステムがなくても、異なるメールアプリケーションを用いてメールを送信したり受信したりできる。
メタバースの文脈では、相互運用性が担保されていれば、ユーザーは自分のバーチャルアイデンティティやデジタル資産をひとつのプラットフォームから別のプラットフォームへと移行できる。完全に相互運用可能なメタバースであれば、フォートナイト内でゲーム内スキン(キャラクターやアイテムの外観を変えるグラフィック)を購入し、それをマインクラフトやディセントラランドなど、別の仮想世界で使用することが可能となる。
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現状のNFTは単なる一資産
サンドボックスのマチュー・ヌーザレスCEOはこう話す。「メタバースがひとつしかない世界を我々は想定していない。複数のメタバースが世界を構成することになるだろう。そのような世界で我々が成功するためには、プレイヤーやクリエイターがたとえばサンドボックスでアイテムを作成する際、それを別のメタバースで再利用することを想定して作成することがきわめて重要となる。つまり、サンドボックスで作成したアバターが、サンドボックス内のみならず、ほかのウェブサイトでも作成者のアイデンティティとして通用しうるということだ」。
現在あるNFTコレクションの大半は、ボアードエイプヨットクラブ(Bored Ape Yacht Club:BAYC)やクリプトバンクス(CryptoPunks)などの高額かつ有名なコレクションを含め、このようなプラットフォーム横断的な機能を実際に提供しているわけではなく、その真価については将来的なメタバースにおける相互運用性の概念に大きく依存している。BAYCはNFT保有者にオンラインのプライベート空間やオフラインイベントへのアクセスを提供しているが、「退屈なサル」のイラストの主な用途は、Twitterなどのソーシャルプラットフォームに貼り付けるアバターやプロフィール写真くらいのものだ。メタバースが完全に実現されたあかつきには、保有者たちは当然、自分の「サル」を(あるいはミービッツ[Meebits]、クリプトヴォクセル[Cryptovoxels]、レイジーライオン[Lazy Lions]など、ほかのNFTアバターでも良いのだが)、主要な仮想プラットフォームで3次元アバターとして使いたがるだろう。
BAYCを制作したユガラボ(Yuga Labs)はボアードエイプのメタバースで相互運用性をほのめかしてはいるが、一般に名の知られたNFT企業の多くは、NFTを一種の資産分類として扱うだけで、異なるプラットフォームやシステムで活用できる仮想アイテムとは考えていない。確かに、ソーシャルアカウントにプロフィール写真として貼り付けることはできるが、NFTを保有する価値のほとんどは、アバターや仮想世界での名刺として実用することではなく、単にそれを所有することに由来する。
だからといって、ユーザー自身が実用性や相互運用性を求めていないわけではない。NFT保有者の多くはゲームの経験者だ。そしてゲーマーにとって、デジタルアイテムを真の意味で所有し、異なるプラットフォーム間で相互運用できることは、ブロックチェーン技術のもっとも魅力的な応用例のひとつである。また、NFT企業を陰で支えるブロックチェーンの開発者たちも、そのユーザーと同様に、相互運用性の果たす役割がメタバースにとっていかに重要であるかを理解している。にもかかわらず、この相互運用性の実現に注力するものは皆無に等しい。
相互運用性のパズルを読み解く
真の相互運用性に至る道には多くの障害が存在する。おそらく、もっとも明白な障害はデザインの難しさだ。今日ある主要なメタバースプラットフォームはどれをとっても美的センスが大きく異なる。どこでも通用するバーチャルアイテムの設計は困難を極めるだろう。たとえば、レゴのようなブロック状の外観を持つロブロックス向けにデザインされたNFTは、セカンドライフ(Second Life)のようなリアルなプラットフォームでは場違いに見えるかもしれない。さらに、相互運用可能なバーチャルアイテムというなら、現在人気のゲームやメタバースプラットフォームで採用されている、ユニティ(Unity)やアンリアルエンジン(Unreal Engine)といったゲームエンジンに幅広く接続できなければならないが、現代のゲーム開発者たちはこの問題をいまだに解決できていない。
ブロックチェーン技術を用いてゲームを開発するミシカルゲームズ(Mythical Games)のジョン・リンデンCEOはこう話す。「私は以前、アクティビジョンブリザード(Activision Blizard)に在籍していた。コールオブデューティ(Call of Duty)のゲームエンジンには3つの異なるバージョンがあったのだが、正直なところ、兵士のキャラクターをひとつのエンジンから別のエンジンに移すだけでも大変なことだった」。
バーチャルエコノミーの具体化とアイテムをデジタル的に所有してきた伝統を背景に、ゲーム開発者たちは相互運用性という概念についてもあれこれ試行錯誤してはきた。それはゲーム業界がメタバースで幅をきかせる一因ともなっている。その一方で、ブロックチェーン技術が仮想アイテムの販売や所有状況を追跡するのに有効なことは事実であり、メタバースで相互運用性を実装しようと試みる企業の多くは、既存のゲーム開発環境にWeb3の概念を適用することで、これを実現しようとしている。
ゲーム業界からヒントを得る
ポケットフルオブクォーターズ(Pocketful of Quarters:POQ)という企業は、「ゲーム用のユニバーサルトークン」を考案し、ユーティリティトークンをゲーム内通貨として使用できるようにした。ブロックチェーン技術を活用して、ゲーム通貨間の相互運用性を効果的に実現した事例といえる。現時点でこのサービスが使えるのは、基本的にPOQの自家製システムを用いて開発されたゲームだけだが、POQの最高執行責任者(COO)であるティム・テロ氏によると、ゆくゆくは「クォーターズ」と呼ぶ自社のトークンを、フォートナイトのVバックスなど、より有名なゲーム内通貨と相互に交換できるようにしたいという。POQはすでにゲームエンジンであるユニティの認定パートナーだが、テロ氏によると、アンリアルエンジンのすべてのバージョンにも同社のSDK(ソフトウェア開発キット)を連携する予定という。
現在、伝統的なゲーム業界においても、「遊んで稼ぐ(play-to-earn:P2E)」という新たな領域においても、相互運用性の推進を主導しているのはゲーム開発企業だ。P2Eゲームでは、プレイヤーがブロックチェーン対応のゲームを通じて、ゲーム内で獲得した通貨やアイテムと現実世界の通貨を交換できる。
リトルオービット(Little Orbit)は従来からあるゲームパブリッシャーだが、近々中に同社の人気ゲームで警察とギャングの抗争を描く「APBリローデッド(APB Reloaded)」のなかで、ユーザーがNFTを作成したり発行したりできるようにするという。同ゲームのユーザーは2200万人を超え、何千人ものクリエイターがゲーム内で使用するスキンや車両、その他さまざまなアイテムをデザインしている。プレイヤーが自分で作成したアイテムをほかのプレイヤーに販売することもできるようになる。さらに、ほかのゲームでも同様のサービスを展開する計画だという。
いまのところ、リトルオービットの作成ツールは比較的シンプルで、武器、衣服、車両などの既成のバーチャルアイテムを、ユーザーが自分で作成したイラストでラッピングすればよいだけだ。いずれは、ゲーム内経済がより盛んなロブロックスのようなプラットフォームでも、同じコンセプトが採用されるかもしれない。
リトルオービットのマシュー・スコットCEOはこう説明する。「たとえば、あるサードパーティゲームと我々のプラットフォームを連携するとする。プレイヤーAが我々のUGCツールを活用して武器用のNFTスキンを作成し、このスキンをマーケットプレイスでプレイヤーBに販売する。プレイヤーBは購入したスキンをまったく別のゲームで使用できるだけでなく、同じツールキットを用いて武器ではなく車両に使うことも可能だ」。
さらに、主要なゲームタイトルのあいだには、真の相互運用性の実現に逆らう市場原理が働いている。アイテムやゲーム内通貨の相互運用性は、一般的なゲーマーにとっては魅力的な可能性だが、たとえばエピック(Epic)のような巨大なゲーム開発企業にとってはそれほど大きなうまみはない。というのも、彼らのような大手は大勢のオーディエンスをがっちりと囲い込み、デジタルアイテムの販売ですでに年間数億ドル規模の売上を達成しているからだ。「AAA(中堅から大手のゲームパブリッシャー)がプレイヤーのプールを共有したがるとは思えないし、収益化戦略を明かそうとも考えないだろう」とPOQのテロ氏は話す。「むしろそれは企業秘密だ」。
相互運用性の必然性
エピックのような大手ゲームメーカーも、相互運用性がクリティカルマスに到達すれば、これを選択せざるを得なくなると見る向きも一部にはある。
ディセントラランドの共同創設者のひとりであるエステバン・オルダノ氏はこう話す。「一般的に、ブロックチェーンは当事者全員のあいだでグローバルな同期が必要な場合に使われる。ゲームでいえば、フォートナイトのアイテムやロブロックスのアイテム、あるいはユーザーのロブロックス名を単一のステータスとして記録する必要がある。単一のものに変換する必要があるのはこういったものだ。これは誰にとってもメリットのある話だ。ユーザーにとっては、価値の保護という意味でメリットがある」。
メタバースが次第に形をなすなかで、主要なプラットフォームが参画しようとしまいと、相互運用性は必然だと考える人々もいる。相互運用性を受け入れるか否か。その選択如何で、メタバース界のインターネットエクスプローラとなるか、それともネットスケープと同じ末路をたどるのかが決まると、彼らは考えている。
「インターネットの誕生から数年を経て、金融機関や投資顧問会社はようやく電子メールを使えるようになった。ソーシャルメディアが登場すると、古い慣習は破られ、何かをなすのに必要な時間は短くなった」。ブロックチェーン企業のリキッドアバターテクノロジーズ(Liquid Avatar Technologies)でCEOを務めるデヴィッド・ルカッチ氏はそう語る。「それがいまではこんな具合だ。よし、メタバースもNFTもあるのだから、とりあえず頭から飛び込もう。水底に岩があるとしても、それは後で考えればいい」。
[原文:Why NFTs must be transferable between platforms for the industry to survive]
Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)