サードパーティCookieの廃止というGoogleの決断は、独占禁止法違反を主張する数々の訴訟や、米議会による調査を誘発している。そして同社が進めるCookie代替案もまた、規制当局に目を付けられている。
サードパーティCookieの廃止というGoogleの決断は、独占禁止法違反を主張する数々の訴訟や、米議会による調査を誘発している。そして同社が進めるCookie代替案もまた、規制当局に目を付けられている。
2021年1月8日、英競争・市場庁(CMA)は、Googleが推すサードパーティCookie代替案、プライバシー・サンドボックス(Privacy Sandbox)が、「Googleのエコシステムへの、さらなる広告支出の集中につながる」として、調査を開始したと発表した。
データのプライバシー侵害を懸念する行政、および消費者からの圧力を受け、Googleは1年前、世界のWebユーザーの60%以上が利用する同社のブラウザにおいて、 2022年までにサードパーティCookieを廃止する旨を表明した。これが実行されれば、パブリッシャーが運営するWebサイトにおける、コンテンツのパーソナライズやターゲティング広告は、事実上機能しなくなる。ひいては、パブリッシャーがオンライン広告で稼ぐこと、そしてGoogleが膨大なデータと広告マネーを、ウォールドガーデンに流し込むこともできなくなると、アドテクおよびパブリッシャー幹部らはいう。
Advertisement
サードパーティCookieの廃止というGoogleの決断は、独禁法訴訟における反競争的行為の実例として、各所から参照されている。2020年12月に米38州/地域が起こした独禁法訴訟では、「Googleは、圧倒的な情報優位性を戦略的に利用し、同社が介在する手段の使用を拒む、あらゆるパブリッシャーに損害を与えている」との主張がなされた。また、複数のパブリシャーが先頃起こした別の独禁法訴訟では、原告側はCookieに関するGoogleの決断を「排他的」であると強調している。さらに、米連邦議員らも2020年、米下院司法委員会反トラスト(独禁法)小委員会の報告書において、GoogleのサードパーティCookieを巡る方針に独禁法違反の可能性があると、懸念を示した。
一方Googleは、新方式プライバシー・サンドボックスを通じて、サードパーティCookieに代わる、広告ターゲティング、および効果測定の発展的手段を推奨している。同プロジェクトには、ほかのアドテクファームも、オンラインフォーラムWorldwide Web Consortium(ワールドワイド・ウェブ・コンソーティウム)を通じて自由に参画できることなっている。しかし、アドテクプロバイダーおよびパブリッシャーらは、Googleがどこまで他社の考えを受け入れるのかわからないとして、警戒感を募らせている。
「プライバシー・サンドボックスの導入により、Googleは開かれた、相互運用可能なテクノロジーを自社が管理するものと取り替えようとしている」と、ジェームズ・ローズウェル氏は書いている。同氏がディレクターを務める団体、マーケターズ・フォー・アン・オープン・ウェブ(Marketers for an Open Web)の苦言は、CMAが調査をはじめるきっかけとなった。「より多くのマーケターがGoogleのウォールドガーデンに取り込まれることを余儀なくされるだろうし、それはすなわち、独立した、開かれたウェブの終焉を意味することになる」。ローズウェル氏は、モバイル広告/パブリッシングテックを手掛ける企業、51ディグリーズ(51 Degrees)のCEOでもある。
Cookieに代わる新方式に批評家筋は疑問符
表向きは協調を謳われているが、Googleが推すこの新方式はデジタルメディア業界から、そしていまや英政府機関からも、懐疑の目を向けられている。プライバシー・サンドボックスは結局、Googleの管理下にあるからだ。
「Googleは寛大にも、業界も一役担えるようにしてくれた」と、個人情報保護に特化する弁護士事務所チャペル&アソシエイツ(Chapell and Associates)の代表アラン・チャペル氏は、皮肉を込めて語る。「Googleにはこれを、業界のコンセンサスを得たプロジェクト、といわせるべきではない」 。
一方CMAの発表を受けたGoogle幹部は、自らを擁護。「プライバシー・サンドボックスは、当初からオープンな(開かれた)構想だ。我々は今後も、サードパーティCookieを利用しない広告支援による、健全なWebを下支えできる、新たな提案の開発に取り組んでいく所存であり、CMAの関与を歓迎する」と、同社のグループプロダクトマネージャーで、ユーザートラスト&プライバシー部門を率いるチェトナ・ビンドラ氏は書いている。
プライバシー・サンドボックスの調査に関し、CMAのチーフエグゼクティブ、アンドレア・コセリ氏は2021年1月、同庁は「偏見は抱いておらず、現段階では独占禁止法違反の有無について、いかなる結論にも達していない」と発言。さらに同庁は、「今後も、Googleおよびほかの参画企業との関与を続け、今後発展する当該提案において、個人情報保護法および独占禁止違反に関する懸念が、いずれも適切に対処され得るよう働きかけていく」とも語った。
Googleの姿勢は「自社ブラウザ偏重」という指摘も
Googleのサンドボックス計画には、複数のアドテク企業が参画している。しかし、クリテオ(Criteo)をはじめ一部の企業は、これまでのGoogleの姿勢はGoogleブラウザを偏重するものであるとして、同社に対する不信感を募らせてきた。「Googleの提案は、依然としてあからさまにChrome中心であり、クリテオはすでに懸念を表明している」と、クリテオのシニアアナリティクス/プロダクトマネージャー、アーナウド・ブランチャード氏は米DIGIDAYに語った。
加えてブランチャード氏は、広告オペレーションの一部が、ブラウザレベルにおいてデバイス内で行なわれる場合、データストレージおよびプロセッシングの容量はかなりの負荷となるだろうし、それは低容量データプラン契約者に対する、差別になりかねないと指摘。さらに、非Cookieターゲティング/効果測定プロセスに公平性を担保するため、クラウドサービスプロバイダーやSSPといった「独立したゲートキーパー(門番)」を設け、「人々により多くのコントロールと透明性を提供する」ことが望ましいと付け加えた。
Chrome偏重を不安視する声に対し、Googleは先頃、最新のターゲティング方式、FLEDGE(フレッジ)を発表。これについて同社は、広告キャンペーンの入札や、予算に関する情報を保管する「信頼できるサーバ」を利用するとしている。
だが、何をもってサーバが信頼に足ると判断するのか? そして、そのサーバはGoogle、またはほかの組織が管理するのか? 米DIGIDAYの問いにビンドラ氏は、それらはプライバシー・サンドボックスの開発に参画する企業らとともに、パブリックフォーラムでの議論を通じて答えを出していきたいと語り、「FLEDGEは『信頼できるサーバ』の運営について、特定組織の限定も想定もしていない」と付け加えた。
不満の根本は信頼の欠如
プライバシー・サンドボックス開発に関する不満の根本は、Googleに対する信頼の欠如にある。しかし前出のチャペル氏がいうように、つまるところ、我々は信じるしかない。Chromeはユーザーのために最善を尽くしてくれると、Googleが提示する数字は正確だと、Google自身も開かれたウェブを実現する姿勢をとると、そして新方式の始動直後から、ほかのアドテク企業も真の競合力を持てると。
デジタル広告の利用に関して、さらなる支配力をGoogleに与えるものには、それがどんな方式であれ、広告主、パブリッシャー、アドテク企業は皆、大いに眉をひそめる。
「もし、(サーバー運営の)独立性が担保されていれば、正しい方向に向かうための一歩となるだろう」とチャペル氏。「それが誰であれ、Google以外であれば正しい一歩となる」。
[原文:Why Google’s approach to replacing the cookie is drawing antitrust scrutiny]
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)